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2026.08.19

Nethermind が LayerZero の検証者運用から撤退 ― 「設定可能なセキュリティ」における検証者集合は、誰も見ていない信頼前提である

Nethermind が LayerZero の検証者運用から撤退 ― 「設定可能なセキュリティ」における検証者集合は、誰も見ていない信頼前提である

何が起きたか

LayerZero はチェーン間メッセージングのプロトコルで、DVN(Decentralized Verifier Network)と呼ばれる独立した主体が、チェーンをまたぐメッセージの真正性と完全性を検証する。特徴は、どの DVN を何個使うかをアプリケーション側が設定できることである。セキュリティはプロトコルの性質ではなく、統合するアプリケーションの設定値になる。

Nethermind は2023年12月からこの DVN を運用してきた。同社は Ethereum の主要な実行クライアントの一つを開発しており、従業員は200名を超え、Ethereum ノードの25〜30%を担っているとも報じられる。2026年8月19日、同社は DVN 運用から移行し、Chainlink Network にノードオペレータかつ戦略的技術提供者として参加したと発表した。CCIP と Data Feeds の運用を支えるほか、開発者向けのツール、インフラ運用、統合支援を提供するとしている。

発表は「広範なレビュー」を経た判断だと述べているが、レビューの内容は公開されておらず、どの技術的・運用的要因が結論を決めたのかも説明されていない。LayerZero に欠陥があったとは述べておらず、移行の費用や完了時期も開示されていない。

背景には一連の移行がある。2026年4月18日、Kelp DAO の rsETH ブリッジから 116,500 rsETH、当時のおよそ2億9,200万ドル(約464億円、1米ドル=159円、2026年9月2日時点)が流出した。Kelp はこのブリッジを、複数の独立検証者の合意を必要とする構成ではなく、LayerZero Labs 自身の DVN による単一検証者(1/1)で保護していた。この事案の後、BitGo は8月に WBTC のクロスチェーン提供者を Chainlink に一本化し、Wyoming Stable Token Commission は8月18日に Frontier Stable Token を CCIP へ移行した。公表ベースでの LayerZero から Chainlink への移行対象額は、およそ150億ドル(約2.38兆円)に達すると報じられている。Nethermind の発表はその翌日にあたる。

何が問題になっているのか

Kelp の事案で失われたのは、オンチェーンのコードの正しさではない。報道されている経緯によれば、2026年3月6日に攻撃者が LayerZero Labs の開発者をソーシャルエンジニアリングでだましてセッションキーを取得し、同社の RPC クラウド環境への経路を開いた。数か月にわたるオフチェーンインフラへの侵入である。その後、LayerZero の EndpointV2 コントラクトの関数を呼ぶ形で資金が引き出された。

LayerZero は当初、プロトコルは意図どおり動作したとし、Kelp が単一検証者構成を選んだことを指摘した。5月9日にこの立場を撤回し、高額取引に対して自社 DVN が 1/1 として機能することを許したのは誤りだった、自社 DVN が何を守っているかを監督しておらず、見えていなかったリスクを生んだ、と述べている。

ここから読み取るべき設計上の論点は二つある。

第一に、設定可能なセキュリティモデルでは、既定値が上限値より重要になる。プロトコルが 5/5 の検証者構成を許容していても、統合するアプリケーションの多くが既定のまま 1/1 で動かすなら、エコシステム全体の実効的な安全性は既定値で決まる。LayerZero はこの認識に立って、可能な場合は 5/5、最低でも 3/3 へ既定を移行すると表明し、単一検証者で保護されたアプリケーションのメッセージ承認を停止するとした。

第二に、DVN のセキュリティは検証者運用者のオペレーショナルセキュリティによって上限が決まる。オンチェーンのコードをいくら監査しても、検証者の鍵管理やクラウド環境の侵害は検出できない。にもかかわらず、どの主体が検証者集合に入っているかは、その集合に依存する下流のコントラクトからは見えない。統合したときに 3 社だった検証者が、半年後に別の 3 社になっていても、コントラクトの側に変化は現れない。

代替案とのトレードオフ、実装までの距離

Chainlink 側は自らの構成を「セキュア・バイ・デフォルト」と表現し、Chainlink Labs の最高事業責任者 Johann Eid は Nethermind ほどの水準の運用者が参加することを強い signal だと述べている。Nethermind の CEO Daniel Celeda は、次の時代のオンチェーン金融を規定するインフラに対して長期的な賭けをしてきたと説明している。いずれも当事者の見解であり、技術的優劣の判定ではない。

トレードオフは実在する。設定可能なモデルは、アプリケーションが自らのリスク許容度に応じてコスト・レイテンシ・検証強度を調整できる。既定固定のモデルは、設定を誤る余地を減らす代わりに、その調整余地を奪う。どちらが正しいかは、統合者の平均的な習熟度に依存する。Kelp の事案が示したのは、平均的な統合者が既定を上書きして適切な構成を選ぶという前提が成り立たなかった、ということである。

一方で、検証者要件を引き上げることには可用性の代償がある。5/5 を要求すれば、5社のうち1社が停止しただけでそのレーンのメッセージは通らない。運用者を各レーンごとに5社確保し、維持し続ける必要も生じる。少なくとも1社の著名な運用者が離脱を選んだ時点でこの調達は難しくなる。検証強度の引き上げと運用者の確保は、同じ方向を向いていない。

移行そのものも即座には終わらない。Nethermind は移行の進捗を随時共有するとしたが、完了時期は示していない。メッセージ形式、手数料モデル、ファイナリティの扱いが異なる以上、CCIP への移行は差し替えでは済まない。

想定される落とし穴

第一に、自社アプリケーションの DVN 構成はレーン単位の設定である。運用者が離脱した場合、指定していた集合が満たせなくなり、資産の安全ではなく可用性の側で障害が出る。特定の DVN を名指しで指定している構成は、その運用者の事業判断に可用性を委ねている。

第二に、既定値の変更は自動的には適用されない。LayerZero が既定を 3/3 以上へ移行すると表明しても、すでにデプロイ済みのアプリケーションが明示的に 1/1 を設定していれば、その設定が変わるとは限らない。「プロトコルが方針を変えた」ことと「自社の設定が変わった」ことは別である。

第三に、移行先の集中それ自体がリスクになる。公表ベースでおよそ150億ドル相当がひとつの提供者へ移るということは、その提供者の障害や侵害が相関して効く範囲が広がるということでもある。メッセージング提供者の多様性は、それ自体がひとつの安全性の性質である。

第四に、運用者の評判はセキュリティの性質ではない。Nethermind 自身、2026年2月にセキュリティ企業 Octane Security が AI 監査ツールを用いて同社の Ethereum クライアントに高深刻度の欠陥を発見しており、バリデータが報酬を取り逃す可能性があったと報じられている。著名な運用者を集めることは、鍵管理とオフチェーン環境の防御が十分であることを意味しない。

第五に、Nethermind は LayerZero の欠陥を指摘していない。この移行を「LayerZero に問題がある証拠」として社内で共有すると、公開情報が支持していない主張になる。確認できるのは、移行が起きた事実と、その時期が一連の他の移行と重なっているという事実だけである。

【技術インサイトとアクション】

  1. 設定可能なセキュリティを持つメッセージングプロトコルでは、実効的な安全性は「プロトコルが許容する最大構成」ではなく「統合者が実際に選んだ構成」と「既定値」で決まる。監査で確認すべきは、コントラクトのコードではなく、そのレーンに設定されている検証者の数と顔ぶれである。この構造は LayerZero に限らず、検証者・ガーディアン・オラクル集合を外部化しているすべての相互運用レイヤーに当てはまる。 [プロトコル・インテグレーター] 9月中に、自社が利用しているクロスチェーンレーンごとに、現在設定されている検証者の数・具体的な運用者名・閾値を一覧化し、1/1 構成が残っていないかを確認する。1社でも指定運用者に依存しているレーンは、代替運用者を併記する構成へ変更する。
  2. 検証者集合はオンチェーンから見えない信頼前提であり、統合時と現在で構成が入れ替わっていても、下流のコントラクトには何の変化も現れない。信頼前提の変化を検知する仕組みを持っていない限り、リスクは静かに変わる。 [セキュリティ・リスク管理] 検証者・オラクル・ガーディアン集合の構成変更を定期的に取得して差分を記録する監視を、次の四半期までに導入し、構成変更を変更管理プロセスの対象に含める。
  3. 検証強度の引き上げは可用性の低下と表裏である。5/5 を要求する構成は、1社の停止でレーンが止まる。運用者の離脱が続けば、要件の引き上げ自体が調達難で頓挫しうる。安全性の要件を決めるときは、同時に可用性の目標値と、レーン停止時の縮退運用を決めておく必要がある。 [アーキテクト・SRE] 検証者閾値を引き上げる前に、レーン停止時の縮退手順(送金の一時停止、代替経路への切り替え、ユーザー通知)を文書化し、閾値変更と同じ変更単位でレビューする。

【引用:出典】

本記事は公開情報に基づく技術解説であり、投資助言を目的としたものではありません。