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Fireside Crypto
2026年06月25日

Story ProtocolはなぜAIデータへ舵を切ったか──「IPのブロックチェーン」からDATA Foundationへの全面ピボット

Story ProtocolはなぜAIデータへ舵を切ったか──「IPのブロックチェーン」からDATA Foundationへの全面ピボット

何が起きたか:Story ProtocolからDATA Foundationへ

2026年6月25日、IPライセンスのレイヤー1ブロックチェーンとして知られたStory Protocolが、「DATA Foundation」へのリブランドを発表した。ネットワーク名は「DATA Network」となり、ネイティブトークン$IPは新トークン$DATAへ1対1で移行する(保有者の手続きは不要、総供給1B枚の構造は維持)。新たな使命は「すべてのAI訓練データの信頼レイヤー」になること。AIモデルの学習に使うデータの調達・処理・検証・ライセンス・貢献者への対価支払いを担うインフラへと、事業の焦点を絞り込む。同社は10億件超のデータレコードを既に追跡しているとする。

ピボットの理由①:大手権利者がIPのオンチェーン化を拒んだ

Story Protocolは2025年2月に$IPトークンを立ち上げ、a16z Cryptoを中心に総額約1.34〜1.40億ドルを調達。エンタメ・ゲーム領域のIPライセンスの基盤を目指し、一部では著名アーティストの音楽権利のトークン化も実現していた。だが、DATA FoundationのCEOに就くアンドレア・ムットーニ氏(旧社長兼プロダクト責任者)は、価値ある音楽・ゲーム・ブランドを持つ大手権利者が自らの権利を囲い込み、オープンなライセンスに抵抗したことが普及の壁になったと指摘する。旧戦略は、ハリウッドのスタジオや音楽レーベルに「権利をオンチェーンに載せること」を説得する必要があったが、その説得が進まなかった。

ピボットの理由②:AIラボの「データ枯渇」という新市場

もう一つの理由は、需要側の明確なシグナルだ。同社は「フロンティアAIラボは数十億ドル規模のデータのボトルネックに直面し、インターネットは実質的にスクレイピングし尽くされた」と説明する。残された供給は高価で個別的か、法的に未整理で、ラボには大規模にデータを調達し、来歴を証明し、品質を保証する手段がない。AI訓練データを「この時代で最も価値が高く、最も解決されていないIPのカテゴリ」と位置づけた。実際、Storyがインキュベートしたデータ事業Poseidonは2025年にa16z主導で1500万ドルを調達し、IPトークン化より強い需要を示していた。ムットーニ氏は「2025年は無駄ではなく、多くのシグナルと学びを与えてくれた」と総括する。

新戦略の構成:Trace・Poseidon・Kled

新ネットワークは3つの要素で構成される。第一に「Trace」は、データセットの来歴と許諾を記録するオンチェーンの登録簿(オーディット基盤)で、AI企業がデータセット全体を検証し、貢献者が自らの利用条件を行使できるようにする。第二に「Poseidon」はプロトコルの「処理レイヤー」を担い、IPクリア済みの構造化された実世界データを供給する。第三に「Kled」は人間データのマーケットプレイスで、人々が身の回りの動画や環境音を撮影・収集して対価を得る仕組み。15億件超のユーザーレコードをオンチェーンに載せ、DATAの「フラッグシップ・アプリ」となる。加えて秘匿データ用の「Confidential Data Rails」が2026年第3四半期にメインネット投入予定だ。創業者のSYリー氏(顧問に就任)は「この時代の最重要IPは、外科医の手の動き、ロボットの把持、人々の話し方・運転・労働といった、スクレイピングできないデータだ」と語り、実世界・ロボティクス・空間データへの照準を鮮明にしている。

新ターゲットの可能性:市場規模と規制の追い風

狙う市場は急拡大している。AI訓練データのライセンス市場は2025年の48億ドルから2034年に226億ドルへ、年率18.8%で成長する見通しで、2026年には専有・個別交渉型のライセンスが市場収益の55%超を占めると予想される。EU AI法(2026年に完全施行)が訓練データの来歴・透明性を義務づけるなど、米欧日加の規制がオーディットトレイル需要を押し上げる。買い手はハイパースケーラーや基盤モデル開発者(OpenAI、Anthropic、Google DeepMind、Meta等)、医療・自動車・金融といった企業群だ。スクレイピングへの反発(訴訟、robots.txtを巡る攻防)も、来歴証明型の調達を後押しする。DATAの差別化は、来歴・許諾・支払いをオンチェーンで一体化し、「権利がデータと共に移動する」点にある。Scale AIやGetty Images、Thomson Reuters等の中央集権型プロバイダーや、分散型のVana・Ocean Protocolらとの競争に挑む。

リスクと論点

課題も多い。来歴があっても行使可能な許諾がなければ意味をなさず、許諾があっても検証可能な来歴がなければ脆弱で、両者の整合が前提となる。規制がTraceのライセンス設計を追い越す可能性、トークン価格の話題が製品規律を覆うリスク、仕様が過度に規定的だとラボが摩擦を嫌い相対契約を選ぶ「ベンダーロックイン忌避」も指摘される。トークンは2025年9月の最高値14.78ドルから一時0.275ドルまで約98%下落し、リブランド時で約0.34ドル(時価総額約1.2億ドル)。発表直後は12〜17%上昇したが、3月開始の初期投資家・コア貢献者のアンロックが売り圧力となってきた。主要AIラボが実際に採用するかが、ピボットの成否を決める。

【事業開発に関するインサイト】

  1. ピボットの本質は「説得対象の転換」——権利者から需要者へ。旧IP戦略は、権利を囲い込みたいハリウッドや音楽レーベルに「オンチェーン化」を説得する供給側アプローチで行き詰まった。新戦略は、データに飢え自ら調達を急ぐAIラボという能動的な買い手を狙う。説得の方向を180度転換し、抵抗の強い供給側から、予算と切迫感を持つ需要側へ軸足を移した点が要諦だ。プロダクトマーケットフィット探索の教科書的な再配置といえる。
  2. 差別化は「スクレイピングできない実世界データ」×「来歴・許諾・支払いの一体化」。汎用ウェブデータが枯渇するなか、外科医の手の動き・ロボットの把持・運転といった人間が生成する高コンテキストな物理データに焦点を当てた。来歴(Trace)・処理(Poseidon)・人間データ市場(Kled)を縦に統合し、「権利がデータと共に移動する」設計で、Scale AIやGettyら中央集権型、Vanaら分散型と差別化する。ロボティクス・空間コンピューティングという次世代AIの最前線に賭けている。
  3. 成否は「規制の追い風」を「企業契約」に変換できるか。EU AI法によるデータ来歴の義務化など制度はオーディットトレイル需要を生むが、それが直ちにDATAの採用につながるとは限らない。最初の10社、次の100社の企業顧客を獲得できるかが、98%下落したトークンの物語を実需に変えられるかの分岐点だ。Immutableやコインベース等もAIへ転換するなか、暗号資産プロジェクトのAIピボットが本物の事業に化けるかが、市場全体で問われている。

【引用:出典】

監修

石田陽之(いしだあきひさ)

Cabinet株式会社 代表取締役

2017年より、一貫してトークンやNFTの活用、ブロックチェーンゲームの企画・開発、NFTを活用した事業開発に従事。大手エンタメ上場企業を始め、80件以上のブロックチェーンプロダクトに対し事業責任者や設計、PM、アドバイザー等、様々な立場でブロックチェーン関連の事業開発に関わってきた。2021年よりCabinet株式会社を創業。

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