「暗号資産管理関係業務提供者」制度の新設 — 改正金商法が描く届出制サプライチェーン規制の全貌

法案の位置付けと背景
改正法案は、暗号資産規制を資金決済法から金商法に移管する大改正の一環として、新たに改正金商法第3章の6に「暗号資産管理関係業務提供者」を位置付ける。本制度は、2025年12月の金融審議会WG報告で「重要システム提供事業者」として議論されてきた論点を条文化したものであり、利用者財産の安全管理強化策として①暗号資産取引業者(旧称:暗号資産交換業者)の安全管理義務の法定化、②重要システム提供者への事前届出制、③暗号資産取引業者の委託先選定制限の3点を、サプライチェーン規制として一体化したものと読める。
「暗号資産管理関係業務」の射程
法案は、暗号資産取引業者向けに、顧客資産の管理に必要な情報システムを継続的に利用させる業務、その情報システムの保守・管理を委託として受託する業務、これらに関連して内閣府令で定める業務委託を、まとめて「暗号資産管理関係業務」として位置付ける。いずれも暗号資産取引業者を相手方とする業務であり、一般利用者向けの直接サービスは射程外である。具体的範囲は内閣府令に委任されており、ウォレットソフト、MPC基盤、HSM、署名オーケストレーション、ノード/RPCインフラのどこまでが捕捉されるかが最大の論点となる。
二層規制構造 — 委託元と提供者の双方を捕捉
本制度の最大の特徴は、提供者側のみならず、委託元である暗号資産取引業者側にもハードルールを課す点にある。改正金商法第43条の13により、暗号資産取引業者は暗号資産取引業の一部を委託する場合、二以上の段階にわたる委託を含む委託先の指導や品質管理に必要な措置を講じる義務を負う。これにより、クラウド・ノードインフラ・カストディ技術サプライヤーなど階層化されたサプライチェーン全体の管理責任が暗号資産取引業者に帰属する。提供者側には事前届出制と業務管理体制・情報安全管理措置義務などが課される。これは欧州のEU DORA(Digital Operational Resilience Act)における重要ICT第三者提供者制度に類似するアプローチである。
周辺規制との一体的設計
本制度は単独で機能するのではなく、改正金商法における他の規制と一体的に設計されている。責任準備金の積立て(改正金商法第46条の5)により、暗号資産取引業者は管理する暗号資産の残高に応じた補償原資の積立義務を負う。また、利用者から暗号資産の借入れを行う業務(レンディング・ステーキング向け借入れ)が暗号資産取引業の対象に追加され、信用リスク管理体制等の整備が求められる。これらが組み合わさって、利用者財産保護の重層的な防衛線を形成する。
施行スケジュールと内閣府令への委任
金融庁公式説明資料によれば、暗号資産規制の見直しは公布後1年以内に施行される予定である。サステナビリティ情報の開示・保証(令和9年4月1日施行)やスタートアップ資金供給促進(令和9年10月1日施行)とは異なる施行スケジュールとなる。法案の骨格は法律で定める一方、実務上クリティカルな多くの要件は内閣府令・政令に委任されており、対象「情報システム」の射程、委託元の選定・指導の具体、提供者の財産的基礎水準・体制要件、施行・移行措置の詳細が下位法令で確定する。
事業開発に関するインサイト
1. 「重要システム提供事業者」から「暗号資産管理関係業務提供者」への呼称変更が示す制度設計の転換
WG段階の機能ベースの呼称から、業務ベースの呼称へと変更されたことは、捕捉対象を「特定システム」から「情報システムの継続的提供・保守・運用受託という業務行為」へとシフトさせる意図を読み取れる。これにより、ハードウェア/ソフトウェアの形態に依存しない技術中立的な規制設計が可能となる一方、SaaS型・クラウド型・MPC型の各事業形態が等しく射程に入る可能性が高まる。
2. 内閣府令で定める「情報システム」の射程が事業者の生死を分ける
「顧客の暗号資産の管理に必要な情報システム」をどう線引きするかが最大の論点である。署名鍵を直接扱うウォレットソフトとHSMが含まれることは確実だが、トランザクション検査・署名オーケストレーション基盤、ブロックチェーンノード/RPCインフラ、KYC/AML連携系といった周辺レイヤーまで及ぶかは未確定。届出義務の有無は事業の参入障壁・運営コスト・契約条件のすべてに直結するため、パブリックコメント期における業界からの意見発信が事業価値を左右する。
3. EU DORA型のサプライチェーン規制への接続が国際展開を有利にする
本制度はEU DORAの重要ICT第三者提供者制度と構造的に類似し、グローバルな技術提供者にとっては、日本での届出取得が欧州規制対応へのスプリングボードとなり得る。逆に欧州での重要ICT第三者提供者指定を受けた事業者が日本市場に参入する場合、日本の届出取得が比較的スムーズになる可能性がある。日欧の規制相互運用性が、暗号資産インフラ事業者の国際競争力を左右する新たな軸となる。
出典
- 金融庁「国会提出法案等」(金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案・概要・説明資料)https://www.fsa.go.jp/common/diet/index.html
- 金融庁「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案 説明資料」(2026年4月)https://www.fsa.go.jp/common/diet/221/02/03.pdf
- 金融庁・金融審議会「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」資料一覧https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/angoshisanseido_wg/angoshisanseido_wg_index.html
- 金融庁「金融審議会 暗号資産制度に関するワーキング・グループ 報告」(2025年12月10日)https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20251210/01.pdf
- European Banking Authority "Digital Operational Resilience Act (DORA)"https://www.eba.europa.eu/regulation-and-policy/digital-operational-resilience-act-dora
- e-Gov法令検索(金融商品取引法)https://elaws.e-gov.go.jp/
石田陽之(いしだあきひさ)
Cabinet株式会社 代表取締役
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