予測市場の精度は「群衆の知恵」ではない――Polymarket全取引データが示した、3%の情報優位者による価格発見

検証された通説「群衆の知恵」の限界
Polymarket、Kalshi、Robinhoodの各CEOは、予測市場の精度を「群衆の知恵(Wisdom of Crowds)」によるものと一貫して説明してきた。本研究はこの通説をKyle (1985)型モデルで定式化したうえで、Polygonブロックチェーン上に記録された全取引データを用いて統計的に検証した。
研究チームは「サイン・ランダム化テスト」と呼ばれる新たな統計手法を開発。各口座の実際の取引方向(買い/売り)をイベント単位で1万回シミュレートし、運と実力を分離した。結果、172万口座は5グループに分類された:熟練勝者(3.14%)、幸運な勝者(29.0%)、不運な敗者(61.4%)、未熟な敗者(6.4%)、マーケットメイカー(0.1%)。
価格発見は3%の情報優位者が担う
熟練勝者とマーケットメイカーの合計はわずか3.5%だが、利益総額の30%以上を獲得。1口座あたり平均利益は熟練勝者で3,255ドル、マーケットメイカーで11,832ドル。一方、損失の全額は67%の敗者層が負担しており、ゼロサム構造が明確に確認された。
特筆すべきは「スキルの持続性」である。訓練データで熟練と分類された口座の44%が検証データでも熟練を維持。これはアクティブ投資信託(10%)の4倍以上の持続性であり、運ではなく構造的な情報優位性を示唆する。FOMC声明や企業決算発表時の即時反応でも、熟練勝者のみが情報サプライズの方向に正しくポジションを取っていた。
インサイダー取引リスクの顕在化
論文は、2026年1月のベネズエラ・マドゥロ大統領拘束作戦に関連した3つの口座が、作戦実行直前に開設・大量取引を行い63万ドル超の利益を得た事例を分析。米CFTCは2026年4月、米陸軍現役軍人によるインサイダー取引で告発を行った。予測市場は規制が緩く匿名性が高いため、こうした事案への対応が業界共通の課題となる。なお、Polymarketの月次取引高は2023年12月の330万ドルから2025年12月の19.8億ドルまで約600倍に拡大しており、規制上の論点は今後さらに顕在化する見込みである。
【事業開発に関するインサイト】
- 情報シグナル提供サービスの市場機会:熟練3%の取引フローは「平均的な群衆の声」よりはるかに価値が高い情報源である。エネルギー商社が原油市場でPolymarketデータを参照し始めている動きが確認されており、機関投資家・コーポレート向けに熟練トレーダーのオーダーフロー指標を抽出・配信するB2B情報プロダクトには、構造的な需要が存在する。
- スキル可視化型コピートレード/投資商品:単純な実現損益(PnL)ベースのランキングは「幸運な勝者」を真の実力者と誤判定する(うち60%が次期に損失転落)。論文のサイン・ランダム化手法に基づくスキル・スコアを実装したコピートレード基盤や、熟練トレーダー連動型のインデックス商品は、Web3ファンド領域で明確な差別化要素となる。
- コンプライアンス・テックの需要拡大:「タイミング(直前口座開設)×コンビクション(単一イベント集中ポジション)」の二軸異常検知ロジックは、米国の予測市場規制議論が進む中、取引所自身が導入を求められる可能性が高い。オンチェーン分析企業(TRM Labs、Chainalysis等)にとってインサイダー検出は次の主要収益源候補となる。
【出典】
- Gómez-Cram, Guo, Jensen, Kung (2026) "Prediction Market Accuracy: Crowd Wisdom or Informed Minority?", SSRN Working Paper ID 6617059
- TRM Labs "How Prediction Markets Scaled to USD 21B in Monthly Volume in 2026" (2026年3月)
- Cointelegraph "Prediction markets reflect 'wisdom of an informed minority,' not crowd: Study" (2026年4月)
- The Block "Skilled Polymarket traders are a 3% minority" (2026年4月)
- Polymarket公式統計ページ
石田陽之(いしだあきひさ)
Cabinet株式会社 代表取締役
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