Visaが対応チェーンを9本に拡大──ステーブルコインは「決済の裏側」を奪う段階へ

何が起きたか
Visaは4月29日、グローバル・ステーブルコイン決済パイロットに5つのブロックチェーンを追加すると発表した。新たに対応するのはArc(Circleが開発するLayer-1)、Base(Coinbase系)、Canton(規制対応の機関投資家向け)、Polygon、Tempoの5本。既存のAvalanche、Ethereum、Solana、Stellarと合わせて計9チェーンとなり、発行体(Issuer)と加盟店契約会社(Acquirer)が選択できる決済レールの幅が一気に広がった。年率換算の決済ランレートは70億ドル(約1.05兆円)で前四半期比50%増、Visa傘下のステーブルコイン連動カードプログラムは50カ国超で130件以上稼働している。
Polygonが「決済用チェーン」として頭角
今回特に注目されるのがPolygonの実績だ。同チェーンはUSD建てステーブルコイン送金の34%、USDC送金では54%(他全チェーン合計を上回る)、グローバルUSDC取引の36%を処理しており、週次アクティブ利用者は約319万人、オンチェーンのステーブルコイン供給残高は36.2億ドル(約5,430億円)。3月単月のUSDステーブルコイン取引件数は1億7,810万件に達した。汎用L1ではなく「ペイメント特化L2」がクロスボーダー決済の本命候補に浮上している構図だ。
業界全体の現在地
ステーブルコイン市場は2026年Q1時点で総供給3,150億ドル(約47兆円)規模に到達。四半期取引高は28兆ドル(約4,200兆円)で、VisaとMastercardの合計を上回るスケールに到達した。USDTが約1,870億ドル(約28兆円、シェア約60%)、USDCが約780億ドル(約11.7兆円)で、特にUSDCが2023年末比220%成長と機関投資家・B2B決済領域で急伸している。米国では2025年7月にGENIUS Actが成立し、1対1の準備資産・破綻時の優先弁済・OCC監督を柱とする連邦レベルの制度が確立。MastercardのBVNK買収(最大18億ドル)、StripeのBridge買収(11億ドル)と並び、Visaの今回の動きは「カード網がステーブルコインを敵ではなく自社ネットワークの裏側に取り込む」戦略の到達点といえる。日本でもJPYCが2025年10月に発行を開始し、Polygonに対応している点は地政学的に示唆的である。
【事業開発に関するインサイト】
- 「マルチチェーン前提」がインフラ要件に確定 ── 単一チェーンでの最適化は意味を失った。決済関連プロダクト・トレジャリー機能・カード発行を企画する企業は、チェーン非依存の抽象化レイヤー(ウォレット・SDK・コンプラ)に投資すべきタイミング。Visaが「共通の決済レイヤー」を提供するポジションを取ったことは、各社にとってチェーン選定リスクを下げる追い風になる。
- Polygon+USDCの実質スタンダード化を前提に商品設計せよ ── USDC送金の54%がPolygon上で発生している事実は、B2B越境送金や加盟店向けペイアウトの設計において「Polygon+USDC」を第一選択肢とする合理性を示す。日本円⇄USDCのオンランプ/オフランプを持つ事業者(SBI×Circleなど)と、JPYC(Polygon対応)を組み合わせれば、円建て請求+ドル建て決済というハイブリッド構成が現実解になる。
- 「カード×ステーブルコイン」のレント獲得競争は終盤戦 ── Mastercard(BVNK)、Stripe(Bridge)、Visa(Bridge提携+自社パイロット)の動きは、決済の「裏側のレール」を握る最後の椅子取りゲームに突入している。日本企業がこの領域で存在感を出すには、JPYC・Progmat Coin・SBI×Startale(JPYSC、2026年Q2予定)といった国産インフラを束ねるアグリゲーション層、もしくはアジア太平洋(AP)地域でのクロスボーダー回廊運営にポジションを取るのが現実的な打ち手となる。
【出典】
- Visa公式プレスリリース(2026年4月29日): https://corporate.visa.com/en/sites/visa-perspectives/newsroom/visa-expands-stablecoin-settlement-adds-five-blockchains.html
- CoinPost: https://coinpost.ai/ja/topics/104405
- CoinDesk: https://www.coindesk.com/business/2026/04/29/visa-expands-stablecoin-settlement-network-as-volume-hits-usd7-billion-run-rate
- PYMNTS: https://www.pymnts.com/visa/2026/visa-adds-5-blockchains-as-stablecoin-settlement-volume-surges/
- Bitcoin.com News(Polygon指標): https://news.bitcoin.com/visa-scales-stablecoin-rails-to-nine-networks-as-partners-cite-real-world-demand/
- Stablecoin Insider Q1 2026 Report: https://stablecoininsider.org/q1-2026-stablecoin-report/
- KuCoin(市場規模・USDC成長): https://www.kucoin.com/news/flash/stablecoin-supply-reaches-315b-in-q1-2026-as-usdc-surpasses-usdt-in-growth
- Standard Chartered予測(CoinDesk): https://www.coindesk.com/business/2026/02/23/u-s-treasury-may-boost-t-bill-issuance-as-stablecoins-eye-usd2-trillion-market-cap-stanchart
- White House GENIUS Act ファクトシート: https://www.whitehouse.gov/fact-sheets/2025/07/fact-sheet-president-donald-j-trump-signs-genius-act-into-law/
- 日本のステーブルコイン制度(NRI): https://www.nri.com/jp/media/column/kiuchi/20250905_2.html
石田陽之(いしだあきひさ)
Cabinet株式会社 代表取締役
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