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2026年05月01日

商標権NFTによる酒蔵投資、約1年で事業終了──「Sake World酒蔵投資」が露呈したRWAスキームの構造的脆弱性

商標権NFTによる酒蔵投資、約1年で事業終了──「Sake World酒蔵投資」が露呈したRWAスキームの構造的脆弱性

プロジェクトの基本構造

2025年3月17日に提供を開始した「Sake World酒蔵投資」は、商標「Sake World」の共有持分を1口5,500円(税込/約37 USD)で小口化し、NFT形式の「商標トークン」として販売するスキームである。総発行口数は1,000万口、販売目標は約22億円(約1,470万USD)。購入者は、グループ会社のSake World牧野蔵(岡山県)が出荷する日本酒の課税移出量1ミリリットルあたり0.3円(一升瓶1本あたり約540円/約3.6 USD)を、持分割合に応じて50年以上にわたり配当として受け取る権利を得る。配当は暗号資産(Polygon系のPOLを予定)で支払われる設計で、初回配当は2027年1月予定とされていた。

法的整理 ── 「商標権の共有持分」というグレーゾーン

本スキームは、形式上は「商標権の譲渡」と「商標使用料に基づくロイヤリティ受領」と整理することで、金融商品取引法(金商法)2条2項5号の集団投資スキーム持分への該当性を回避する設計と推察される。出資された資金で事業を行い、その収益を投資家に分配する仕組みは、原則として「電子記録移転権利」(金商法2条3項)として有価証券扱いとなり、自己募集を行う場合は第二種金融商品取引業の登録が必要となる。一方で、購入者が事業収益(出荷量連動配当)を実質的に享受する点や、ロイヤリティが特定の酒蔵の売上と一体化している点を踏まえると、規制当局の解釈次第ではファンド該当性を否定しきれない論点も残る。運営側は「外部法律事務所の確認を経た」と説明していたが、形式と実態の乖離が表面化した。

炎上の引き金 ── 高利回り表示と無断掲載

発火点は2026年4月28日、X上のインフルエンサーが、公式サイトの想定利回り(6年目以降で年率約35%、21年目以降で約85%)を非現実的と指摘し、詐欺の疑いを示唆した投稿である。翌29日には群馬・土田酒造が「投資について一切関知していない」とX上で声明を発表。京都・松井酒造、山形・香坂酒造、栃木・天鷹酒造、京丹後・ハクレイ酒造などが相次いで関与を否定した。サイトには55の酒蔵が「協力酒蔵」として掲載されていたが、実態は過去のNFT販売・原酒ブレンド取引の実績はあれど、本投資商品への明示的同意は取得されていなかった。約1年にわたり同意なきブランド借用が放置されていた事実が、消費者と酒蔵双方の信頼を一気に毀損した。

事業休止の構造的要因

本件の本質は、①過剰な利回り表示、②協力酒蔵リストの無断利用、③規制設計の脆さという三層の不備が同時に顕在化した点にある。会社側は詐欺意図を否定し全額返金の方針を示したが、伝統産業との信頼関係を前提とする本スキームでは、毀損された信頼の回復は事実上困難であった。

【事業開発に関するインサイト】

  1. RWA設計はリーガルレビュー単独では不十分 ── 商標権持分の小口化は集団投資スキームの形式回避には有効だが、実態として収益分配を伴う以上、当局解釈リスクは残る。法的整理に加え、開示水準・利回り表示の合理性まで含めた「投資商品としての適格性」を独立第三者が検証する体制が必須となる。
  2. 「協力者リスト」は最大のオペレーショナルリスク ── 過去の取引関係を新規スキームへの暗黙の同意と読み替えた結果、55蔵すべてからの関与否定リスクを抱え込んだ。パートナーシップは目的別に明示的同意を取得し、文書化と定期的な再確認プロセスを内部統制に組み込むことが不可欠である。
  3. 長期高利回りシミュレーションは炎上の発火装置となる時代 ── Web3/RWA文脈において「年率85%」「50年配当」といった表示は、もはや訴求材料ではなく詐欺シグナルとして読まれる。シミュレーションは保守的前提と下方シナリオを並列提示することが、信頼設計の前提条件となる。

【出典】

  • NADA NEWS「酒蔵からの『関与否定』相次ぎ──日本酒商標NFT『Sake World酒蔵投資』が事業終了」2026年4月30日
  • coki「Sake World酒蔵投資 著名酒蔵名無断使用で信頼性に疑問の声 1年超放置の末SNSで急削除」2026年4月29日
  • CoinDesk JAPAN/あたらしい経済「商標権の小口化NFTで5500円から酒蔵投資が可能に──『Sake World』提供」2025年3月17日
  • リーフ・パブリケーションズ プレスリリース(PR TIMES)2025年5月1日
  • ハクレイ酒造公式ホームページ 2026年4月28日付お知らせ
  • BUSINESS LAWYERS「【弁護士が解説】NFTは金融規制上どのような法的位置付けになる?」アンダーソン・毛利・友常法律事務所
  • PwC Japan「NFTに関連する法規制と私法的な法律関係」
  • 一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)「NFTビジネスに関するガイドライン」
監修

石田陽之(いしだあきひさ)

Cabinet株式会社 代表取締役

2017年より、一貫してトークンやNFTの活用、ブロックチェーンゲームの企画・開発、NFTを活用した事業開発に従事。大手エンタメ上場企業を始め、80件以上のブロックチェーンプロダクトに対し事業責任者や設計、PM、アドバイザー等、様々な立場でブロックチェーン関連の事業開発に関わってきた。2021年よりCabinet株式会社を創業。

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