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2026年05月01日

「トークン化預金」と「預金トークン」──Datachainが示した概念整理と日本実装への羅針盤

「トークン化預金」と「預金トークン」──Datachainが示した概念整理と日本実装への羅針盤

概念整理:似て非なる2つの概念

レポートが最も強調するのは、用語の混同を解くことだ。トークン化預金(Tokenized Deposit)は、銀行が顧客に対して負う「既存の預金債務」を記録する台帳をDLT(分散型台帳技術)に置き換えたもので、DLT上の記録は預金債権の表示方法の一形態にすぎない。残高更新や移転処理は銀行の台帳体系・契約関係に基づく。一方の預金トークン(Deposit Token)は、預金債権を「分割・移転可能なデジタル単位」として再構成したもので、DLT上のトークン移転がそのまま価値移転として機能する。要するに、前者は「台帳のデジタル化」、後者は「価値そのもののトークン化」と捉えると分かりやすい。

3つのアーキテクチャ類型

DatachainはEBAが2024年12月に公表した「Report on Tokenised Deposits」を参照しつつ、預金債権の記録主体(従来台帳かDLTか)と、DLT上の記録が法的に預金債権と認められるかという2軸で、実装モデルを以下の3類型に整理した。①DLT単一台帳型:既存の銀行勘定系をDLTに置き換える根本的な構成。②トークン変換型:従来の預金口座から資金を引き出し、DLT上のトークン(電子マネートークン等)に変換して利用する。③並列型:従来台帳とDLTを並行運用し、双方の残高を預金債権として扱う。

日本実装の法的論点

レポートは中長期的には預金トークンを目指しつつ、現行制度下では「トークン化預金」の社会実装が急務だと指摘する。最大の論点は、ブロックチェーン上に記録された顧客の権利が銀行法・預金保険法上の「預金債権」として認められるかという点だ。実例として、ディーカレットDCPのDCJPYは銀行発行型のトークン化預金として既に商用化され、SBI証券・大和証券らが2025年8月にセキュリティトークンとのDVP決済を実証、ゆうちょ銀行も2026年度中の提供開始を表明している。海外ではJ.P. Morganが2025年11月、米ドル建て預金トークン「JPM Coin(JPMD)」をパブリックチェーンBase上で機関投資家向けに本格展開した。日本が国際的潮流に取り残されないために、概念・法務・技術を一気通貫で整理した本レポートの意義は大きい。

【事業開発に関するインサイト】

  1. 「台帳のデジタル化」と「価値のトークン化」の戦略的使い分け:トークン化預金は既存銀行業務との接続性が高く短期実装に向く一方、預金トークンはP2P転々流通が可能でプログラマブル金融との親和性が高い。プロダクト設計時には、ユースケース(B2B決済か、デジタルアセット決済か、Web3連携か)に応じてどちらのモデルを採るかを最初に明確化すべきである。
  2. 預金保険・付利の有効活用:トークン化預金はステーブルコインと異なり預金保険の対象となり、銀行預金として付利も可能となる点が機関投資家・大企業への訴求力となる。J.P. MorganのJPM Coinが「ステーブルコインとの差別化要因」として利息扱いを明示しているように、法人財務の観点では預金性質の維持が決定的な競争優位を生む。
  3. 証券決済(DVP)・不動産・環境価値など垂直領域での先行優位:DCJPYは既にST決済、環境価値取引、賃料決済(シノケングループ)などで実証が進む。EBAレポートが指摘するとおりEEA域内ではライブ事例はわずか1件にとどまる段階であり、特定産業のワークフローに深く組み込んだ「業界特化型トークン化預金」を先んじて構築できれば、グローバル水準でのリファレンス事例になりうる。

【出典】

監修

石田陽之(いしだあきひさ)

Cabinet株式会社 代表取締役

2017年より、一貫してトークンやNFTの活用、ブロックチェーンゲームの企画・開発、NFTを活用した事業開発に従事。大手エンタメ上場企業を始め、80件以上のブロックチェーンプロダクトに対し事業責任者や設計、PM、アドバイザー等、様々な立場でブロックチェーン関連の事業開発に関わってきた。2021年よりCabinet株式会社を創業。

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