Securitize × Computershare──米国株「ネイティブ・オンチェーン化」へ、株式所有の記録基盤がブロックチェーンに踏み出した日

提携の骨子
2026年4月29日、Securitizeは世界最大の名義書換代理人(Transfer Agent)であるComputershareと、米国上場企業がトークン化株式を発行できる枠組みを構築する契約を発表した。新たに導入される「Issuer-Sponsored Token(IST、発行体スポンサー型トークン)」は、合成商品やラップ型のデリバティブではなく、既存株式と並行して発行される実際の株式そのものとなる点が最大の特徴である。投資家は従来のDirect Registration System(DRS)での保有か、デジタルウォレットでの保有かを選択でき、ComputershareはIST保有分についても名義書換代理人として株主名簿を管理し、コーポレートアクション(配当・議決権行使等)を処理する。
両社のプロフィール
Computershare(ASX:CPU)は1978年にオーストラリア・メルボルンで創業、1994年にASX上場し、約11,000名の従業員を擁する世界最大級の株主名簿管理・コーポレートトラスト企業である。S&P500構成企業の約58%、Apple、Tesla、Microsoft、Nvidia、Disney、Coinbase等の株式管理を担っている。
Securitizeは2017年にCarlos Domingo氏とJamie Finn氏が共同創業したトークン化プラットフォームで、運用資産は40億ドル超(約6,200億円超/1ドル=155円換算)。2024年3月にBlackRockが立ち上げた初のパブリックチェーン上のトークン化ファンド「BUIDL」(時価総額約25億ドル)のトークン化を担い、Apollo、KKR、Hamilton Lane、VanEck等を顧客に持つ。米国とEU両方で規制下のデジタル証券インフラを運営する唯一の事業者であり、Cantor Equity Partners II(Nasdaq:CEPT)とのSPAC合併によりNasdaq上場(SECZ)を予定している。
歴史的意義──「合成」から「ネイティブ」への転換
これまでのトークン化株式(Robinhoodが2025年夏に欧州で展開した株式トークン等)は、原証券を裏付けにした合成商品が中心だった。今回のISTは、株式の公式登録機関そのものがオンチェーンに踏み込んだ点で本質的に異なる。1970年代以降に進んだ株券の電子化(Dematerialization)以来、株式所有の記録様式における最大級の構造変化と位置付けられる。これはまさに、紙からオンライン、そしてオンチェーンへと進化する象徴的な出来事であると言える。
既存企業がトークン化へ参加する意義
現行規制と整合的な形で、24時間取引、分割所有、DeFi担保活用等の新たな効用が解放される一方、企業と株主の直接対話も維持される。RWA(実世界資産)トークン化市場は2026年4月時点で約276億ドル規模に達しており、インフラ事業者の参入によって流動性と発行体側の参加が加速する局面に入った。
【事業開発に関するインサイト】
- 規制適合型「ハイブリッド発行」が次の主戦場:ISTは既存株式の置換ではなく並行発行であり、規制・既存システムとの摩擦を最小化する設計。日本のST市場でも、ほふり制度と並走するハイブリッド発行モデルが現実的な普及経路となる可能性が高く、提携やインフラ協業の好機となる。
- インフラ企業の参入が「普及の臨界点」を作る:トークン化は新興プレイヤー対既存金融の対立構図から、既存インフラ(名義書換代理人、証券取引所、カストディアン)自身が主導するフェーズへ移行した。SecuritizeはNYSEの24/365トークン化プラットフォーム構築でも提携しており、「インフラ層の取り込み合い」が新たな競争軸となる。
- 上場企業CFOの選択肢拡大とリーガル設計の重要性:S&P500の58%をカバーするComputershareが対応することで、上場企業の検討コストは大幅に低下する。流動性向上、グローバル投資家アクセス、従業員株式報酬の効率化等の効用が見込まれる一方、議決権処理・税務・国際的な証券法対応の設計力が、サービス提供者の差別化要因となる。
【出典】
- Computershare 公式プレスリリース(2026年4月29日): https://www.computershare.com/us/news/transfer-agent-services/computershare-introduces-tokenized-shares-for-us-issuers
- Securitize / PR Newswire 公式リリース: https://www.prnewswire.com/news-releases/securitize-and-computershare-announce-an-agreement-to-enable-tokenized-shares-for-us-issuers-302756568.html
- Securitize SEC Form 425(2026年4月8日): https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1762096/000095010326005524/dp245023_425.htm
- The Block: https://www.theblock.co/post/399390/tokenize-world-securitize-computershare-to-bring-more-stocks-onchain
- Decrypt: https://decrypt.co/365960/computershare-taps-securitize-tokenize-thousands-companies-wall-street
- The Defiant: https://thedefiant.io/news/defi/securitize-teams-up-with-computershare-to-tokenize-u-s-listed-equities
- CoinDesk「Most Influential 2025」Carlos Domingo: https://www.coindesk.com/business/2025/12/17/most-influential-carlos-domingo
- NADA NEWS(原典記事): https://www.nadanews.com/346812/
- RWA市場規模データ(rwa.xyz / Spaziocrypto, 2026年4月): https://en.spaziocrypto.com/rwa/tokenized-rwa-27-billion-institutional-boom-2026/
石田陽之(いしだあきひさ)
Cabinet株式会社 代表取締役
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