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2026年05月07日

BNY、アブダビで機関投資家向け暗号資産カストディを始動──TradFiとデジタル資産を結ぶ中東ハブ戦略

BNY、アブダビで機関投資家向け暗号資産カストディを始動──TradFiとデジタル資産を結ぶ中東ハブ戦略

BNYの規模と暗号資産分野での先行優位

240年以上の歴史を持つBNYは、2026年3月末時点で約59兆4000億ドル(約9207兆円、1ドル=155円換算)の資産を保管・管理する世界最大のカストディアンである。米国のグローバルなシステム上重要な銀行(G-SIB)として最初に暗号資産カストディを提供した実績を持ち、複数のビットコイン現物ETFでカストディアンに採用されている。Robin Vince CEOは2026年3月、暗号資産普及の次のフェーズは大手金融機関が担うとの見解を示しており、今回のアブダビ展開はその戦略を具現化する一歩といえる。

提携相手の構造──IHCグループとソブリン級ブロックチェーン

Finstreet LimitedとADI Foundationは、いずれも運用規模2400億ドル超のIHC(International Holding Company)傘下に位置し、Sirius International Holdingを通じて統括される。FinstreetはADGMで規制を受けたカストディ・決済・流通市場インフラを提供し、ADI Foundationは「ソブリングレード」を標榜するブロックチェーン基盤ADI Chainを運営する。同グループは2025年12月にBlackRockとも、2026年1月にはBlockBoosterともMoUを締結しており、ADGM発の機関投資家向けトークン化エコシステムの中核を担う構図が明確になっている。

ADGMの規制環境──機関投資家特化の「institutional-grade」枠組み

ADGMは英国コモンロー基盤のもとFSRA(金融サービス規制庁)が監督し、トークン化証券、DeFi、AIトレーディングまでカバーする更新ガイダンスを2026年3月に公表。プライバシーコインやアルゴリズム型ステーブルコインを禁じる一方、機関投資家向けの厳格な資本・コンプライアンス要件を備える。2025年12月にはBinanceが同枠組みでグローバル認可を取得しており、UAEは中東随一の規制クリプトハブとして急速に地位を固めつつある。

BNYのデジタル戦略との接続

BNYは2026年1月にトークン化預金を本番稼働させ、Circle、Citadel Securities、ICEなどを早期参加者として獲得した。Goldman Sachsとのトークン化マネーマーケットファンド、Ripple発行のRLUSDのカストディ、BNY Dreyfus Stablecoin Reserves Fundなど、ステーブルコイン・トークン化領域での布陣を多層化している。今回のアブダビ展開は、こうした米国起点のデジタル資産インフラを中東の機関資金プール(ソブリン・ウェルス・ファンドや富裕層資本)へ接続する地政学的な布石である。

【事業開発に関するインサイト】

  1. 「規制アービトラージ」から「規制プレミアム」への転換:ADGMはもはや軽量な規制環境ではなく、機関投資家にとっての信頼性そのものを供給する場へと変質した。日本企業がMENA進出を検討する際、ADGM拠点化はカウンターパーティリスクの低減と機関資金アクセスの両面で実利をもたらし得る。逆に言えば、緩い規制で参入機会を狙う戦略はもはや通用しにくい。
  2. TradFi × ソブリンインフラの「対等連携モデル」:BNYとIHC系列の組み合わせは、グローバル金融ノウハウとソブリン級ブロックチェーン基盤を対等に連携させる新しい類型である。日本のメガバンクや信託銀行が中東展開する際、単なる業務提携ではなく、現地ソブリン系インフラとの構造的結節点を持てるかが市場プレゼンスを左右する。
  3. カストディは収益源ではなく「フライホイールの起点」:BNYはカストディを基点にトークン化MMF、ステーブルコインリザーブファンド、トークン化預金へとバリューチェーンを拡張している。カストディ単独で収益化するのではなく、決済・運用・発行・トークン化を統合する「ハブビジネス」の入口として戦略的に位置付ける思想だ。日本のWeb3事業者・金融機関にとっても、カストディ機能の保有・提携は機関資金フローを取り込むための前提条件となる。

【出典】

監修

石田陽之(いしだあきひさ)

Cabinet株式会社 代表取締役

2017年より、一貫してトークンやNFTの活用、ブロックチェーンゲームの企画・開発、NFTを活用した事業開発に従事。大手エンタメ上場企業を始め、80件以上のブロックチェーンプロダクトに対し事業責任者や設計、PM、アドバイザー等、様々な立場でブロックチェーン関連の事業開発に関わってきた。2021年よりCabinet株式会社を創業。

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