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2026年05月09日

チェーン乱立時代の終焉と「動かない資産」のパラダイム ― トークン経済が招いたロックインを、デリバティブが解く

チェーン乱立時代の終焉と「動かない資産」のパラダイム ― トークン経済が招いたロックインを、デリバティブが解く

1. トークンが生んだベンダーロックインと、チェーンの乱立

ブロックチェーンが独自トークンを発行した瞬間、創業者・VC・バリデータ・初期ユーザーには「自チェーンの繁栄」という強烈な経済的インセンティブが宿る。結果として、技術的差異が小さくとも別チェーンを立ち上げる動機が常態化し、L1だけで時価総額2.96兆ドル規模の競合群が形成された。L2も同様で、Baseに代表される少数の勝者を除き、エアドロップ収束後に活動が枯渇する「ゴーストL2」化が2025年に顕在化している。

2. クロスチェーンの「解」もまた乱立した

分断を埋める役割を期待されたブリッジ・インターオペラビリティ層も、各陣営の思惑から重複的に乱立。2021年6月~2024年9月に49件のブリッジ事件で累計約43億ドルが流出し、2025年上半期だけでもブリッジ経由で15億ドル超(盗難総額の50.1%)が抜かれた。Web3全体のハッキング被害の約40%をブリッジが占め、構造的に「資産を動かす行為」自体が攻撃面となっている。

3. 標準化戦争が技術と人材を希釈する

「自分こそが標準である」と主張する各陣営の闘いは、月間アクティブ開発者2万人強という限られた人的資源を分散させている。2024年時点で34%の開発者が複数チェーンを掛け持ちし、同一機能を別環境に再実装する重複工数が常態化。ネットワーク効果が働く分野で人材が薄く広がる構造は、優秀なエンジニアの集積を阻害する。

4. 新しい前提 ― 「資産は動かさない」

この袋小路に対する現実解が、2025年のデータに表れている。Hyperliquidは年間取引高2.95兆ドル・収益8.44億ドルを記録し、無期限先物DEX全体の年間取引高は約7.9兆ドルへ拡大、デリバティブの暗号資産市場全体に占めるDEX比率も2024年初の2%から10%超へ跳ね上がった。資産はユーザーが信頼するチェーン(自己保管・カストディ・Treasury系RWA)に据え置いたまま、価格エクスポージャーだけをデリバティブで取引する構造である。

5. 「乗せる資産の独自性」がチェーンの優劣を決める

オンチェーンRWAは2022年の29億ドルから2025年末の186億ドルへ、機関投資家主導で約6倍に拡大。BlackRockのBUIDL、Franklin TempletonのBENJI、Apolloの私募クレジット等、ブロックチェーン外では再現不能な「唯一性のある資産」を抱えるチェーンに価値が集まる。今後のチェーン競争は処理速度ではなく、「他のチェーンには存在しないアセット」を獲得・固定化する力で決する。

【事業開発に関するインサイト】

  1. クロスチェーン依存からデリバティブ前提のアーキテクチャへ:資産移動を最小化し、価格エクスポージャー取引で流動性を作る設計に切り替えることで、ブリッジ起因のリスク(年間15億ドル規模の盗難リスク)と監査コストを構造的に削減できる。プロダクト戦略として「無期限先物・オプション・予測市場」を中核に据える事業者の優位性が高まる。
  2. 「アセット獲得力」がチェーン投資の評価軸:L1/L2への参画判断は、TPSやガス代ではなく、当該チェーン上にしか存在しない資産(規制対応済RWA、機関グレードのトークン化国債、独占的な企業発行物)の有無で行うべき。BUIDLが集中するEthereumのようにアセット重力が働くチェーンが事実上の決済層となる。
  3. 「ブランド付き勝者」への集約戦略:L2は技術差ではなく分配チャネルで決まるフェーズに入っている(Base=Coinbase、World Chain=Worldcoin等)。新規チェーンを立ち上げるより、既存上位チェーンに自社プロダクトを深く埋め込み、流動性ハブの一部として機能する戦略が、資本効率・人材獲得の双方で優位となる。

【出典】

監修

石田陽之(いしだあきひさ)

Cabinet株式会社 代表取締役

2017年より、一貫してトークンやNFTの活用、ブロックチェーンゲームの企画・開発、NFTを活用した事業開発に従事。大手エンタメ上場企業を始め、80件以上のブロックチェーンプロダクトに対し事業責任者や設計、PM、アドバイザー等、様々な立場でブロックチェーン関連の事業開発に関わってきた。2021年よりCabinet株式会社を創業。

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