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DeFi
プロジェクト動向
2026年05月10日

Ethena:合成ドルの覇権を狙うDeFi最速成長プロトコルの戦略と岐路

Ethena:合成ドルの覇権を狙うDeFi最速成長プロトコルの戦略と岐路

仕組み:「キャッシュ&キャリー」のトークン化

USDeは銀行預金で裏付けされる従来型ステーブルコイン(USDC、USDT)とは異なる「合成ドル」である。Ethenaはトレーディング戦略「キャッシュ&キャリー」をオンチェーン化し、BTC・ETH・ステーキングETHを担保として保有しつつ、同額の永久先物ショートポジションを構築。担保資産の価格変動とヘッジの損益が相殺される設計により、約1ドルのペッグを維持する。担保は「Off-Exchange Settlement」を通じて取引所外で機関カストディアン(Copper、Komainu、Coinbase Institutional等)に保管され、取引所固有のリスクを最小化する。USDeをステーキングしたsUSDeは、(i)ファンディングレートおよびベーシス収益、(ii)ETHステーキング報酬、(iii)裏付け資産であるステーブルコイン金利を分配する利回り商品として機能する。2024年のETH永久先物ファンディングレートは加重平均で約13%APYだった。

戦略:単一プロダクトから「合成ドル経済圏」へ

Ethenaは2024年2月に1,400万ドル(評価額3億ドル、Dragonfly・Arthur Hayes氏のMaelstrom主導)、2025年2月にFranklin Templeton、Pantera、Polychainから1億ドルを調達。事業を急速に多層化している。2024年12月にBlackRockのBUIDLファンドで90%裏付けされた「USDtb」を投入。2025年3月にはSecuritizeと共同で機関向けEVMブロックチェーン「Converge」を発表し、USDe・USDtbをガストークンに据えた。さらにHyperliquidのUSDH発行入札参加(純利益の95%をHyperliquidエコシステムに還元する提案)、Sui上の「suiUSDe」、機関版「iUSDe」、Aave・Pendleとの「Aavethena」連携など、垂直統合と水平展開を同時に進めている。USDeはPendleのTVLの約60%を占め、Aave上のUSDe関連預け入れは過半を占めるなど、DeFiのイールド・フライホイールを構成する基幹レイヤーへ進化した。

優位性と課題

優位性は、(1)BTC・ETHデリバティブ流動性をネイティブ収益化する利回り設計、(2)BlackRockなどTradFiと連携したリスク分散構造、(3)複数チェーンへ展開可能なSaaS型事業モデルにある。一方、2026年Q1のグロス・プロトコル収益は約6,506万ドル(前期比▲32%)、sUSDe利回りは約3.7%まで圧縮された。USDeの裏付け構成は2025年初頭に永久先物93%だったが、2026年初頭には永久11%・流動ステーブル等89%へとシフトし、実質的に「市場中立ヘッジファンド」から「T-Billラッパー」へ姿を変えつつある。さらに2025年3月、ドイツBaFinはMiCA違反を理由にEthena GmbHを閉鎖させ、EU市場から事実上撤退した。準備金がTVLの約1.18%にとどまる中、ファンディングレート枯渇局面での収益持続性が事業の試金石となる。

事業開発に関するインサイト

  1. 利回り低下局面での「TradFiラッパー化」戦略:USDtb・iUSDe投入によりファンディングレート依存からRWA・短期米国債利回りへ収益基盤を分散させており、市況に応じて担保を切り替える「アダプティブ・モデル」は、ボラタイルな仮想通貨収益を平準化する手法として他社の参考となる。
  2. ステーブルコイン・アズ・ア・サービス(SaaS)の事業可能性:suiUSDeやhUSDe(Hyperliquid版)のように、各チェーン・DEXが独自ブランドのステーブルコインを保有し、Ethenaが裏側を運用するモデルは、Circle/Tether主導の発行構造への明確な対抗軸となる。発行ライセンス・流動性・利回りを「アンバンドル」して提供する点が新しい。
  3. 規制リスクの先行指標としてのBaFin判断:MiCA下では暗号資産のみで裏付けされる合成ドルは資産参照型トークン(ART)として極めて厳格な準備金・組織要件に直面する。Ethenaの欧州撤退劇は、EU市場参入を目指すステーブルコイン発行者にとり、法的構造設計と裏付け資産の質が「合法性の境界線」になることを示す重要事例である。

出典

監修

石田陽之(いしだあきひさ)

Cabinet株式会社 代表取締役

2017年より、一貫してトークンやNFTの活用、ブロックチェーンゲームの企画・開発、NFTを活用した事業開発に従事。大手エンタメ上場企業を始め、80件以上のブロックチェーンプロダクトに対し事業責任者や設計、PM、アドバイザー等、様々な立場でブロックチェーン関連の事業開発に関わってきた。2021年よりCabinet株式会社を創業。

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