「使えない公共資産」を住民マネーで動かす──TMI・TIS・SMTRI、公共施設ST化の論点を初公表

■ 「所有権は動かせないが、債権は動かせる」
3社は「公共施設・インフラのST化に関する共同研究会」を立ち上げ、法的・経済的・技術的観点から課題を整理した。検証では、アリーナ、公立小中学校などの廃校施設、古民家、一般道路、上下水道、太陽光発電施設などを対象に、所有主体とアセットの移転・譲渡可否を精査。施設の所有主体が公共である場合、施設所有権そのものの第三者移転は不可と整理された一方、サービス対価債権や売電収入債権といった金銭債権は、契約相手方の承諾を前提に移転・譲渡が可能と考えられるとした。運営権についても、公共側の許可を得れば法制度上移転可能だが、事業の内容・性質に応じた協議が必要とされた。
■ アリーナ・太陽光は有望、廃校・水道は慎重に
ST投資商品としての適性は、対象により大きく分かれた。アリーナ施設や太陽光発電施設は、一定規模でキャッシュフローの予見性も確保しやすく、収益性と地域性・社会性の両立が期待される領域とされた。一方、廃校活用は案件規模が小さく収益変動も大きいため投資商品としての収益性は限定的だが、地域参加型・応援型の性格が強く、社会的意義を重視する投資家には一定の魅力があるとされた。上下水道などの大規模インフラは収益の安定性が高い反面、法制度上の制約や規模の大きさから、ST化には慎重な検討が必要とされた。 商品設計では、権利を移転できる場合はアセット所有権・運営権・金銭債権を裏付資産とするSTが考えられる。権利を移転できない場合も、民間事業者の匿名組合(TK)出資持分、社債、ローン債権、コーポレート調達のST化が選択肢になると整理された。
■ 地方債のST化という新地平
注目は、行政の資金調達多様化を狙った地方債へのST導入の検証だ。地方債は地方自治法・地方財政法に基づき発行され、資金使途は上下水道などの公営事業や学校・道路の建設費などに限定される。そのため対象事業によっては地方債の活用も可能と考えられる一方、実際の適用には法令解釈や自治体との協議が必要とされた。3社は今後の論点として、案件特性に応じた商品・スキーム設計、販売チャネルと投資家保護、換金性・二次流通の整備、決済・オペレーション体制の構築を挙げ、自治体・事業者・地域金融機関との連携を進めるとしている。
【事業開発に関するインサイト】
- 公共RWAの本質は「所有権の証券化」ではなく「キャッシュフローと運営権の構造化」にある。所有権移転が不可でも、金銭債権・運営権・TK出資持分・社債などへ裏付資産を切り替える設計余地がある点は、RWA/STインフラ事業者にとって、対象資産ごとに法的スキームを組み替える「スキーム・オーケストレーション能力」が差別化要素になることを示す。
- 地方債のST化は、巨大だが手付かずの「行政資金調達市場」への入口となりうる。日本のデジタル証券は2024年時点で総資産2,500億円規模に成長したが、その多くは不動産STだ。公営事業・公共施設という新たな裏付資産が制度的に解禁されれば、市場の裾野は大きく広がる。規制解釈と自治体協議という参入障壁の高さは、逆に先行者の優位を強固にする。
- 「収益性が低くても成立する」地域応援型STは、従来の投資商品ロジックと異なる需要を開拓する。廃校活用のように収益が限定的でも社会的意義で買われる設計は、ふるさと納税的な動機をオンチェーン資金循環に接続する試みだ。インフラ事業者には、純投資家と地域貢献型投資家という二層の需要を同一基盤で捌く、KYC・投資家適合性・流通設計の作り込みが新たな商機となる。
【引用:出典】
- あたらしい経済「TMI総合法律事務所・TIS・三井住友トラスト基礎研究所、公共施設のST化を共同研究。地方債活用も検証」(2026/5/28) https://www.neweconomy.jp/posts/577245
- TIS ニュースリリース「TMI総合法律事務所、TIS、三井住友トラスト基礎研究所が公共施設・インフラにおけるセキュリティトークンに関する共同研究を実施」(2026/5/28) https://www.tis.co.jp/news/2026/tis_news/20260528_1.html
- 三井住友トラスト基礎研究所(SMTRI)リサーチ&コンサルティング https://www.smtri.jp/
- SMTRI「不動産STにおける市場規模は堅調に拡大」https://www.smtri.jp/report_column/info_cafe/2025_03_17_6501.html
- ペイメントナビ「公共施設・インフラでのセキュリティトークン共同研究(TMI/TIS/SMTRI)」https://paymentnavi.com/paymentnews/175180.html
石田陽之(いしだあきひさ)
Cabinet株式会社 代表取締役
免責事項
本レポートは、暗号資産および関連市場に関する情報提供のみを目的として作成されたものであり、特定の暗号資産の購入、売却、保有その他一切の取引行為を推奨・勧誘するものではありません。また、金融商品取引法その他の関連法令に定める投資助言、投資勧誘、または金融商品の販売・媒介に該当するものではなく、税務・法務・会計上の助言を構成するものでもありません。
本レポートに記載された情報は、作成時点において信頼できると判断した情報源に基づいておりますが、その正確性、完全性、最新性、有用性等について当社は何ら保証するものではありません。暗号資産は価格変動が大きく、元本の毀損その他の損失が生じるリスクを伴います。投資判断は、利用者ご自身の責任と判断において行っていただくものとし、本レポートの利用に起因して生じたいかなる損害についても、当社は一切の責任を負いかねます。
ブロックチェーン新規事業のご相談
Cabinetでは、アイデア段階からの壁打ち、技術検証(PoC)、そして実装・運用まで一気通貫で伴走する事業開発コンサルティングを提供しています。まずはお気軽に無料相談をご利用ください。
水資源データが「投資資産」になる日──NTTドコモビジネス×Carbontribe Labs、ERC1155で環境価値を流通可能に
ETHは「マネー」になり損ねたのか──Banklessの象徴Hoffmanが9年の保有を手放した論理
ニュースレターに登録する
本レポートに掲載した内容に加え、業界の最新情報・未公開レポートをメールでお届けします。

