レポート一覧に戻る
グローバル
プロジェクト動向
Fireside Crypto
2026年05月26日

ETHは「マネー」になり損ねたのか──Banklessの象徴Hoffmanが9年の保有を手放した論理

ETHは「マネー」になり損ねたのか──Banklessの象徴Hoffmanが9年の保有を手放した論理

■ 「テーゼは失敗していない、出尽くしたのだ」

ホフマン氏は5月21日に全ETH売却を明かし、5月26日に詳細なエッセイを公開した。キャリア・コミュニティ・事業のすべてをイーサリアムの上に築いてきた人物だけに、決断は軽くないとしつつ、「ETHはマネー」テーゼは失敗したのではなく「出尽くした(played out)」と表現。イーサリアムは相応の時価総額とETH価格を得ており、ここから資産として上にも下にも再評価(rerate)される展開は見えないという。彼の主張は「イーサリアムは終わった」ではなく、より居心地の悪いものだ——インフラとしては成功し続ける一方で、その成功のうちETHに帰属するのは限界的な割合に留まる、という非対称性である。

■ 「与える者(giver)」というアーキテクチャの逆説

核心は「イーサリアムは奪う者ではなく与える者」という認識だ。L2に世界で最も安全なブロックスペースを原価(at cost)で供給し、世界中の資産を原価でトークン化し、DeFiを原価で守る。マークアップを取らないのはオープンソースの本質であり、強さの源泉でもある。だがその設計思想ゆえに、価値はロールアップ、アプリ、ステーブルコイン、トークン化ドルといった外側へ「漏れ出す」。彼はイーサリアムを「最も成功した非営利組織」と評しつつ、それは投資対象としてのETHの優位を自動的に意味しないと指摘する。ブロックスペースがコモディティ化し手数料がゼロへ向かう構造では、「ETHがマネーになる」にはイーサリアムが圧倒的な市場支配を維持し続けるしかない——「設計されていないゲームに勝つ」必要がある、というのが彼の結論だ。とりわけETHの実需が、ETH自身よりもステーブルコイン(同ネットワーク上で1,630億ドル超)など他の「マネー」を利するようになった点を、彼は重く見る。

■ 賛否と市場の反応

共同創設者ライアン・ショーン・アダムス氏は「一つの時代の終わり」と評した。元コア開発者エリック・コナー氏は、ETHが長年クリプト市場全般を大きくアンダーパフォームしてきた事実を踏まえ「彼を責めない」とし、原因はプロトコルの欠陥より、初期に生まれた大量の富による売り圧などマクロ・分配要因だと分析。「単一コインへのマキシマリズムは賢明でない」と分散の重要性に触れた。一方、多くのアナリストは今なお、ネットワークアップグレード、L2活動の拡大、現物ETF資金流入を理由に上値余地を見る。市場の即時反応は限定的で、ETHは2,050〜2,100ドル前後、2,300ドルの抵抗を越えられずにいる。彼の投稿は100万閲覧を超え、透明性を称賛する声、センチメントへの打撃を懸念する声、底打ちシグナルと見る声に割れた。

【事業開発に関するインサイト】

  1. 「ネットワークの成功」と「トークンの価値捕捉」は別問題である。ホフマン氏の論は、価値を原価で提供するレイヤーは収益を取りにくいという、インフラ事業の収益設計の核心を突く。ブロックスペースがコモディティ化し手数料がゼロへ向かう以上、インフラ事業者は「コモディティ化するレイヤーの上のどこに、課金可能な差別化レイヤーを置くか」を設計の起点に据える必要がある。
  2. 価値がL2・アプリ・ステーブルコインへ「漏れ出す」構造は、マルチプロバイダ/アグリゲーション戦略の正しさを補強する。単一L1のネイティブトークンに賭けるのではなく、価値が集まるレイヤー(L2、ステーブルコイン決済、トークン化資産)へ横断的に接続する戦略が、長期的にはレジリエントだ。特定チェーン・特定トークンへの集中リスクを避け、価値捕捉点に追随できる設計が、インフラ事業者の事業耐久性を高める。
  3. コモディティ化への対抗軸は「マークアップ」ではなく「信頼性・規制適合」である。純粋なオープンソース・無料提供モデルが収益化に苦しむという事実は、逆に、規制対応・データレジデンシー・SLA保証・コンプライアンスといった「原価では提供されない付加価値」こそが、規制対象金融機関向けに課金可能なレイヤーであることを示す。日本のコンプライアンス・オーケストレーション層は、まさにこの「原価で提供されない価値」の収益化を狙う設計である。

【引用:出典】

監修

石田陽之(いしだあきひさ)

Cabinet株式会社 代表取締役

2017年より、一貫してトークンやNFTの活用、ブロックチェーンゲームの企画・開発、NFTを活用した事業開発に従事。大手エンタメ上場企業を始め、80件以上のブロックチェーンプロダクトに対し事業責任者や設計、PM、アドバイザー等、様々な立場でブロックチェーン関連の事業開発に関わってきた。2021年よりCabinet株式会社を創業。

免責事項

本レポートは、暗号資産および関連市場に関する情報提供のみを目的として作成されたものであり、特定の暗号資産の購入、売却、保有その他一切の取引行為を推奨・勧誘するものではありません。また、金融商品取引法その他の関連法令に定める投資助言、投資勧誘、または金融商品の販売・媒介に該当するものではなく、税務・法務・会計上の助言を構成するものでもありません。

本レポートに記載された情報は、作成時点において信頼できると判断した情報源に基づいておりますが、その正確性、完全性、最新性、有用性等について当社は何ら保証するものではありません。暗号資産は価格変動が大きく、元本の毀損その他の損失が生じるリスクを伴います。投資判断は、利用者ご自身の責任と判断において行っていただくものとし、本レポートの利用に起因して生じたいかなる損害についても、当社は一切の責任を負いかねます。

ブロックチェーン新規事業のご相談

Cabinetでは、アイデア段階からの壁打ち、技術検証(PoC)、そして実装・運用まで一気通貫で伴走する事業開発コンサルティングを提供しています。まずはお気軽に無料相談をご利用ください。

ニュースレターに登録する

本レポートに掲載した内容に加え、業界の最新情報・未公開レポートをメールでお届けします。