ETHは「マネー」になり損ねたのか──Banklessの象徴Hoffmanが9年の保有を手放した論理

■ 「テーゼは失敗していない、出尽くしたのだ」
ホフマン氏は5月21日に全ETH売却を明かし、5月26日に詳細なエッセイを公開した。キャリア・コミュニティ・事業のすべてをイーサリアムの上に築いてきた人物だけに、決断は軽くないとしつつ、「ETHはマネー」テーゼは失敗したのではなく「出尽くした(played out)」と表現。イーサリアムは相応の時価総額とETH価格を得ており、ここから資産として上にも下にも再評価(rerate)される展開は見えないという。彼の主張は「イーサリアムは終わった」ではなく、より居心地の悪いものだ——インフラとしては成功し続ける一方で、その成功のうちETHに帰属するのは限界的な割合に留まる、という非対称性である。
■ 「与える者(giver)」というアーキテクチャの逆説
核心は「イーサリアムは奪う者ではなく与える者」という認識だ。L2に世界で最も安全なブロックスペースを原価(at cost)で供給し、世界中の資産を原価でトークン化し、DeFiを原価で守る。マークアップを取らないのはオープンソースの本質であり、強さの源泉でもある。だがその設計思想ゆえに、価値はロールアップ、アプリ、ステーブルコイン、トークン化ドルといった外側へ「漏れ出す」。彼はイーサリアムを「最も成功した非営利組織」と評しつつ、それは投資対象としてのETHの優位を自動的に意味しないと指摘する。ブロックスペースがコモディティ化し手数料がゼロへ向かう構造では、「ETHがマネーになる」にはイーサリアムが圧倒的な市場支配を維持し続けるしかない——「設計されていないゲームに勝つ」必要がある、というのが彼の結論だ。とりわけETHの実需が、ETH自身よりもステーブルコイン(同ネットワーク上で1,630億ドル超)など他の「マネー」を利するようになった点を、彼は重く見る。
■ 賛否と市場の反応
共同創設者ライアン・ショーン・アダムス氏は「一つの時代の終わり」と評した。元コア開発者エリック・コナー氏は、ETHが長年クリプト市場全般を大きくアンダーパフォームしてきた事実を踏まえ「彼を責めない」とし、原因はプロトコルの欠陥より、初期に生まれた大量の富による売り圧などマクロ・分配要因だと分析。「単一コインへのマキシマリズムは賢明でない」と分散の重要性に触れた。一方、多くのアナリストは今なお、ネットワークアップグレード、L2活動の拡大、現物ETF資金流入を理由に上値余地を見る。市場の即時反応は限定的で、ETHは2,050〜2,100ドル前後、2,300ドルの抵抗を越えられずにいる。彼の投稿は100万閲覧を超え、透明性を称賛する声、センチメントへの打撃を懸念する声、底打ちシグナルと見る声に割れた。
【事業開発に関するインサイト】
- 「ネットワークの成功」と「トークンの価値捕捉」は別問題である。ホフマン氏の論は、価値を原価で提供するレイヤーは収益を取りにくいという、インフラ事業の収益設計の核心を突く。ブロックスペースがコモディティ化し手数料がゼロへ向かう以上、インフラ事業者は「コモディティ化するレイヤーの上のどこに、課金可能な差別化レイヤーを置くか」を設計の起点に据える必要がある。
- 価値がL2・アプリ・ステーブルコインへ「漏れ出す」構造は、マルチプロバイダ/アグリゲーション戦略の正しさを補強する。単一L1のネイティブトークンに賭けるのではなく、価値が集まるレイヤー(L2、ステーブルコイン決済、トークン化資産)へ横断的に接続する戦略が、長期的にはレジリエントだ。特定チェーン・特定トークンへの集中リスクを避け、価値捕捉点に追随できる設計が、インフラ事業者の事業耐久性を高める。
- コモディティ化への対抗軸は「マークアップ」ではなく「信頼性・規制適合」である。純粋なオープンソース・無料提供モデルが収益化に苦しむという事実は、逆に、規制対応・データレジデンシー・SLA保証・コンプライアンスといった「原価では提供されない付加価値」こそが、規制対象金融機関向けに課金可能なレイヤーであることを示す。日本のコンプライアンス・オーケストレーション層は、まさにこの「原価で提供されない価値」の収益化を狙う設計である。
【引用:出典】
- TradingView/Cointelegraph「Ethereum bull David Hoffman explains why he sold his ETH」(2026/5) https://www.tradingview.com/news/cointelegraph:5c2990ca4094b:0-ethereum-bull-david-hoffman-explains-why-he-sold-his-eth/
- CryptoRank「Bankless Co-Founder Explains Why He Sold All His Ethereum」https://cryptorank.io/news/feed/04887-bankless-co-founder-why-sold-all-ethereum-eth
- BeInCrypto「Why Bankless Co-Founder Sold His Entire Ethereum Portfolio」https://beincrypto.com/why-bankless-cofounder-sold-ethereum-portfolio/
- CryptoPotato「'Ethereum Is a Giver, Not a Taker': David Hoffman Explains ETH Exit」https://cryptopotato.com/ethereum-is-a-giver-not-a-taker-david-hoffman-explains-eth-exit/
- MEXC News「David Hoffman, ETH Bull, Explains Why He Sold ETH」https://www.mexc.com/news/1114897
- Cryip「Bankless Co-Founder David Hoffman Explains Why He Sold His ETH」(2026/5/26) https://cryip.co/bankless-co-founder-david-hoffman-explains-why-he-sold-his-eth/
- TechFlow(Hoffmanエッセイ要約・翻訳)https://www.techflowpost.com/en-US/article/31774
石田陽之(いしだあきひさ)
Cabinet株式会社 代表取締役
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