「オンチェーン金融主権」を国家戦略へ──自民党が描く分散型台帳×AIの金融・産業基盤構想

提言の位置づけと推進体制
今回の提言は、自由民主党政務調査会デジタル社会推進本部の「次世代AI・オンチェーン金融構想プロジェクトチーム(PT)」(座長・木原誠二元官房副長官)が5月19日に取りまとめ、党政務調査会が正式承認したものだ。同PTはデジタル社会推進本部と金融調査会が共同で2026年3月24日に新設し、決済システム・金融制度の側面と、AI・ブロックチェーンという技術の側面の双方からアプローチする体制を敷いた。木原氏は2021年に「ブロックチェーンを国家戦略に」を掲げた議員連盟を立ち上げた人物であり、その問題意識が金融インフラ論として結実した形である。
構想の3本柱──TD・SC・RWA
構想は、決済・融資・資産運用の「自動化・連結化・24時間365日化」を目標に掲げる。第一にトークン化預金(TD)。日本銀行当座預金のトークン化対応(ホールセール型CBDCを含む)について、年内に論点整理・公表するよう求めた。第二にステーブルコイン(SC)。給与支払いや納税などの法的位置づけを省庁横断で整理し、3メガバンク共同によるSC発行を2027年3月までの実運用開始を念頭に検討するとした。第三に、売掛債権や不動産などの現実資産(RWA)のオンチェーン化を通じた「資産運用立国」の推進であり、ここに金融にとどまらない産業競争力強化の狙いが込められている。
経済安全保障という動機
注目すべきは、提言を貫く危機感だ。日本では米ドル建てのUSDT・USDCを中心に、ステーブルコインの発行残高が足元で約45兆円規模へと拡大している。提言は、対応が遅れれば外国の決済システムへの依存による経済安保リスクや通貨代替リスクが生じると明確に警告する。そのうえで、AIエージェントが経済活動を自律的に担う「エージェンティック・コマース」の到来を見据え、その基盤となるオンチェーン金融インフラ整備を急務と位置づけた。
アジア連携と残された課題
対外戦略として、「AI・オンチェーン金融アジア政策対話枠組み(仮称)」の創設と、円建てSCのクロスボーダー決済拡大を狙う「グローバルSCコリドー構想(仮称)」を提案。各国間で規制・監督のイコールフッティングを確立し、日本発の金融モデルをアジアに広げる構えだ。実装面では金融庁を中心に5年間のロードマップを策定し、官民連携での投資促進を求めた。一方で、量子コンピュータによる暗号技術の危殆化リスクも課題として明記され、デジタル庁に常時モニタリングと代替手段の検討を促している。なお同日、金融庁は外国発行(信託型)ステーブルコインを電子決済手段として正式認定する内閣府令改正を公布しており(6月1日施行)、制度整備は並行して着実に進んでいる。
【事業開発に関するインサイト】
- 政策の方向性は新規事業の「需要の地図」になる:国家戦略として明示された領域(トークン化預金、ステーブルコイン、RWA、クロスボーダー決済など)は、規制整備・官民投資・標準化が集中的に進む蓋然性が高い。新規事業の立案では、自社技術の優劣論だけでなく、政策ロードマップが描く時間軸に事業計画のマイルストーンを重ね、制度が整う前後の「先行者枠」を取りにいく設計が有効である。
- 「インフラ化」局面では中立性と相互運用性が差別化要因になる:金融・産業の基盤として技術が採用される段階では、単一プロバイダーの性能競争よりも、複数システムをまたぐ相互運用性、規制適合性、ガバナンスの中立性が選定基準となる。投機局面で評価された機能ではなく、基盤としての信頼性を設計の中心に据える事業者が、機関・公共需要を獲得しやすい。
- 経済安全保障の文脈は新たな国内需要を生む:海外システムへの依存リスクが政策課題として顕在化すると、「国産・域内完結」を要件とする調達需要が立ち上がる。物理的拠点や法的主体の国内性、データ主権への適合といった、従来はコストとされた制約が、むしろ参入障壁として競争優位に転化し得る。需要を選ぶ際は、こうした「国内性が必須条件となる領域」を見極めることが重要となる。
【引用:出典】
- 次世代AI・オンチェーン金融構想PT 提言(木原誠二議員サイト掲載PDF) https://kiharaseiji.com/wp/wp-content/uploads/2026/05/次世代AIオンチェーン金融構想PT提言.pdf
- CoinPost「自民党デジタル社会推進本部、AIとブロックチェーン活用の次世代金融構想を提言」 https://coinpost.jp/?p=709616
- 自由民主党「日本発の次世代金融モデルを世界に 決済システム・金融制度×AI・ブロックチェーン両輪でPT新設」 https://www.jimin.jp/news/information/212839.html
- 日本経済新聞「AI×金融、アジアで官民プラットフォーム創設 自民党の提言案」 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA124H30S6A510C2000000/
- 日本経済新聞「AIの金融リスク回避『官民検討を』 自民党が提言」 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB1867R0Y6A510C2000000/
- CoinPost「金融庁、外国発行ステーブルコインを電子決済手段に正式認定」 https://coinpost.jp/?p=709645
石田陽之(いしだあきひさ)
Cabinet株式会社 代表取締役
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