レポート一覧に戻る
グローバル
プロジェクト動向
Fireside Crypto
2026年06月09日

封印された名「グラム」の復活──TONはなぜ今、トンコインをGRAMへ戻すのか

封印された名「グラム」の復活──TONはなぜ今、トンコインをGRAMへ戻すのか

何が決まったのか

TON公式は6月9日、ネイティブトークンの名称を「トンコイン」から「グラム」へ、ティッカーを「TON」から「GRAM」へ変更すると発表した。6月1日〜8日にTON Vote上で行われた投票で81.22%が賛成。実施は6月15日12時UTCで、6月22日までにエコシステム全体で表記が統一される見込みだ。重要なのは、変わるのはトークン名・ティッカー・ロゴのみで、ブロックチェーン名は「The Open Network(TON)」のまま、スワップや移行は一切不要という点だ(「移行が必要」という案内は詐欺と注意喚起されている)。

「グラム」が封印された理由──2020年のSEC敗訴

なぜ「復活」なのか。テレグラムは2018年、TON構想のために約17億ドル(約2,600億円)を171の投資家から調達し、トークンを「Gram(グラム)」と名付けた。だが2019年10月、米証券取引委員会(SEC)はGramを未登録の有価証券だとして提訴。2020年3月に連邦地裁がSEC側を支持する仮差し止めを認め、テレグラムはプロジェクトを断念した。同年6月、1,850万ドルの制裁金と投資家への約12億ドル返還で和解している。この敗訴により「Gram」は法的に“いわくつき”の名となり、有志が開発を引き継ぐ際、テレグラムや訴訟との距離を取るためトークン名を「Toncoin」、ネットワーク名を「The Open Network」へ改めた。分散化そのものが、規制リスクを避ける“盾”だったのである。

なぜ「今」なのか:規制の追い風とテレグラムの主導権掌握

封印した名をあえて戻す背景には、二つの環境変化がある。第一に、規制の地殻変動だ。2020年当時の厳しいSECの姿勢は、2025〜2026年にかけて暗号資産に好意的な方向へ大きく転換した。「Gram」につきまとった法的リスクが薄れ、名前を取り戻せる窓が開いた。

第二に、テレグラム自身の前面化である。2026年5月時点でテレグラムはTON最大のバリデータとなり、これまで開発を主導してきたTON財団に代わって「TONを動かす主たる原動力」になったとされる。テレグラムは両者を別物として扱う建前を捨て、ネットワークを公然と取り込んだ。自社の原点である「Gram」の復活は、トークンをテレグラム・ブランドへ再統合する象徴的な一手だ。改称は創業者ドゥロフ氏が掲げる再興ロードマップ「MTONGA(Make TON Great Again)」の第4段階に位置づけられている。

真の狙い:9億人超の「アプリ内通貨」へ

背景には技術的成熟もある。TONは取引確定(ファイナリティ)が1秒未満に短縮され、スループットは約10倍、手数料は約6分の1に低下し、大衆決済に耐える基盤が整った。ここにテレグラムの月間9億人超というユーザー基盤が重なる。GRAMは、この巨大な配布チャネル上で使われる「統一されたアプリ内通貨」として位置づけ直される。規制の窓が開き、技術が整い、テレグラムが主導権を握った——三つが揃った“今”だからこそ、眠っていたブランド「Gram」を呼び戻す合理性がある。

ただし、改称自体が相場を押し上げる効果は限定的だ。6月1日の発表直後にTONは15〜18%急騰したが、その後失速し、足元は1.7ドル前後で推移している。名称変更は短期の価格材料というより、長期戦略の布石とみるのが妥当だろう。

【事業開発に関するインサイト】

  1. ブランド名の価値は「規制・政治環境」の関数であり、固定ではない。同じ名前でも、外部環境次第で資産にも負債にもなる。かつてリスクゆえに封印した名を、環境が好転した瞬間に取り戻すという動きは、眠らせていたブランド資産をタイミングを見て再活性化する発想だ。新規事業でも、いま使えない名称・構想を完全に捨てるのではなく、環境変化に備えて“温存”しておく選択肢が有効になり得る。
  2. リスクの高い初期は「距離を置き」、環境が整えば「主導権を公然と回収する」二段階戦略が機能する。規制・評判リスクが大きい立ち上げ期には、あえて分散や第三者主体を前面に出してリスクを遮断し、リスクが下がった局面で本体が前面化してブランドと支配権を統合する。距離の取り方と寄せ方を環境に応じて設計することが、長期の事業価値を最大化する。
  3. 巨大な既存ユーザー基盤(ディストリビューション)こそが、最も模倣困難な参入障壁になる。プロダクトの機能的優劣以上に、9億人規模の配布チャネルを握っていることが、新たな通貨や機能を普及させる決定的な強みとなる。新規事業では、優れた機能を作る前に「誰に、どの経路で届けるか」という配布力を先に押さえることが、しばしば成否を分ける。

【引用:出典】

  • あたらしい経済「TON、トークン名称を『トンコイン(TON)』から『グラム(GRAM)』へ。コミュニティが名称変更案を承認」(2026年6月11日)
  • Crypto Times「Gram Is Back: TON Community Approves Rebrand With 81% Support」(2026年6月9日)
  • AMBCrypto「TON officially rebrands Toncoin to Gram as Telegram deepens role in network」(テレグラムが最大バリデータ・主導役へ)
  • CoinCentral「Toncoin Renamed Gram After TON Community Vote」(サブセカンド・ファイナリティ、スループット10倍、手数料約6分の1)
  • ChangeNOW「TON To GRAM: Toncoin Rebranding Explained」(MTONGAロードマップ第4段階、月間9億人)
  • Decrypt / TechCrunch / CoinDesk(2020年:SEC提訴、約17億ドル調達、1,850万ドル制裁金、約12億ドル返還)
  • Aurum Law「Telegram's TON: $1.7 Billion Raise, SEC Courtroom Defeat」(GramからTONへの改称と分散化による法的安全性)
  • Phemex「Who Is Pavel Durov」(2026年5月時点でテレグラムが最大バリデータ/ドゥロフ氏の経緯)
監修

石田陽之(いしだあきひさ)

Cabinet株式会社 代表取締役

2017年より、一貫してトークンやNFTの活用、ブロックチェーンゲームの企画・開発、NFTを活用した事業開発に従事。大手エンタメ上場企業を始め、80件以上のブロックチェーンプロダクトに対し事業責任者や設計、PM、アドバイザー等、様々な立場でブロックチェーン関連の事業開発に関わってきた。2021年よりCabinet株式会社を創業。

免責事項

本レポートは、暗号資産および関連市場に関する情報提供のみを目的として作成されたものであり、特定の暗号資産の購入、売却、保有その他一切の取引行為を推奨・勧誘するものではありません。また、金融商品取引法その他の関連法令に定める投資助言、投資勧誘、または金融商品の販売・媒介に該当するものではなく、税務・法務・会計上の助言を構成するものでもありません。

本レポートに記載された情報は、作成時点において信頼できると判断した情報源に基づいておりますが、その正確性、完全性、最新性、有用性等について当社は何ら保証するものではありません。暗号資産は価格変動が大きく、元本の毀損その他の損失が生じるリスクを伴います。投資判断は、利用者ご自身の責任と判断において行っていただくものとし、本レポートの利用に起因して生じたいかなる損害についても、当社は一切の責任を負いかねます。

ブロックチェーン新規事業のご相談

Cabinetでは、アイデア段階からの壁打ち、技術検証(PoC)、そして実装・運用まで一気通貫で伴走する事業開発コンサルティングを提供しています。まずはお気軽に無料相談をご利用ください。

ニュースレターに登録する

本レポートに掲載した内容に加え、業界の最新情報・未公開レポートをメールでお届けします。