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2026年06月11日

「誰から誰へ」を隠せる円送金──zJPYCが示す“規制対応型プライバシー”という設計

「誰から誰へ」を隠せる円送金──zJPYCが示す“規制対応型プライバシー”という設計

何が発表されたのか

zERC20は、イーサリアムのトークン規格「ERC20」にプライバシー機能を持たせることを目指すプロトコルで、L2プロジェクト「INTMAX(イントマックス)」のコア開発者らが手がける。6月11日、JPYCと1対1で交換できる「zJPYC」をPolygon上で提供開始した。JPYCはEthereum・Polygon・Avalanche・Kaiaの4チェーンに対応するが、流通量が最も多いのはPolygon(6月11日時点で約3億2400万JPYC)であり、zJPYCもそのPolygon上で提供される。専用ウォレットやアプリは不要で、MetaMaskなど一般的なウォレットで使える点も特徴だ。

仕組み:なぜ「誰から誰へ」が隠せるのか

利用の流れはシンプルだ。まずPolygon上のJPYCを同額のzJPYCに「ラップ(変換)」する。次にzERC20を通じて送金し、受取人はzJPYCをJPYCに戻す(アンラップ)。秘匿性が生まれるのは、この送金の過程にある。

技術的には、送金者がトークンを一度「バーンアドレス(焼却用アドレス)」へ送り、受取人がゼロ知識証明(ZKP=中身を明かさずに「正しさ」だけを証明する技術)を使って同額を引き出す。受取用アドレスは一回限りの使い捨てで生成されるため、オンチェーン(公開台帳)上で送金元と受取人の住所(アドレス)の結びつきが切れる。重要なのは、送金額や引き出し額そのものは引き続き確認できる点だ。つまり「金額は見えるが、誰と誰の取引かは分からない」状態をつくる。

なぜプライバシー送金が必要なのか

公開型ブロックチェーンの本質的な弱点は、すべての取引が誰にでも見えてしまうことだ。あるアドレスの残高、過去の取引履歴、取引相手まで第三者が追跡できる。これは決済・給与・取引先への支払い・企業の資金管理といった実務では深刻な障害になる。例えば給与額や仕入れ先への支払いが競合や一般に筒抜けでは、企業はとても使えない。zERC20が用途として「決済・定期支払い・給与・クリエイターへの報酬・企業の資金管理」を挙げるのは、まさにこの“丸見え問題”を解くためだ。

「規制対応型プライバシー」という設計思想

ここが最大のポイントだ。モネロなど従来の匿名通貨は、送金者・受取人・金額のすべてを隠すため、マネーロンダリング懸念から日本では取り扱いが事実上排除されてきた。これに対しzJPYCは、土台が規制された資産であるJPYC(2025年8月に国内初の資金移動業型ステーブルコインとして登録、発行・償還時に本人確認を伴う)であり、かつ金額はオンチェーンで追跡可能なまま、隠すのは「誰と誰のつながり」だけに限定する。

これは「全部隠す匿名性」ではなく「必要な部分だけを守る秘匿性」だ。銀行振込が一般には非公開でも当局には把握される構造に近く、規制と実用性の両立を狙った折衷的な設計といえる。ステーブルコイン決済が国内で広がるなか、公開台帳のプライバシー欠如という普及の壁を埋める一手となり得る。

【事業開発に関するインサイト】

  1. 「公開が前提」の基盤では、プライバシーが普及の最後のボトルネックになる。透明性は公開型ブロックチェーンの長所だが、給与・取引先支払い・資金管理といった実務では逆に致命的な障害となる。基盤の長所が、特定の用途では最大の弱点に転じる。その“最後の摩擦”を解消する補完機能こそが、本格普及の鍵を握る。新規事業では、技術の強みが裏目に出る利用シーンを見極め、そこを埋める価値提案を設計することが重要である。
  2. 規制された資産の上に機能を重ねる「レイヤー戦略」は、低リスクで速い。zERC20は自前の通貨を発行せず、規制対応済みのステーブルコインの上にプライバシー機能を“後付け”した。確立された土台(規制資産・既存インフラ・標準規格)の上に補完レイヤーを載せる発想は、フルスタックを自前構築するより参入障壁・コンプライアンス負担・開発速度の面で有利になりやすい。
  3. 「全部か無か」ではなく「必要な部分だけを守る」設計が、規制と実用性を両立させる。すべてを隠す匿名性は規制と衝突するが、金額は開示しつつ関連付けだけを切るような選択的な秘匿は、当局の監督可能性を残したまま実用価値を提供できる。規制の厳しい領域ほど、最大限ではなく“最小限の秘匿・選択的開示”という調整された設計が、受容と普及の両立点になる。

【引用:出典】

  • NADA NEWS「zERC20、JPYC対応のプライバシー送金用トークン『zJPYC』をローンチ」(2026年6月11日)
  • あたらしい経済「zERC20、JPYC向けプライバシートークン『zJPYC』公開」(INTMAXコア開発者、ラップド設計、EVM互換)
  • osumiakari.jp「『zJPYC』がPolygon上で一般利用可能に」(ワンタイムのバーン受取アドレス、wrap/unwrapの実務)
  • JPYC株式会社 プレスリリース「【国内初】日本円建ステーブルコイン発行へ-資金移動業者の登録を取得」(2025年8月18日)
  • 会社設立のミチシルベ「JPYCとは?日本のステーブルコイン完全ガイド【2026年】」(資金移動業型への移行、電子決済手段の位置づけ)
  • IIMA 柴田誠 講演資料(2025年11月)/日本経済新聞「金融庁、JPYCを資金移動業に登録」(2025年8月18日)
  • JPYC info(チェーン別総流通量、Polygonが最大)
監修

石田陽之(いしだあきひさ)

Cabinet株式会社 代表取締役

2017年より、一貫してトークンやNFTの活用、ブロックチェーンゲームの企画・開発、NFTを活用した事業開発に従事。大手エンタメ上場企業を始め、80件以上のブロックチェーンプロダクトに対し事業責任者や設計、PM、アドバイザー等、様々な立場でブロックチェーン関連の事業開発に関わってきた。2021年よりCabinet株式会社を創業。

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