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2026年06月17日

FIFAチケットの実績データが映す「ユーザーの本当の動き」——投機より利用、RTBよりRTTへ

FIFAチケットの実績データが映す「ユーザーの本当の動き」——投機より利用、RTBよりRTTへ

実績の全体像——「発行10万件・流通2,500万ドル」の中身

Ava Labsが公開した数値によれば、これまでにRTBは10万件超が発行され、5万枚超のクラブワールドカップのチケットがRTBとバンドルで配布された。二次流通市場の取引高は、RTT単体で1,500万ドル(約23億円)超、RTBとRTTの合計で2,500万ドル(約39億円)超に達した。逆算すると、RTB単体の二次流通は差し引き約1,000万ドル(約15.5億円)。前回の記事では「仕組み」を解説したが、今回は実際に積み上がった取引データから、ユーザーの行動を読み解く。

行動分析①:発行は多いが「回転」は抑制的だった

注目すべきは、発行件数と流通額の比である。RTBは1件あたり299〜999ドル(約4.6万〜15.5万円)で販売され、10万件の発行は単純計算で数千万ドル規模の一次販売額に相当する。これに対し二次流通は合計2,500万ドルにとどまる。つまり市場は「投機で激しく転売を繰り返す」状態ではなく、多くの保有者は権利を握ったまま実際の観戦に向けて保有していた可能性が高い。賭博性が懸念されたRTBだが、実際の行動データはむしろ「利用目的の保有」に偏っていた。

行動分析②:流動性は投機(RTB)ではなく実利用(RTT)へ集まった

さらに示唆的なのは、二次流通の内訳だ。投機的色彩の強い「購入前の権利」RTB(約1,000万ドル)よりも、実チケットに一段近い「引き換え後の権利」RTT(1,500万ドル超)の方が取引高が大きい。ユーザーの本気の資金は、抽選めいた投機の層ではなく、確実な観戦価値に近い層へと向かった。これは「単なるギャンブル」という批判への有力な反証であると同時に、収益化レイヤーを効用の近くに置く設計の有効性を示している。

行動分析③:FIFAの「囲い込み」は実際に収益化された

RTTの二次流通にはFIFAが15%のリセール手数料を課している。取引高1,500万ドルに対して約225万ドル(約3.5億円)が、従来StubHubやSeatGeekが得ていた価値からFIFA側へ移転した計算になる。「二次市場を自社のエコシステムに取り戻す」という狙いは、実データ上で具体的な収益として現れている。加えてメキシコ居住者のRTT取引を一次価格のみに制限するなど、規制リスクの高い地域では行動そのものが設計で抑制されていた。

死角:解いたのは二次市場、燃えていたのは一次市場の価格

一方で重要な事実がある。RTB/RTTが二次流通の不正・取りこぼしに対処する裏で、ユーザーが本当に怒っていたのは一次市場のダイナミックプライシングだった。決勝カテゴリー1は当初6,730ドルから4月には1万990ドル(約170万円)へ高騰し、英国の準決勝・決勝枠は完売せず、FIFAは批判を受けて60ドル(約9,300円)の「サポーター席」を新設した。ブロックチェーンは認証と転売の課題を解いたが、観客が最も反応した価格・入手性の問題は別レイヤーに残された。


用語解説


RTB

Right-to-Buy/買い取り権

定義:特定の試合のチケットを、一般販売に先立って優先的に「購入する権利」を表すデジタル権利(NFT/コレクティブル)。チケットそのものではない。

  • 入手方法:FIFA Collectでパック購入・チャレンジ・二次取得により入手
  • 取引可能:マーケットプレイスで他のファンと自由に売買できる
  • 条件付き:チーム紐づきのRTBは、そのチームが勝ち上がった場合に行使可能になるものがある
  • オッズ連動:価格は勝ち上がり確率で変動(人気ほど高く、伏兵ほど安い。概ね299〜999ドル)
  • 行使で変換:引き換えるとRTTに変換される

RTT

Right-to-Ticket/チケット購入権

定義:指定された試合の公式チケットを「請求・取得する権利」。RTBを引き換えることで発生し、実チケットに一段近い段階の権利。

  • 発生方法:所定の変換ウィンドウ期間中にRTBを引き換えると付与(エアドロップ)される
  • 取引可能(手数料あり):マーケットプレイスで売買でき、リセール時に15%の手数料
  • 地域制限:一部地域(例:メキシコ居住者)は一次価格でのみ取引可能などの制限
  • 実チケットへ:最終的にRTTを引き換えると、FIFA公式アプリで実チケットが発行される


流れ

RTB(買える権利)

↓

変換ウィンドウで行使

↓

RTT(請求する権利)

↓

引き換え

↓

実際の公式チケット


ひとことで言うと

  • RTB=「チケットを買える権利」。投機性・オッズ連動が強く、抽選に頼らず獲得の道を確保する“入口”の権利。
  • RTT=「チケットを受け取る権利」。RTB行使後の、実チケットに近い“確定寄り”の権利。

補足

  • いずれもAvalanche上のFIFA専用チェーンで発行・管理され、二次流通を第三者市場(StubHub等)でなくFIFAの管理下に取り込む狙い。
  • RTBは希少性プレミアムを事前に価格化したもので、「RTB代金+額面 ≒ 希少性を反映した本当の市場価格」と読むと理解しやすい。


【事業開発に関するインサイト】

  1. 「発行数」と「流通回転率」を取り違えない——入口指標で成果を誇張しない。 10万件超という発行数は華々しいが、二次流通は合計2,500万ドルにとどまり、回転率はむしろ抑制的だった。新規事業では、配布・登録・発行といった見栄えのする入口指標と、実際の取引・継続利用という価値創出指標を明確に分けて評価する規律が要る。ローンチ直後の派手な数字が、必ずしも活発な利用や収益を意味しないことを、データの分解によって常に検証すべきである。
  2. 流動性と資金は「効用に近い層」へ集まる——収益化レイヤーの位置取りが成否を分ける。 投機的なRTBより、実チケットに近いRTTの取引高が大きかった事実は、ユーザーの本気の資金が抽象的なオプションよりも具体的な便益の近くに向かうことを示す。新規プロダクトでは、手数料や収益化の仕組みを「顧客が実際の価値を得る接点」に最も近く配置することが、流動性と収益の双方を最大化する近道となる。
  3. 自社が「解ける課題」と顧客が「最も困る課題」のズレを常に点検する。 本件のブロックチェーンは二次市場の不正・取りこぼしを解決したが、ユーザーが最も強く反応したのは一次市場の価格と入手性だった。技術的に優れた解決策でも、顧客の痛点の中心からずれていれば評価されにくい。新規事業の構想段階では、解決手段の高度さに引きずられず、「顧客が今いちばん困っていることは何か」を起点に課題設定を絶えず見直す必要がある。

【引用:出典】

監修

石田陽之(いしだあきひさ)

Cabinet株式会社 代表取締役

2017年より、一貫してトークンやNFTの活用、ブロックチェーンゲームの企画・開発、NFTを活用した事業開発に従事。大手エンタメ上場企業を始め、80件以上のブロックチェーンプロダクトに対し事業責任者や設計、PM、アドバイザー等、様々な立場でブロックチェーン関連の事業開発に関わってきた。2021年よりCabinet株式会社を創業。

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