レポート一覧に戻る
国内
DeFi
Fireside Crypto
DeFi戦略
コーポレートファイナンス
リスク管理
制度改革
流動性提供
2026年06月17日

「保有」から「運用」へ——日本企業のDeFiトレジャリーはどこまで進むか

「保有」から「運用」へ——日本企業のDeFiトレジャリーはどこまで進むか

事例:300年企業がDeFiで14.6%、しかし「期待外れ」

アサヒ衛陶は2025年12月、ビットコインを「買わない」DeFi全振りのトレジャリー戦略を発表し、約30億円を調達した。半年後のテスト運用実績は、流動性提供(LP)による手数料収益で年利換算14.6%。伝統金融では破格だが、同社の評価は冷静だった。原因は明快で、選んだEVM系チェーンの取引量(出来高)が極端に少なく、出来高に直結するLP手数料が伸びなかったためだ。理論値ではより高い利回りを秘める、という手応えが残った。

なぜ「安定運用」に振ったのか——上場企業の会計の壁

同社は高ボラティリティ運用を見送り、BTC連動資産やUSDCの安定ペア、イーサリアム系に一本化した。背景は上場企業特有の四半期決算だ。保有暗号資産は期末ごとに時価評価され、評価損益が経営層の評価に直結する。だからこそ、価格変動リスクを「取引量連動のインカム(手数料)」で覆う論理を徹底する。LP特有の一時的な資産目減り(インパーマネントロス=機会損失)も、手数料収益が上回るとの自信を示す。未知のリスクを論理分解し、監査法人・経営陣に説明して機関決定を下す——これが個人投資家との決定的な違いである。

リスクの組み替え:BSの価格変動を、PLのフロー収益へ

ここに本質がある。同社は単に資産を保有(BS)するのではなく、積極的にPL(損益計算書)の手数料収益へ転換している。つまり「価格が上がるか下がるか」という方向性リスクを、「取引がどれだけ起きるか」というフローリスクへ組み替えた。次フェーズでは3億円を投じ、複数の主要EVMチェーンと通貨ペア、価格レンジ設定を変えた20超のポートフォリオを同時に走らせる。狭いレンジは高利回りだが機会損失も大きく、広いレンジは安全だが薄利——この最適解探索でノウハウを蓄積し、最大26億円規模で当初目標の年率20%超を狙う。

どこまで進むか①:2028年税制改正という変曲点

リスク許容度の天井を決めるのは、相場ではなく制度だ。現在、活発な市場のある暗号資産を持つ法人は、売却せずとも期末の含み益に課税される。加えて暗号資産同士の交換も課税対象で、DeFiのレンジ調整やリバランスごとに税が発生しうる。これが運用規模の足かせだ。だが金融庁は2026年通常国会に金融商品取引法改正案を提出予定で、施行は2028年1月が有力視される。実現すれば一律20.315%の申告分離課税、3年間の損失繰越、暗号資産間交換の課税繰延が導入される見込みで、DeFi運用の摩擦は大きく低下する。2026〜2027年は「制度が整う前のノウハウ蓄積期」、2028年が本格拡大の起点になる。

どこまで進むか②:「全振りDAT」は罰され、「運用型」が残る

市場は既に方向性を示している。メタプラネットを筆頭に約30社がビットコイン保有(DAT)を表明したが、うち19社の有価証券報告書に経営危機を示唆する注記が付いたと報じられ、メタプラネットの時価総額は一時1兆円から約6千億円へ縮小した。日本取引所グループは暗号資産が総資産の50%超の企業を指数(TOPIX等)に新規採用しない方針を打ち出している。「価格に全振りする保有」は罰され始め、メタプラネット自身もプットオプション売却やステーキングなど収益型へ軸足を移す。アサヒ衛陶型の「フロー収益を設計する運用」こそが、ガバナンスの網をくぐって生き残るモデルとなる。

将来像:利回り飢餓の日本で、機関化するオンチェーン運用

日本は長年の低金利と約1,190兆円の家計資産を抱える「利回り飢餓」の市場だ。この需要が、オンチェーン利回りへ資本を引き寄せる。供給面では、SBIがDeFi貸付基盤Morphoの約280億円調達に参画し、企業年金も2026年度内の暗号資産投資が報じられるなど、機関化が始まっている。将来像は二極化だ。価格に賭ける受動的DAT企業は指数除外と経営注記で淘汰が進み、リスクを分解して設計する能動的な「運用型」企業が主役となる。当面はパイオニアによる数十億円規模の実験にとどまるが、2028年の制度転換と機関マネーの流入を経て、上場企業の余資運用の一手法として定着していく可能性が高い。ただしインパーマネントロス、スマートコントラクト、デペッグといったテールリスクと、JPXの規律が、配分比率に明確な上限を課し続けるだろう。

【事業開発に関するインサイト】

  1. リスクの「量」ではなく「種類」を組み替えることで、組織の許容度の天井は上げられる。 アサヒ衛陶は、BS上の価格変動(方向性リスク)を、取引量連動の手数料収益(フローリスク)へ組み替えることで、上場企業のガバナンスの壁を越えた。新規事業では、同じ期待リターンでも「どの種類のリスクを取るか」を設計し直すことで、社内の意思決定が通るか否かが変わる。リスクの総量を減らす発想だけでなく、リスクの質そのものを設計対象に据える視点が、未知の領域への参入可否を左右する。
  2. 制度(税制・会計)の変曲点を逆算し、先行投資のタイミングを二段構えで設計する。 現行の期末時価評価・暗号資産間交換課税という摩擦は、2028年の制度改正で大きく緩む見込みである。新規事業では「制度が整う前に小規模でノウハウを蓄積し、整った瞬間に規模化する」二段構えが有効だ。先行者は、制度が未整備な期間を「学習コスト」として引き受ける代わりに、緩和の瞬間にスケールできる準備を先に終えているという優位を得る。
  3. 数十億円規模の意思決定を支えるのは、リスクをゼロにする力ではなく「説明可能性」である。 個人なら感覚で取れるリスクも、組織は監査法人や経営陣に説明し尽くして初めて動ける。新規事業の推進力は、未知のリスクを論理的に分解し、社内で共有し、機関決定へ変換する内部統制を先に構築することにある。担当者がAIなどの補助を使いながらでも一次的に領域を理解し、自ら説明できる状態を作ることが、組織全体の意思決定速度を決定づける。

【引用:出典】

監修

石田陽之(いしだあきひさ)

Cabinet株式会社 代表取締役

2017年より、一貫してトークンやNFTの活用、ブロックチェーンゲームの企画・開発、NFTを活用した事業開発に従事。大手エンタメ上場企業を始め、80件以上のブロックチェーンプロダクトに対し事業責任者や設計、PM、アドバイザー等、様々な立場でブロックチェーン関連の事業開発に関わってきた。2021年よりCabinet株式会社を創業。

免責事項

本レポートは、暗号資産および関連市場に関する情報提供のみを目的として作成されたものであり、特定の暗号資産の購入、売却、保有その他一切の取引行為を推奨・勧誘するものではありません。また、金融商品取引法その他の関連法令に定める投資助言、投資勧誘、または金融商品の販売・媒介に該当するものではなく、税務・法務・会計上の助言を構成するものでもありません。

本レポートに記載された情報は、作成時点において信頼できると判断した情報源に基づいておりますが、その正確性、完全性、最新性、有用性等について当社は何ら保証するものではありません。暗号資産は価格変動が大きく、元本の毀損その他の損失が生じるリスクを伴います。投資判断は、利用者ご自身の責任と判断において行っていただくものとし、本レポートの利用に起因して生じたいかなる損害についても、当社は一切の責任を負いかねます。

ブロックチェーン新規事業のご相談

Cabinetでは、アイデア段階からの壁打ち、技術検証(PoC)、そして実装・運用まで一気通貫で伴走する事業開発コンサルティングを提供しています。まずはお気軽に無料相談をご利用ください。

ニュースレターに登録する

本レポートに掲載した内容に加え、業界の最新情報・未公開レポートをメールでお届けします。