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2026年06月15日

ステーブルコインの「丸見え問題」を解く——Datachainのコンプライアンス両立型プライバシー基盤

ステーブルコインの「丸見え問題」を解く——Datachainのコンプライアンス両立型プライバシー基盤

何が起きたか:KuraPrivacy、10社で法人実装の検証へ

Datachainは、エンタープライズ向けオンチェーンプライバシー基盤「KuraPrivacy」の初期ローンチパートナープログラムを開始した。参画するのは暗号屋、Gaia、GALLUSYS、グリーンモンスター、幻冬舎、Speee、トレーダム、日本ブロックチェーン基盤、Fracton Ventures、HODL1の10社(五十音順)。基盤は2025年から開発され、すでにテスト環境での動作確認は完了済みで、今後は日常業務での利用を見据えたウォレット・送金アプリの作り込みとUI/UX設計が主題となる。製品名は「蔵(くら)」に由来し、価値を守りつつ出し入れする者を限定する思想を表す。Datachainは東証スタンダード上場Speeeの子会社で、Progmatを共同設立し、Swift API連携のクロスボーダー送金基盤も手がける。

解く課題:「透明性」が法人利用の最大の障壁

ステーブルコインは法人間決済やクロスボーダー送金の次世代インフラと期待される一方、ブロックチェーンの高い透明性が逆に足かせになる。取引先・金額・保有資産が外部から確認できる構造は、競合に商流や価格、給与水準を露見させかねない。多くの新技術が「機能不足」で普及が止まるのに対し、ここでは「見えすぎること」が障壁である点が特異だ。パートナーの暗号屋も、オンチェーンの透明性が実務上の情報漏洩になり得ると指摘する。幻冬舎は「取引先や社内関係者にも説明しやすいソリューション」への期待を述べ、説明可能性が法人採用の鍵であることを示す。

設計思想:匿名化ではなく「選択的開示」

重要なのは、この種の基盤が目指すのは「匿名化」ではなく「秘匿性(コンフィデンシャリティ)」である点だ。TRM Labsの整理では、秘匿性は金額等を隠しつつ取引グラフは見える状態、匿名性は取引グラフ自体を隠す状態を指す。法人決済で求められるのは前者で、平時は外部から金額・取引先を隠す一方、監査人や規制当局には鍵(ビューイングキー)で選択的に開示する。「過去30日に1万ドル超の取引はない」といった事実を、生データを晒さずに証明できれば、規制当局はむしろ効率的に監督できる。KuraPrivacyが掲げるAML/CFT・監査対応・複数人鍵管理の両立は、まさにこの選択的開示型の設計思想に立つ。

世界の潮流:コンフィデンシャル決済の競争が始まった

これは日本固有の動きではなく、世界的競争の一部だ。Solanaは「Confidential Balances」をToken-2022で実装し、PaxosはUSDPで秘匿送金を有効化(NYDFS要件に対応)。イーサリアム圏ではOpenZeppelinが秘匿トークン標準ERC-7984の参照実装を示し、給与・機関間決済・規制金融を想定する。ZamaのFHEでは2026年3月にKYC済み当事者間で初の秘匿OTC取引が成立した。法人特化では、Hinkalがビューイングキーとオンチェーン分析(KYT)を組み合わせ4億ドル超の秘匿取引を処理し、「受信側が既存ウォレットのまま追加設定不要で使える」点を最大の差別化に据える。給与や貿易金融は、価格・取引先・報酬を晒せないため、2026年の有望ユースケースとされる。

日本・アジア発の標準を狙う布陣

KuraPrivacyの勝ち筋は三点に整理できる。第一に、既存ウォレットを使える秘匿送金アプリと、鍵管理・リカバリー・Passkey認証・ワークフロー承認・監査を備えた法人向けウォレットを揃え、導入摩擦を最小化する。第二に、決済・ウォレット事業者が自社サービスへ組み込めるAPI/SDKを順次公開し、基盤として面を取る。第三に、Progmatやトークン化預金、Swift連携といったDatachainの既存の法人・金融機関ネットワークと接続する。AIエージェント決済やRWAの拡大で「秘匿性」の必然性は高まり、日本・アジア発でエンタープライズ・オンチェーンプライバシーの標準確立を狙う構えだ。

【事業開発に関するインサイト】

  1. 普及の障壁が「機能の欠如」ではなく「過剰」である場合を見抜く。 多くの新技術は機能不足で普及が止まるが、ブロックチェーンはむしろ「すべてが見えすぎる」透明性が法人利用を阻む。新規事業では、自社プロダクトの普及を妨げるのが「足りなさ」か「過剰さ」かを正確に診断する必要がある。過剰が原因なら、機能を足すのではなく「制御し、遮断し、選択的に開示する」能力こそが価値になる。課題の方向を取り違えると、追加機能への投資がかえって採用を遠ざける。
  2. 規制対応を後付けの「制約」ではなく初期設計の「製品要件」に据える。 個人向けプライバシー技術が法人で使えなかったのは、AML/CFT・監査・複数人鍵管理という法人要件を満たさなかったからだ。新規事業では、コンプライアンスを完成後に被せる制約として扱うと作り直しが生じる。規制要件を初期アーキテクチャの必須要件として組み込むことで、規制産業という参入障壁の高い大きな市場の扉を開ける。規制対応力そのものが、模倣されにくい競争優位になりうる。
  3. ネットワーク効果が効く領域では「相手に何も要求しない」設計が普及速度を決める。 秘匿決済では、受信側が新しいウォレットや移行を強いられると普及が止まる。既存ウォレットのまま追加設定ゼロで使えることが、機能の優劣以上に採用を左右する。新規事業では、双方の参加が必要なプロダクトほど、片側の導入摩擦をゼロに近づける設計が決定的だ。自社の利便性ではなく「相手側の手間」を最小化する視点が、普及の臨界点を越える鍵になる。

【引用:出典】

監修

石田陽之(いしだあきひさ)

Cabinet株式会社 代表取締役

2017年より、一貫してトークンやNFTの活用、ブロックチェーンゲームの企画・開発、NFTを活用した事業開発に従事。大手エンタメ上場企業を始め、80件以上のブロックチェーンプロダクトに対し事業責任者や設計、PM、アドバイザー等、様々な立場でブロックチェーン関連の事業開発に関わってきた。2021年よりCabinet株式会社を創業。

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