国内DAT企業、「拡大」から「選別」へ──コンヴァノ87億円全量売却が映す転換点

コンヴァノが示した「完全撤退」の実像
株式会社コンヴァノ(東証グロース・証券コード6574、ネイルサロン「FASTNAIL」運営)は2026年7月24日、臨時取締役会において、同社グループが保有する暗号資産の全量売却方針を決議した。対象は銘柄を問わずグループ保有の全量で、株主優待制度に基づく優待品の交付充当分のみが除外される。2026年3月31日時点の帳簿価額はグループ合算で8,766,742千円(約87億6,674万円)。売却期限は決議日から概ね3か月以内とし、市場の流動性と価格動向を見極めながら分割売却も想定する。同社は目的を「価格変動による財務面への影響の抑制」「財務体質の安定化及び資本効率の向上」と明言し、売却資金は成長投資と株主還元への充当を検討するとしている。売却対象は前会計年度末に時価評価を実施済みのため、売却実行そのものによる当期業績への追加的影響は軽微との見通しだ。
わずか1年で反転した財務戦略
同社は2025年8月にビットコイン購入を取締役会で決議し、トレジャリー戦略を本格化させた。同年9月29日から30日にかけて約15億円相当を追加取得し、累計取得額は約104億円、取得枚数は605.75BTCに達している。ところが同年11月には事業戦略・財務戦略の再構築を発表し、新株予約権による資金調達を停止してBTC依存度の引き下げへ転換。この時点では限定的な保有継続を掲げていたが、今回はさらに踏み込み、優待分を除く全量売却に至った。報道集計ベースでは直近の保有量は約763BTCで、国内上場企業では第5位に位置していた。
国内DATの構図──1社集中と裾野の脆さ
2026年4月末時点の集計では、国内上場19社のビットコイン保有合計は46,404BTC(評価額約5,628億円)で、そのうちメタプラネットが40,177BTCと大半を占める。以下、ネクソン1,717BTC、リミックスポイント1,491BTC、ANAPホールディングス1,432BTC、コンヴァノ763BTCと続く。メタプラネットは2026年12月期第2四半期に2,823BTCを358億8,600万円で追加取得し、保有量は4万3,000BTCに到達。世界の上場企業で第3位となり、2位との差は514BTCまで縮まった。しかし株価と保有資産価値の比率を示すmNAVは7月6日時点で0.68倍と1倍を割り込んでおり、増資による買い増しという従来の資金調達エンジンは機能しにくい。一方、同社のビットコイン・インカム事業は2026年上半期に47億1,700万円の売上を計上しており、「保有」から「運用」への軸足移動が進んでいる。
制度の地殻変動が選別を促す
2026年7月15日、暗号資産を「金融商品」と位置づける改正金融商品取引法が参議院本会議で可決・成立した。暗号資産に係る規制は資金決済法から金商法へ移管され、公布から1年以内の施行が予定されるため、2027年中の新制度導入が見込まれる。並行して東京証券取引所は、上場後に急激な業態転換を行う企業に対し上場適格性を改めて審査する仕組みの導入を検討している。米NYSEが2024年7月に上場会社マニュアルを改正し、主要事業の変更を上場廃止基準に加えた事例が参照されており、実質的な裏口上場の防止が狙いだ。野村総合研究所のコラムが引くダイヤモンド・オンラインの調査では、メタプラネット以降にビットコインの購入・保有を公表した上場30社のうち19社の有価証券報告書に「継続企業の前提に関する注記」または「重要事象等」の記載があったとされる。本業の脆弱さを暗号資産で覆い隠す構図には、制度側から明確な圧力がかかり始めた。
グローバルでも進む「縮小と転換」
ヴァンエックのデジタル資産リサーチ責任者マシュー・シーゲル氏は7月23日、蓄積戦略を放棄・縮小したDAT企業を「全売却・完全撤退」「一部・継続的な売却」「蓄積縮小・積極運用への転換」の3類型に整理した。英サツマ・テクノロジーは7月21日の株主投票で90%超の賛成を得て668BTC全量の売却、投資家への資本返還、上場廃止を決定。ビットディアやプレネティクスも保有BTCを全売却し、AIデータセンターへの事業転換に舵を切った。アーク・インベストは7月17日の四半期報告で、投げ売り局面が終盤に差しかかったとしつつも、DAT企業の資金調達コスト上昇が需要基盤を弱めるリスクだと指摘している。コンヴァノの決断は日本固有の事象ではなく、世界同時進行の再編の一断面である。
事業開発インサイト
- 競争軸は「保有量」から「運用収益」へ移った。メタプラネットのビットコイン・インカム事業が2026年上半期に47億1,700万円を計上し、リミックスポイントもステーキングとレンディングで運用益を確保している。単純保有では株価プレミアムを維持できない以上、カストディ、オプション執行、貸借、時価評価に対応した会計・税務実務といった「保有資産の収益化と管理」を担うB2Bサービスに需要が移動する。国内では提供事業者が限られ、参入余地は大きい。
- 「出口設計」は国内サービス群の空白市場である。87億円規模を3か月以内に、価格インパクトを抑えて処分する実務は決して容易ではない。OTC執行、アルゴリズムによる分割売買、適時開示のタイミング設計、売却損益の会計・税務処理までを一貫して支援できるプレーヤーは少ない。これまで国内の関連サービスは「入口=購入・保管支援」に偏重してきたが、撤退・縮小フェーズが本格化する今こそ、出口実務を束ねたパッケージ提供が差別化要因になる。
- 制度移行を前提としたポジショニングが評価を分ける。2027年に見込まれる金商法ベースの新制度と、東証による業態転換審査の導入は、「暗号資産を持つだけの企業」への評価を厳しくする一方、「暗号資産で稼ぐ・使う企業」の輪郭を明確にする。ステーブルコイン決済、トークン化、マイニングと再生可能エネルギーの融合など、実業に接続した領域でのパートナリングが資本市場から評価を得やすくなる。DAT企業との協業を検討する際は、保有量ではなく「保有資産を用いた収益事業の有無」を第一の選別基準に置くべきだ。
出典
- CoinPost「コンヴァノ、保有仮想通貨87億円分を全量売却へ」 https://coinpost.jp/?p=727152
- PR TIMES/株式会社コンヴァノ「コンヴァノ、保有する暗号資産の売却方針を決定」 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000159.000006824.html
- CoinPost「メタプラネット、ビットコイン保有43000BTC到達 Q2に2823BTC取得」 https://coinpost.jp/?p=721703
- NADA NEWS「メタプラネット、2823BTCを追加取得──総保有4.3万BTCで世界2位に迫る」 https://www.nadanews.com/357901/
- JinaCoin「リミックスポイント、4月4度目のビットコイン追加購入──保有1,491枚に」 https://jinacoin.ne.jp/remixpoint-btc-20260430/
- JinaCoin「ビットコインを手放すDAT企業が相次ぐ──ヴァンエックが撤退・縮小を分類」 https://jinacoin.ne.jp/bitcoin-dat-20260724/
- NHK「暗号資産を『金融商品』に位置づける改正金融商品取引法が成立」 https://news.web.nhk/newsweb/na/na-k10015177471000
- 金融庁「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案 説明資料」 https://www.fsa.go.jp/common/diet/221/02/03.pdf
- So & Sato「2026年金商法等改正案に基づく暗号資産に係る規制の見直しの概要と実務への影響」 https://innovationlaw.jp/crypto-fiea-amendment-2026/
- 野村総合研究所/大崎貞和「暗号資産トレジャリー(DAT)企業と上場廃止基準」 https://www.nri.com/jp/media/column/osaki/20260203.html
- FinTech Journal「東証が上場企業の業態転換に対する監視を強化」 https://www.sbbit.jp/article/fj/181252
- CoinDesk JAPAN「DATモデルが圧力を受ける中、ビットコイン・トレジャリー企業が保有資産を解消」 https://www.coindesk.com/ja/markets/2026/07/24/bitcoin-treasury-companies-sell-up-repay-debt-pivot-to-ai-as-share-prices-collapse
- DEEPPOINT「mNAVとは?DAT企業の株価が割高・割安かを判断する指標を解説」 https://deeppoint.remixpoint.co.jp/articles/mnav
- ANAPホールディングス「事業概要」 https://www.anap.co.jp/about/
- bloomingbit「アーク、ビットコイン投げ売り局面は終盤 ETF純流出はリスク」 https://jp.bloomingbit.io/feed/news/116478
石田陽之(いしだあきひさ)
Cabinet株式会社 代表取締役
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