「マイナンバーカードでウォレットを作る」時代へ──マイナウォレット一般提供が示す日本型Web3公共インフラの設計図

発表の概要──実証実験から日常利用へ
マイナウォレット株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役:橘博之)は2026年7月21日、デジタル資産ウォレットアプリ「マイナウォレット」の一般提供をApp StoreおよびGoogle Playで開始したと発表した。マイナンバーカードをスマートフォンにタッチして本人確認を行い、ステーブルコイン・暗号資産の送受信、NFTの管理・送受信、保有資産推移の表示に対応する。対応チェーンはイーサリアム、ポリゴン、アバランチ、ベース、OPメインネット、アービトラムの6チェーンで、順次拡大予定。対応環境はiOS 16.4以上およびAndroid(いずれもNFC Type-B対応端末)で、マイナンバーカード(スマートフォン搭載版を含む)があれば最短1分でウォレット作成が完了するという。同社によれば、約1億枚が発行されているマイナンバーカードのうち、スマートフォン搭載版は約800万枚(2026年6月26日時点)に達している。
三つの技術的特長──「日本でしか作れないウォレット」の構造
第一の特長は「KYC済みノンカストディアルウォレット」であることだ。秘密鍵はユーザー自身が保有し、運営会社は資産を預からない。一方で、マイナンバーカードに格納された電子証明書を用いる公的個人認証サービス(JPKI)により、所有者の厳密な本人確認が完了している。匿名性の高い自己管理型ウォレットと、規制が求める本人確認の両立という、従来トレードオフとされてきた課題への一つの回答である。なお利用規約上、同社は個人番号(マイナンバー)そのものを取得・保存しない。第二はガス代の運営側負担だ。ステーブルコインやトークンの送受信など基本的な利用に必要なガス代をスポンサーする仕組みにより、ユーザーは暗号資産を事前に用意せず利用を開始できる(チェーン・手数料・回数などの条件あり)。第三はアカウント復旧である。アカウントアブストラクション(EIP-4337)と公的個人認証を組み合わせ、端末やパスキーを紛失してもアカウントを復旧できる。秘密鍵の紛失が資産の永久喪失に直結するという自己管理型ウォレット最大の弱点を、公的インフラで補強した形だ。
official背景にある布石──制度・資本・実証の三層
同社の歩みは周到である。資本面では2025年6月、伊藤穰一氏が取締役を務めるgmjp holdingsとコインチェック親会社のCoincheck Group N.V.を引受先とするシードラウンドで2億円を調達し、同時にコインチェックとの協業を発表した。制度面では、デジタル庁や内閣官房が主導する会議体に参加して制度策定への提言を行い、2025年10月にはJPKI利用に係る主務大臣認定を取得している。実証面では、デジタルガレージ・JCB・りそなホールディングスと実店舗でのステーブルコインQRコード決済実証を実施し、三井住友カードとはマイナンバーカード活用のJPYCタッチ決済実証第2弾を展開。2026年1月からは、しずおかフィナンシャルグループとイーサリアムL2「Base」上でのパーミッションドトークン発行の共同研究も開始した。今回の一般提供は、改正資金決済法によるステーブルコイン制度の整備、そして7月15日に成立した改正金商法という制度の追い風の中で、実証段階から社会実装段階への移行を宣言するものと言える。
今後の展開──ウォレットから「制度連動型プラットフォーム」へ
同社が示す次の展開は三つある。自治体と連携したデジタル地域通貨や給付金等のステーブルコイン配布といった制度連動型ユースケース、本人確認済みユーザー基盤の上に第三者サービスが接続できるミニアプリプラットフォーム、そしてマイナンバーカードによるタッチ決済・QRコード決済「マイナペイ」(実証実験で検証中)だ。単なるウォレットアプリではなく、「公的認証済みユーザー基盤」を核とした決済・配布・サービス接続のインフラを目指す構想であり、リアル経済とデジタル資産経済を接続する基盤の確立を掲げている。
事業開発インサイト
- 「KYC済みユーザー基盤」は接続する側にとっての価値である。マイナウォレットが構想するミニアプリプラットフォームは、第三者サービスが本人確認コストゼロで規制適合的なWeb3ユーザーにリーチできる場になり得る。ステーブルコイン決済、STO、RWA、ポイント連携などを検討する企業にとって、自前でKYC体制を構築するより接続する方が早く安い局面が来る。プラットフォームが小規模な今のうちに接続パートナーとして関係を築くことは、先行者としての条件交渉力を確保する意味で検討に値する。
- 給付金・地域通貨のステーブルコイン配布は「行政発のステーブルコイン需要」を生む。従来の給付金配布は振込事務・プレミアム商品券印刷などのコストが重く、デジタル地域通貨も独自アプリの普及が壁だった。JPKIで本人確認済みのウォレットに直接配布できれば、誤送金・なりすまし・事務コストの課題を同時に解決し得る。自治体向けソリューション事業者、地域金融機関、そしてJPYCなど円建てステーブルコイン発行体にとって、この「行政配布レール」は民間決済と並ぶ第二の需要源になる。しずおかFGとの共同研究は地銀連携モデルの先行例として追跡すべきだ。
- 「公的ID×ノンカストディアル」は日本発で輸出可能な設計思想である。eIDAS 2.0のEUデジタルIDウォレット、各国のデジタルID整備が進む中、国民IDカードと自己管理型ウォレットをEIP-4337で接続した実装例は国際的にも先進的だ。この設計はマネーロンダリング対策と自己主権型資産管理の両立という、CLARITY法案の争点(違法金融対策)やFATFトラベルルールへの技術的回答にもなっている。日本企業がグローバルでWeb3インフラを語る際の「規制適合の実装例」として参照価値が高く、海外の規制当局・金融機関との対話における日本の強みとして活用できる。
出典
- あたらしい経済「マイナンバーカード活用のデジタル資産ウォレット『マイナウォレット』、一般提供開始」 https://www.neweconomy.jp/posts/593868
- PR TIMES/マイナウォレット株式会社「マイナンバーカードを活用したデジタル資産ウォレット『マイナウォレット』App Store・Google Play で提供を開始」 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000012.000125732.html
- PR TIMES/マイナウォレット株式会社「マイナウォレット株式会社 シードラウンドで2億円の資金調達を実施」 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000125732.html
- CoinDesk JAPAN「コインチェックとマイナウォレットが協業──マイナウォレットは伊藤穰一氏のVC、コインチェック親会社から2億円調達」 https://www.coindeskjapan.com/298027/
- あたらしい経済「マイナウォレットがコインチェックと協業、シードラウンドで2億円調達も」 https://www.neweconomy.jp/posts/476908
- Plus Web3 media「マイナウォレットとしずおかFG、Baseでデジタル通貨発行を共同研究」 https://plus-web3.com/media/latestnews_1002_7114/
- あたらしい経済「三井住友カード、マイナカード活用のJPYCタッチ決済の実証実験の第2弾実施へ」 https://www.neweconomy.jp/posts/566990
- マイナウォレット株式会社コーポレートサイト https://www.mynawallet.co.jp/
石田陽之(いしだあきひさ)
Cabinet株式会社 代表取締役
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