通信×金融×Web3で守る石垣島の海──「支援履歴が残るNFT」が拓く自然保全ファイナンスの新形態

プロジェクトの概要
2026年7月16日に発表された本プロジェクトでは、沖縄セルラーが運営するオンラインストア「沖縄クリップマルシェ」で、7月16日から9月30日までデジタルアートを販売する。価格は2,000円から3万円。購入資金の一部がウミショウブの藻場再生活動に還元され、購入者はデジタルアートに紐づくNFTを保全活動への参加証として保有する。特徴は、購入者による活動参加や支援の履歴をブロックチェーン上に記録し、支援者と地域との継続的な関係を可視化する点だ。購入プランに応じて、保全活動に参加する児童が着用するTシャツへの名前掲載、石垣島のユーグレナ工場見学、海草を保護する柵へのネームタグ設置(環境省への申請・許可取得後に設置予定)といった特典も用意される。技術基盤には、KDDI Open Innovation Fundの出資先であるWeb3スタートアップPOCKET RDのブロックチェーン技術「Digital Double」を採用。3社によれば、絶滅危惧種の保全と障がい者アーティストの支援をブロックチェーンで同時に進める取り組みは国内初だという。
土台にあるのは実績ある保全活動
このNFTプロジェクトは、ゼロからの企画ではない。沖縄セルラーと東京海上アセットマネジメントは富士通、地元のエコツアーふくみみ、石垣市立野底小学校と協力し、石垣市野底エリアでウミショウブの再生に取り組んできた実績がある。ウミショウブは西表島と石垣島を北限として浅海域に群生する海草で、環境省レッドリストの絶滅危惧II類に分類される希少種だ。増加したアオウミガメによる食害が減少の主因とされ、放置すれば生態系全体への影響が懸念される。この活動地域である野底エリアは、環境省の「自然共生サイト」に沖縄県内で初めて認定された。さらに東京海上アセットマネジメントが主導した藻場再生によるCO2吸収は、2026年1月に「Jブルークレジット」の認証を取得している。つまり本プロジェクトは、公的認定とカーボンクレジット化まで到達した保全活動の上に、個人参加型の資金調達・関係構築レイヤーをNFTで追加した構図である。
技術パートナーPOCKET RDの位置づけ
POCKET RDは、アバター自動生成システム「AVATARIUM」とNFTマーケットプレイス「Pocket Collection」を展開するスタートアップで、2021年にKDDI Open Innovation Fund 3号をリード投資家として講談社、大日本印刷、SMBCベンチャーキャピタルから4億5,000万円を調達した。スクウェア・エニックスも既存株主に名を連ねる。KDDIグループとの協業は本件が初ではなく、直近では2026年4月に東急ステイの宿泊権NFTリセールへの技術支援も手がけている。KDDIにとって本プロジェクトは、CVC出資先の技術をグループ会社(沖縄セルラー)の地域事業に実装する、出資→協業→社会実装というオープンイノベーションの典型的な回路である。
「NFT冬の時代」後の実需型ユースケース
投機的NFT市場が縮小した後、日本では通信・交通・宿泊といったインフラ企業による実需型NFTの実装が続いている。NEXCO中日本のNFTトレカによる渋滞緩和の試み、東急ステイの宿泊権NFTなどがその例で、本件もこの系譜に位置づく。共通するのは、NFTを投機対象ではなく「参加証明・権利・履歴の記録媒体」として使う設計思想だ。特に本件は、寄付型クラウドファンディングとの差別化点が明確である。従来の寄付は入金で関係が完結しがちだが、支援履歴がブロックチェーンに残り、ネームタグや現地見学といったリアル特典に接続することで、支援者と地域の関係が時間軸を持って続く。地方の環境保全という、収益化が最も難しい領域での資金調達モデルとして注目に値する。
事業開発インサイト
- 「認証済み活動×NFT」の組み合わせは横展開可能なフォーマットである。本件の強みは、自然共生サイト認定とJブルークレジット認証という公的な裏付けを持つ活動にNFTを重ねた点にあり、支援の実効性への疑念(グリーンウォッシング批判)を構造的に回避している。全国には藻場・干潟・森林など認証取得済みまたは取得可能な保全活動が多数存在し、同型のプロジェクトを組成する余地は大きい。ブルーカーボン・クレジットの創出支援とNFTによる個人資金調達を一体で提供できるプレーヤーは、自治体・地域金融機関への提案力を持つ。
- CVCポートフォリオの「地域実装」は出資先支援と本業シナジーを両立させる。KDDIはPOCKET RDへの出資(2021年)から5年を経て、グループの地域会社経由で技術の社会実装機会を提供している。スタートアップにとっては実績とレファレンスの獲得、事業会社にとっては検証済み技術の低リスク導入となる。CVCを持つ企業は、出資先技術と自社グループの地域アセット(店舗網、顧客基盤、自治体との関係)を掛け合わせる案件組成を、投資部門と事業部門の共同KPIとして設計する価値がある。
- 「支援履歴のオンチェーン記録」は関係人口ビジネスの基盤になり得る。人口減少下の地域にとって、移住者でも観光客でもない「継続的な関与者(関係人口)」の獲得は政策課題である。支援・訪問・参加の履歴がブロックチェーンに蓄積されれば、貢献度に応じた特典設計、ふるさと納税との接続、地域限定サービスへの優先アクセスなど、関与の深さを資産化する仕組みが作れる。通信キャリアは本人性の担保と決済・ID基盤で優位にあり、この領域は日本の通信大手のWeb3戦略(ウォレット・ID)と地方創生が交差する有望な接点である。
出典
- NADA NEWS「KDDIら、NFTで石垣島の絶滅危惧種を保全──支援履歴をブロックチェーンに記録」 https://www.nadanews.com/360192/
- 沖縄セルラー電話「石垣島野底エリアにおけるウミショウブ(海草)の再生プロジェクト」 https://okinawa-cellular.jp/social-contribution/nature/project5/
- 東京海上ホールディングス「ウミショウブから生まれる新ビジネス ~ Jブルークレジット認証の舞台裏」 https://www.tokiomarinehd.com/news_insights/ni59.html
- KDDI「KDDI Open Innovation Fund 3号、メタバース向けアバタープラットフォーム運営のPocket RDに出資」 https://news.kddi.com/kddi/corporate/newsrelease/2021/11/12/5531.html
- PR TIMES/POCKET RD「3DアバターとブロックチェーンでXRビジネスを推進する株式会社Pocket RDがスクウェア・エニックス、KDDI、講談社、大日本印刷と資本業務提携」 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000009.000069815.html
- あたらしい経済「スクエニ出資のNFTマーケットプレイス運営企業、KDDI、講談社、DNPより4.5億円資金調達」 https://www.neweconomy.jp/posts/167430
- NADA NEWS「東急ステイの宿泊権NFTリセール、POCKET RDが技術支援」 https://www.nadanews.com/344031/
- NADA NEWS「NEXCO中日本、NFTトレカ活用で高速道路の渋滞緩和へ」 https://www.nadanews.com/312639/
- Yahoo!ニュース(NADA NEWS配信)「KDDIら、NFTで石垣島の絶滅危惧種を保全」 https://news.yahoo.co.jp/articles/878c33d70938477aa760f44da5f1fefe8a481851
石田陽之(いしだあきひさ)
Cabinet株式会社 代表取締役
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