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2026年08月13日

法制化を待たずに走る韓国カカオ ― ウォン建てステーブルコインの主導権は「発行の器」で決まる

法制化を待たずに走る韓国カカオ ― ウォン建てステーブルコインの主導権は「発行の器」で決まる

求人票が示す「法律より先に走る」実装フェーズ

カカオペイは8月12日、自社の採用ページで、次世代金融インフラの中核としてウォン建てステーブルコインの発行とグローバルなエコシステム構築を準備していると明らかにした。募集職種はプロダクトマネージャーとサーバー開発者で、前者はステーブルコインを土台としたサービスの企画と概念実証、国内外の規制環境を踏まえたプロダクトポリシー策定とコンプライアンス対応を担い、後者は発行と流通のためのシステム開発を担当する。

同社の採用はこれが初動ではない。韓国メディアの報道によれば、カカオペイは2026年1月にステーブルコイン戦略とグローバル提携の担当者を、3月にはビジネスとウォレットのプロダクトマネージャーを募集している。臨時組織で新規事業を探索する段階にとどまる競合他社に比べ、実務人員の常設的な積み上げに入っているという評価がなされてきた。今回の求人は、その延長線上で発行・流通の技術実装そのものに踏み込んだものと位置づけられる。

サークル提携の本質は技術移転ではなく「器」の設計

7月には、カカオ、カカオペイ、カカオバンクのグループ3社がUSDC発行体である米サークル社と戦略的MOUを締結した。協業範囲は、ステーブルコイン決済、国境を越えた送金、加盟店精算、既存金融システムとブロックチェーンの相互接続、そして資産トークン化サービスの検討に及ぶ。カカオグループは、自社主導のウォン建てステーブルコインに加え、国内他社が関連サービスを開発できる共有インフラの整備も視野に入れているとされる。

ただし、これは法的拘束力を伴う契約ではなく、発行構造もサービス開始時期も未定である。ここが重要な論点だ。サークル社が提供しうるものは発行・償還・準備金運用・多チェーン展開といった「器」の設計知見であり、その器が韓国国内でどの主体名義で認可されるかは、まだ誰にも決められない。技術提携が先行し、法的地位が後追いする構図になっている。

韓国の争点は「誰が発行を許されるか」に集約されている

韓国のデジタル資産基本法は、国会に提出された複数の法案を政府・与党が一本化する形で、2026年後半の成立を目標に調整が進む。金融委員会(FSC)は7月29日、乱立していた法案を統合した政府案の準備を明らかにした。他方、韓国銀行は銀行が過半を保有するコンソーシアムに発行主体を限定すべきだと主張し、FSCは競争の抑制につながると懸念を示してきた。準備金は流通量の100%超を銀行等に分別保管する方向で概ね一致しているが、認可主体の線引きだけが残る。

この構図が、韓国の競争地図を規定している。ネイバーは暗号資産取引所アップビットの運営会社ドゥナムを103億ドル規模の株式交換で取得する取引を進め、ハナ金融グループもドゥナムへ出資して流通コンソーシアムを狙う。主要商業銀行8行は共同の発行構想を進め、トスも変数として浮上した。カカオは6月、主要商業銀行に加えBNK金融、JB金融といった地方金融グループにもコンソーシアム参加を打診したと報じられている。銀行持分比率の要件がどこに着地しても発行主体側に立てるよう、パートナーを事前に押さえに行く動きである。

日本との比較 ― 認可先行の日本、流通先行の韓国

日韓は、ちょうど鏡像の関係にある。日本は2023年施行の改正資金決済法で電子決済手段の法的地位を先に確定させ、信託型のJPYSCや資金移動業型のJPYCといった発行主体がすでに存在する。認可の問題は解けているが、日常決済への流通はこれから積み上げる段階にある。韓国はその逆で、カカオトークに埋め込まれたウォレットという圧倒的な流通経路を持ちながら、発行を legitimize する法的枠組みが存在しない。

経営視点で見るべきは、両国とも価値が滞留する場所が同じだという点である。トークンの技術仕様でも、送金の速さでもない。本人確認済みの利用者名簿と、発行を許可される法的地位という二つの境界にこそ、参入障壁と収益の源泉が集中する。カカオが法制化前に技術者と規制対応人材を並行採用しているのは、この二つの境界のうち、後者が開いた瞬間に前者を即座に接続するための準備にほかならない。

事業開発インサイト

  1. 提携よりも「認可枠の座席」を先に押さえる。 韓国市場では、技術パートナーシップは代替可能だが、発行コンソーシアムにおける持分と役割は代替不能である。日本企業が韓国のウォン建てステーブルコイン経済圏に関与する場合、技術提供や決済加盟のレイヤーから入るよりも、銀行持分要件が確定する前段階でコンソーシアム参加の意思表示を行うほうが、獲得できるポジションは大きい。カカオが地方金融グループにまで打診を広げている事実は、座席の希少性が既に認識されていることの裏返しである。
  2. 日韓の非対称性は、そのまま相互補完の事業機会になる。 日本は発行の法的地位が確定済みで流通が薄く、韓国は流通基盤が厚く発行の法的地位が未確定である。この非対称は、日韓間の越境決済・送金において、双方の強い側を接続する設計余地を生む。訪日韓国人観光客の決済、韓国向けコンテンツ・ファンダム関連の少額越境課金といった具体的な回廊は、両国の規制が同時に整う2026年後半以降に立ち上がる可能性が高く、今から接続仕様の議論を始める価値がある。
  3. 「スーパーウォレット」構想は、ウォレット単体ではなく本人確認基盤の争奪戦である。 法定通貨、ステーブルコイン、暗号資産、地域通貨を一つのアプリに収容する構想の核心は、UI統合ではなく、既存の本人確認済み顧客基盤をオンチェーン資産に横展開できる点にある。金融機関にとっての示唆は明快で、自社のKYC済み顧客IDをオンチェーンの権限管理にどう接続するかを、トークン発行の検討より前に設計しておくべきだということである。この設計を欠いたまま発行だけを追うと、流通の主導権をプラットフォーム側に明け渡すことになる。

出典

監修

石田陽之(いしだあきひさ)

Cabinet株式会社 代表取締役

2017年より、一貫してトークンやNFTの活用、ブロックチェーンゲームの企画・開発、NFTを活用した事業開発に従事。大手エンタメ上場企業を始め、80件以上のブロックチェーンプロダクトに対し事業責任者や設計、PM、アドバイザー等、様々な立場でブロックチェーン関連の事業開発に関わってきた。2021年よりCabinet株式会社を創業。

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