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2026年08月21日

4年ぶりの新規登録が示すもの──レーザー・デジタル・ジャパンは「旧制度の最後の扉」をくぐった

4年ぶりの新規登録が示すもの──レーザー・デジタル・ジャパンは「旧制度の最後の扉」をくぐった

「4年ぶり」が意味する参入障壁の実態

2017年の登録制導入以降、日本の暗号資産交換業は段階的に規制を強化してきた。2018年のコインチェック流出事件を境に、システムリスク管理、サイバーセキュリティ、分別管理の審査水準は大きく引き上げられ、利用者から預かった暗号資産の95%以上をコールドウォレットで管理する要件などが定着した。その結果として起きたのが、2022年6月のメルコイン登録以降、約4年2カ月にわたり新規登録がゼロだったという事実である。実務家の間では、大手金融グループの資本を背景としない事業者の新規登録は事実上困難との見方が定着していた。今回の登録は、その見立てを覆したというより、むしろ裏付けたと読むべきである。登録主体はスイス拠点のレーザー・デジタルの日本法人であり、その親は野村ホールディングスである。同社は2025年10月から金融庁との事前相談に入っており、承認まで約10カ月を要した。この期間の長さと必要な体制構築コストが、そのまま参入障壁の高さを表している。

なぜ最初の顧客が個人ではなく交換業者なのか

同社が最初に提供するのは、個人向けの取引所サービスではなく、既存の暗号資産交換業者に対する流動性供給である。日本の機関投資家向け取引の提供は「検討段階」と明示され、開始時期も未公表だ。この順序は意図的である。日本には現在27社の登録業者が存在するが、それぞれが独立した板を持ち、業者間の卸売市場が存在しない。株式市場でいえば、取引所はあるがマーケットメイカー層と業者間市場が薄い状態に近い。結果として、大口注文の執行コストは海外市場に比べて高止まりしやすく、価格の分散も生じる。同社はこの空白の卸売レイヤーに入る。取扱銘柄はビットコイン、イーサリアム、XRP、ビットコインキャッシュ、ライトコイン、柴犬コイン(SHIB)の6銘柄に絞られており、リテール向けの品揃え競争ではなく、流動性の厚い主要銘柄に限定した執行業務であることを示している。同社が最良執行方針を公表している点も、対顧客の相対取引を前提とした設計を裏付ける。資本金は1億円と、マーケットメイク用の在庫を自己勘定で大きく抱える規模ではない。リスクの多くはグループのバランスシートで管理し、日本法人は執行と規制対応の窓口に徹する構図と考えられる。

旧制度の最後の扉をくぐった、という時間差

見落とされやすいのは、今回の登録が資金決済法に基づくものである点だ。2026年7月15日に成立した改正法により、暗号資産の規制は金融商品取引法へ移管され、業者の名称も「暗号資産交換業者」から「暗号資産取引業者」へ変更される。インサイダー取引規制の新設、売買審査体制の整備義務、流出時の補償原資としての責任準備金の積立義務が加わり、無登録営業への罰則は拘禁刑3年以下・罰金300万円以下から10年以下・1,000万円以下へ大幅に引き上げられる。施行は公布日から1年を超えない範囲で政令が定める日とされ、2027年半ばが有力視される。改正法には経過措置が置かれ、既存の交換業者は施行日から6カ月間は金商法上の登録なしに業務を継続でき、その6カ月以内に登録申請を行えば、登録または拒否の処分があるまで最長2年間の継続が認められる。つまり同社は、旧制度で登録を得たことで、新制度への移行に最長2年半の助走期間を確保した。逆に言えば、今後新規参入を検討する事業者にとって、この助走路が使える扉は施行日で閉じる。参入タイミングの選択肢が実質的に一つ減るということである。

野村グループが組み上げているスタック

この登録を単独の出来事として見ると意味を取り違える。レーザー・デジタルは2026年1月、米通貨監督庁(OCC)に全国信託銀行免許を申請し、5月に予備的な条件付き承認を得た。同免許ではデジタル資産と米国債のカストディ、現物取引、ステーキングを想定している。また同年1月には、カストディを野村・コインシェアーズ・レジャーの合弁であるコマイヌが担う形で、トークン化されたビットコイン利回りファンドを組成した。日本国内では、同社は金融庁のFinTech実証実験ハブの支援を受けた日立主導のデジタル資産AML枠組みプロジェクトにも参加している。カストディ、AML、執行、資産運用、そして各法域のライセンスが、それぞれ別法人に分散して積み上げられている。日本の交換業登録は、このスタックに最後に加わった一枚である。

需要側の数字は慎重に読む必要がある

同社が根拠として挙げる機関投資家調査は、2025年12月16日から2026年1月29日にかけて国内の運用担当者518人を対象に実施されたものだ。回答者の65%が暗号資産を分散投資の機会と捉え、前回調査の62%から3ポイント上昇した。ただし「79%が3年以内に投資予定」という数値の分母は、全回答者ではない。野村ホールディングスの日本語リリースでは「今後3年間で暗号資産に投資したいと考える回答者のうち79%」とされており、投資意向を持つ層の中の比率である。さらに、投資予定者のうち60%が想定する配分比率は「2%以上5%未満」にとどまる。需要は確実に立ち上がりつつあるが、規模としてはポートフォリオの縁である。発行体自身が公表した調査であることも含め、経営判断の前提に置く際には割り引いて扱うべき数値である。

【事業開発に関するインサイト】

  1. 登録という境界そのものが価値を持つ市場になっている。4年間で新規登録がゼロだったという事実は、既存27社が保有する登録の希少価値を裏側から証明している。新規参入を検討する事業者にとって、自力での登録取得と既存業者への資本参加・買収の期待コストは、すでに後者に傾いている可能性が高い。特に改正法施行後は責任準備金の積立や売買審査体制の整備が上乗せされるため、ゼロからの参入コストはさらに上がる。参入戦略を「登録を取る」から「登録を持つ主体とどう組むか」に切り替える判断が、2027年半ばまでに求められる。
  2. 収益機会は板を作る側ではなく、板に流動性を供給する側にある。日本の暗号資産市場は取引所は多いが業者間の卸売市場が薄いという構造的な歪みを抱えており、レーザー・デジタルはそこに正面から入った。金融機関が自社ブランドの取引所を新設しても、27番目の分散した板が増えるだけで、執行品質は改善しない。むしろ、既存の板をつなぐ流動性供給、価格参照の統合、業者間の決済・清算といった中間層に、既存の市場業務のノウハウが転用できる。証券のマーケットメイクや為替のプライシング能力を持つ組織にとって、参入余地が最も大きいのはこの層である。
  3. 移行期の逆算スケジュールを今期中に確定させるべきである。改正法の施行が2027年半ばであれば、その6カ月後には金商法上の登録申請の期限が来る。インサイダー取引規制への内部管理体制、売買審査の仕組み、責任準備金の資本計画は、施行後に着手して間に合うものではない。すでに登録を持つ事業者はもちろん、暗号資産関連サービスの提供を検討している金融機関も、自社が「暗号資産取引業」の定義に触れるかどうかの法的整理を先に済ませておく必要がある。分離課税の適用が国内登録業者経由の譲渡に限定される以上、顧客がどの経路で取引したかを記録・証明する仕組みは、税務レポーティング事業として独立した収益源になり得る。

【引用:出典】

監修

石田陽之(いしだあきひさ)

Cabinet株式会社 代表取締役

2017年より、一貫してトークンやNFTの活用、ブロックチェーンゲームの企画・開発、NFTを活用した事業開発に従事。大手エンタメ上場企業を始め、80件以上のブロックチェーンプロダクトに対し事業責任者や設計、PM、アドバイザー等、様々な立場でブロックチェーン関連の事業開発に関わってきた。2021年よりCabinet株式会社を創業。

免責事項

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