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2026年08月19日

トランプ発言でHYPEが最高値更新──だがハイパーリキッドの収益は4四半期連続で減っていた

トランプ発言でHYPEが最高値更新──だがハイパーリキッドの収益は4四半期連続で減っていた

発言の中身と、その限界

トランプ氏は8月19日、暗号資産・テクノロジー業界関係者と規制当局トップを集めたホワイトハウスの会合で、「マイクがハイパーリキッドを完全に法令に準拠した形で米国に導入するためにも取り組んでいると承知している」と述べた。マイクとは米商品先物取引委員会(CFTC)のマイケル・セリグ委員長を指すとみられる。会合にはSECのポール・アトキンス委員長も同席し、コインベース、リップル、ナスダックの幹部が参加した。

ただし、これは正式決定でも当局承認でもない。導入方法にも時期にも言及はなかった。それでも市場の反応は激しく、コインゲッコーによればHYPEは8月20日午前10時(日本時間)時点で69.38ドル、24時間比18.3%高となった。ナスダック上場のハイパーリキッド・ストラテジーズ株も上昇し、対照的にCMEとCboe株は下落した。8月22日にはHYPEは82.43ドルの史上最高値を記録している。市場が織り込んだのは、世界最大かつ最も流動性の高い米デリバティブ市場へのアクセス権である。

セリグ委員長を軸に進んだ半年間

この発言は突発的なものではない。セリグ氏は2025年12月22日に第16代CFTC委員長として就任した。前職はSECの暗号資産タスクフォース主席顧問であり、その前は暗号資産企業と予測市場の企業法務を担当していた人物である。就任後の動きは速く、5月29日にはCFTC登録済み取引所による真正のビットコイン無期限先物の上場を認可した。米国で初めて無期限先物が制度内に置かれた瞬間である。

だがこの認可は、既存取引所との全面的な対立を招いた。5月15日、CMEグループとICEは、ハイパーリキッドの24時間稼働するオンチェーン原油無期限先物について、市場操作や制裁逃れへの悪用、原油指標価格の歪みのリスクを挙げ、CFTCと議会関係者に規制強化を働きかけたとブルームバーグが報じた。6月18日にはCMEがCFTCとセリグ委員長を提訴した。ファンディングレートを伴う契約はドッド・フランク法上スワップに該当し先物ではない、というのが論拠である。訴訟は係属中だ。その3週間後、CFTCはCME自身が自己認証した24時間稼働の原油契約を差し止め、セリグ氏はCMEの行為を「まったく不適切」と評した。米国最大のデリバティブ取引所運営会社が自らの規制当局と法廷で争うという、極めて異例の構図が続いている。

一方、ハイパーリキッド側の制度対応も進んだ。2026年2月18日には独立系の政策提言組織ハイパーリキッド・ポリシー・センター(HPC)が発足し、SECとCFTCに複数のコメントレターを提出した。7月14日にはSECの暗号資産タスクフォースと会合を持ち、技術と市場構造を説明している。ファントムなどと連名でCFTCにオンチェーン・デリバティブ市場の制度整備を要望し、trade[XYZ]とはIPO前株式の無期限先物の制度整備をSECに提言した。市場構造法案であるクラリティ法が上院で停滞するなか、セリグ氏は職員にオンチェーン金融プロトコルの開発者と協働して合法的な提供方法を検討するよう指示しており、立法を待たない行政的な迂回路が模索されている。

手数料31%増、収益43%減という乖離

しかし経営層が押さえるべきは、政治的な追い風ではなく事業の中身である。21シェアーズの分析によれば、ハイパーリキッドの2026年上半期の総手数料は前年同期比31%増の4億1,930万ドルに達し、平均日次利用者数はほぼ倍増した。活動量は過去最高である。ところが総プロトコル収益は、2025年第3四半期の約3億5,700万ドルをピークに、約2億9,500万ドル、約2億1,700万ドル、そして2026年第2四半期の約2億200万ドルへと4四半期連続で減少した。ピーク比43%減である。

原因は明確だ。HIP-3と呼ばれるビルダー主導の市場が、2026年初頭には無期限先物取引高の約2%だったものが、現在はおよそ半分を占めるまでに拡大した。その中心はtrade[XYZ]による現実資産(RWA)の無期限先物である。7月13日から19日の週にはRWA無期限先物が週間取引高の約52%、金額にして約250億ドルを占め、トークン化資産が初めて全カテゴリーの首位に立った。7月のRWA無期限先物取引高はビットコインの99.2%に達し、建玉では過去最高の36億ドルでビットコインを抜いて最大市場となった。総建玉は7月13日に約110億ドルの最高値を記録し、世界の無期限先物建玉の約9%を占めるに至っている。

問題は、これらのビルダー展開市場では手数料の相当部分がビルダーへ還流する点である。取引高が伸びてもプロトコルの取り分は薄まる。そしてハイパーリキッドの収益は、その大部分がアシスタンス・ファンドを通じたHYPEの買い戻しに充てられている。ディーファイラマによれば直近30日の無期限先物手数料は4,526万ドル、うちプロトコル収益は3,156万ドルである。買い戻し原資が細れば、HYPEの価値裏付けは弱まる。しかも創業チーム・貢献者向けの約2億3,800万トークンが2026年初頭から24か月かけて直線的に解除される。ベンチャーキャピタルから資金を調達しておらず投資家の解除断崖がない点は強みだが、供給増と買い戻し縮小が重なる構図は変わらない。

米国上陸が意味するのは「規制裁定の終わり」

ここで米国展開の意味を捉え直す必要がある。ハイパーliquidは現在、米国居住者・米国法人を利用制限の対象とし、本人確認を伴わない取引環境を提供している。米国で無期限先物を提供するには、CFTCへの登録に加え、顧客保護、市場監視、資産分別といった規制要件への対応が必要になる。つまり米国上陸とは、成長を支えてきた「誰でも即座にアクセスできる」という設計そのものを、一部手放すことを意味する。CMEとICEが問題視したのはまさにその点であり、規制対応はコスト構造の転換を伴う。

同時に、米国内には既に競合が生まれている。CFTCは5月29日以降、登録済み取引所での無期限先物提供に道を開いており、カルシとコインベースが先行している。ハイパーリキッドが規制内に入る頃には、規制内での競争がすでに始まっているという時間差がある。市場が織り込んだ「米国市場へのアクセス」という上昇材料は、同時に「規制裁定の消滅」という下押し材料でもある。

【事業開発に関するインサイト】

  1. 「取引高」と「プロトコル収益」を分離して評価する枠組みが、オンチェーン金融の投資判断では必須になる。ハイパーリキッドは上半期に手数料31%増、利用者数ほぼ倍増という数字を出しながら、収益はピーク比43%減となった。原因は、外部ビルダーに市場開設を開放した結果、手数料の相当部分が外部へ流出する構造に転換したことである。これは伝統的な取引所ビジネスでいえば、取引所が自社の板を第三者に開放して手数料を分配する構造に近い。取引高の成長率だけを見て事業の健全性を判断すると、収益構造の変質を見落とす。金融機関がオンチェーン金融プロトコルを評価する際は、総手数料、プロトコル取り分、外部への還流額の三つを分けて追跡する体制が要る。
  2. 規制の内側に入ることが、常に企業価値の上昇要因とは限らない。ハイパーリキッドの成長を支えてきたのは、本人確認を伴わない即時アクセスと24時間稼働という、規制の外側にあるからこそ成立していた設計である。米国でCFTC登録を得るということは、顧客保護、市場監視、分別管理という追加コストを負い、同時に参入障壁として機能していた「規制の外にいること」を手放すことを意味する。日本の金融機関がオンチェーンの取引基盤と提携や出資を検討する際は、当該事業者の競争優位が規制裁定に由来していないかを見極める必要がある。裁定に由来する優位は、制度整備の進展とともに消滅する。
  3. 既存取引所と規制当局の対立そのものが、事業機会と時間軸を規定する。CMEが自らの規制当局を提訴し、CFTCがCMEの自己認証契約を差し止めるという事態は、市場構造をめぐる主導権争いが法廷に移ったことを示している。この訴訟の結論、すなわちファンディングレートを伴う契約がスワップか先物かという論点は、無期限先物という商品カテゴリー全体の規制枠組みを決める。日本で同種の商品を検討する場合も、米国の判例が事実上の国際標準になる可能性が高く、判決までは大規模な投資判断を留保する合理性がある。逆に言えば、判決前後は規制環境が大きく動く局面であり、この時期に制度設計に関与できる立場を確保することの価値は高い。

【引用:出典】

監修

石田陽之(いしだあきひさ)

Cabinet株式会社 代表取締役

2017年より、一貫してトークンやNFTの活用、ブロックチェーンゲームの企画・開発、NFTを活用した事業開発に従事。大手エンタメ上場企業を始め、80件以上のブロックチェーンプロダクトに対し事業責任者や設計、PM、アドバイザー等、様々な立場でブロックチェーン関連の事業開発に関わってきた。2021年よりCabinet株式会社を創業。

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