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2026年08月19日

ローソンのレジで3陣営が競合した8月──ステーブルコイン決済の本当の争点は「コイン」ではない

ローソンのレジで3陣営が競合した8月──ステーブルコイン決済の本当の争点は「コイン」ではない

同じ小売チェーンで3つの実証が並んだ8月

今回の実証は、8月20日の1日間、ローソン ゲートシティ大崎アトリウム店の1店舗で実施された。対象はJCB、ローソン、デジタルガレージの関係者に限定されている。利用者がスマートフォンにウォレットアドレスのバーコードを表示し、店舗POSで読み取るCPM方式を採用し、対応ウォレットはコインベースの「Base App」、対応コインはBaseチェーン上のUSDCである。JCBが決済用WEBシステムとバーコード生成機能を提供して利用者からUSDCを受領し、売上金を集計のうえ後日加盟店へ法定通貨で支払う。デジタルガレージが決済APIとバックエンドを、ローソンが店舗環境とPOS連携を担い、POSと決済サービスの接続にはキャナルペイメントサービスのコード決済処理技術が使われた。

注目すべきは、これがローソンにおける8月3件目の実証だという点である。8月6日には高輪ゲートウェイシティ店でHashPort、KDDIとの連携により円建てJPYCの実証が行われ、POS連動としては国内初とされた。8月17日には今回と同じゲートシティ大崎アトリウム店で、ネットスターズの「Stablecoin Pay」を用いたUSDC・USDT・JPYCの検証が実施されている。3件はいずれも対象者を関係者に限定し、検証項目もPOS連携要件、レジ業務への影響、決済所要時間、ウォレットの操作性とほぼ重なる。同じレジの前で、異なる中間層の設計が2週間のうちに順番に試されたことになる。

誰も持っていない免許

この構図の底にあるのが、登録という制約である。日本ではステーブルコインは2023年6月施行の改正資金決済法により「電子決済手段」と位置づけられ、その仲介等を業として行うには電子決済手段等取引業の登録が必要となる。ところが金融庁の登録一覧によれば、2026年6月24日時点の登録業者数は1社、SBI VCトレード(関東財務局長第00001号)のみである。取扱対象はUSDC、RLUSD、JPYSCとされている。

JCBが「利用者からUSDCを受領し、売上金を集計のうえ後日加盟店へ法定通貨で支払う」という役割を担うとき、それが電子決済手段等取引業に該当するのか、収納代行や資金移動業の枠組みで整理されるのかは、公表資料からは判別できない。3件の実証がいずれも1日ないし数日、1店舗、関係者限定という規模で止まっている事実は、技術的制約というより制度上の整理が未了であることを示唆している。実際、同じ3社が2月24日から3月2日にかけて渋谷パルコDGビル内のカフェで行った実証は一般利用者を対象としていた。規模はむしろ縮小しているのである。SBIグループがSBI VCトレードとアプラスの組み合わせで実証を進めているのは、グループ内に唯一の登録業者を抱えているからこそ可能な設計であり、この対比は示唆的である。

「両替負担の軽減」は誰のコストになるのか

JCBとサークルは7月14日の基本合意で、ステーブルコイン決済の意義として訪日外国人の両替負担軽減、資金決済の効率化、加盟店のキャッシュフロー改善を挙げている。ただし、この3点はいずれも慎重な検証を要する。

第一に、円建て価格の商品を米ドル建てUSDCで支払う限り、為替の交換は消滅せず、空港の両替所から決済レールの内側へ移動するだけである。誰がどのレートで交換し、そのスプレッドを誰が負担するのかが開示されなければ、負担が軽減されたかどうかは判断できない。第二に、キャッシュフロー改善についても、今回の設計ではJCBが売上金を「後日」法定通貨で加盟店へ支払う。これはクレジットカードの精算サイクルと構造的に同じであり、加盟店から見た入金タイミングが改善されるとは限らない。ブロックチェーン上の決済がほぼ即時に完了しても、加盟店への着金が既存の精算サイクルに戻されるなら、速度の利得は中間層に留保される。加盟店にとっての実質的なメリットは、手数料率が既存のカード決済やコード決済を下回るかどうかに集約される。円建てのJPYCであれば為替の問題は生じないが、その場合は訪日外国人に円建てコインを保有させるという別の障壁が立ちはだかる。USDCとJPYCが並行して試されているのは、この二律背反があるためである。

制度側も同時に動いている

行政側の動きも重なっている。改正資金決済法は2026年6月1日に全面施行され、海外発行の信託型ステーブルコインについてのコンプライアンス経路が明確化された。金融庁は8月7日の組織再編で「暗号資産・ステーブルコイン課」を新設している。他方、海外発行ステーブルコインには1回あたりの移転額や利用者ごとの残高に上限が課される設計となっており、コンビニ決済の単価であれば実害はないが、加盟店側の受領総額をどう扱うかは別途整理が必要となる。制度と実装が同時に動いているこの局面で、事業者が先に固めるべきは技術ではなく、資金の流れに対する法的な位置づけである。

【事業開発に関するインサイト】

  1. 競争が起きているのはコインでも加盟店でもなく、ウォレットとPOSの間の中間層である。同じローソンのレジに、HashPort・KDDI連合、ネットスターズ、JCB・デジタルガレージ連合という3つの異なる中間層設計が並んだ事実がそれを示している。加盟店は共通で、コインもUSDC・JPYC・USDTと重複している。差がつくのは、POS接続の方式、精算の担い手、そして法的な位置づけである。金融機関が検討すべきは「どのコインに対応するか」ではなく「この中間層のどのポジションを取るか」であり、既存の決済代行やアクワイアリングの機能がそのまま転用できる領域はどこかという問いである。
  2. 電子決済手段等取引業の登録が国内に1件しかないことは、ボトルネックであると同時に事業機会である。加盟店決済の実証は複数陣営で並行して走っているが、ステーブルコインの仲介を業として行える主体は現時点で1社に限られる。この非対称は長くは続かないと見るべきで、登録を自ら取得するか、登録業者と組むか、あるいは登録が不要な機能に特化するかという三択を、事業計画の前提として先に確定させる必要がある。特に「加盟店から受領して法定通貨で精算する」機能は、どの法的枠組みで整理するかによって必要な体制と資本が大きく変わる。この論点を後回しにしたまま技術検証を進めると、商用化の直前で設計のやり直しが発生する。
  3. 手数料の内訳を分解して提示できる事業者が商用化の主導権を握る。加盟店にとってのステーブルコイン決済の価値は、突き詰めれば既存手段より安いかどうかである。だが実際のコストは、為替スプレッド、ブロックチェーンのガス代、精算タイミングに伴う資金負担、そして中間層の取り分に分解される。現在公表されている実証発表は、いずれもこの内訳に触れていない。逆に言えば、内訳を透明に示せる商品設計を先に用意した事業者が、加盟店の比較検討において決定的な優位を得る。既存のインターチェンジ構造を熟知している金融機関やカード会社にとって、これは自社の強みが直接効く領域である。

【引用:出典】

監修

石田陽之(いしだあきひさ)

Cabinet株式会社 代表取締役

2017年より、一貫してトークンやNFTの活用、ブロックチェーンゲームの企画・開発、NFTを活用した事業開発に従事。大手エンタメ上場企業を始め、80件以上のブロックチェーンプロダクトに対し事業責任者や設計、PM、アドバイザー等、様々な立場でブロックチェーン関連の事業開発に関わってきた。2021年よりCabinet株式会社を創業。

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