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2026年08月19日

トークンが98%下落した先にあるもの──HIS×SNPIT「たびシェア」が示す「訪問証明」の資産価値

トークンが98%下落した先にあるもの──HIS×SNPIT「たびシェア」が示す「訪問証明」の資産価値

発表の中身──「訪れた証明」を軸に据えた設計

GALLUSYSは8月19日、東証プライム上場のエイチ・アイ・エス(HIS)と共同で、旅と写真を掛け合わせた新プロジェクト「たびシェア」を2026年秋より順次開始すると発表した。初期フェーズではHISが提携する全国1万か所以上の宿泊・観光施設が対象となる。

設計の中核は、リリースが明記している次の一文にある。投稿できるのは対象施設の周辺でアプリ内カメラを使って撮影された写真のみであり、「いつ・どこで・誰が撮ったか」を改ざんできない形で記録するブロックチェーン技術によって、実際に現地へ足を運んだことを証明する仕組みを備える、というものだ。各施設の半径500メートル圏内で撮影した写真で「ロケーションバトル」に参加でき、勝者はその施設のアンバサダーに就任する。サービス開始時点では1万か所すべてが写真ゼロの状態から始まり、まだ誰も投稿していない施設では無投票でアンバサダーになれる。新規ユーザーにはギルドキャラクター「MOB'z」が1匹無料配布され、購入なしで参加できるとしている。

トークンは報酬の中心から外れた

ここで見落とされやすいのが、報酬の設計変更である。SNPITは2023年12月のリリース以降、撮影実績をカメラNFTとして記録し、貯めたポイントをブロックチェーン上のトークンSNPTに交換できる仕組みを採用してきた。だが今回のリリースにSNPTへの言及はない。ポイントの交換先として挙げられているのは「次の旅行で使えるお得なクーポンや限定デジタルアイテム」である。

背景には、トークン価格の推移がある。SNPTは2024年7月29日に0.1085ドルの最高値を付けた後、現在は0.0013ドル台まで下落しており、最高値から約98%低い水準にある。24時間の取引高は1万ドル台にとどまり、集計サイト間で表示価格が大きく食い違うほど流動性が枯渇している。参加者への報酬をトークン発行で賄う設計、いわゆるX-to-Earnの循環は、この価格水準では機能しない。

たびシェアが選んだのは、報酬原資をトークン発行から提携先の送客予算へ切り替えることである。HISにとってクーポン原資は集客コストであり、既存の広告宣伝費や販促費の枠内で説明できる。無料キャラクター配布によって参加に初期投資を不要とした点も同じ方向を向いている。カメラNFTを購入させて参加者から資金を集める構造から、スポンサーが費用を負担して行動を促す構造への転換であり、これは事実上、ブロックチェーンを使ったCRM・ロイヤルティ施策への収斂を意味する。

「真正性証明」はすでに国際標準の競争領域である

では何が残るのか。「実際にその場所を訪れた」という証明そのものである。ただしこの領域には、すでに有力な国際標準が存在する。C2PA(Coalition for Content Provenance and Authenticity)は、Adobe、マイクロソフト、BBCらが2021年に設立した団体が策定する標準で、画像や動画に撮影デバイス、日時、任意でGPS座標、編集履歴、生成AIの関与などを暗号署名付きで埋め込む。仕様は2026年1月にバージョン2.3が公開され、Google Pixel 10はハードウェアレベルで全写真に署名を付与している。EUのAI法第50条の透明性規定は2026年8月から適用が始まり、AI生成コンテンツへの機械可読なマーキングを事実上求める。

重要なのは、C2PAがブロックチェーンではなく従来型のPKI、すなわちHTTPSと同じ公開鍵基盤を採用している点である。改ざん検知にはブロックチェーンが必須ではない。日本国内でもサイバートラストがC2PA用証明書を提供し、NTTドコモビジネス、NTTドコモ、Spectee の3社が総務省事業の一環としてC2PAを用いた偽・誤情報対策の実証を2026年3月に実施している。独自方式で構築した証明は、相互運用性の面で標準規格との比較にさらされることになる。

入力の真実性という、両者に共通する弱点

もっとも、C2PAにも決定的な限界がある。来歴の主張が改ざんされていないことは検証できるが、その主張が真実かどうかは検証しないという点だ。署名した時点でGPS座標が偽装されていれば、偽装された座標が改ざん不能な形で記録されるだけである。前述のNTTドコモビジネスらの実証が、スマートフォンのGPS情報だけに依存せず複数の情報源を組み合わせて撮影場所と時間、デバイスの真正性を確認する技術を検証項目に据えているのは、まさにこの入力層の脆弱性が未解決だからである。

たびシェアも同じ課題を抱える。半径500メートルという判定基準は、位置偽装アプリに対してどの程度の耐性を持つのか。アンバサダーという称号やクーポンという経済的価値が結び付く以上、偽装の誘因は確実に発生する。ブロックチェーンに記録することは、この問題を解決しない。

何が資産として残るのか

それでも、この取り組みが持つ潜在的価値は小さくない。地元ユーザーがランキング戦で優位に立ったことをきっかけに十数人が群馬県榛名湖を訪れ、地域での消費につながったという事例が示すのは、訪問証明とインセンティブを組み合わせることで、実際の人の移動を設計できるという可能性である。そして蓄積されるのは、位置と時刻が紐付いた大量の画像データという、それ自体が独立した価値を持つデータセットだ。同時にそれは、個人の移動履歴という重い責任も伴う。

【事業開発に関するインサイト】

  1. トークン発行を報酬原資とするモデルは、日本の実務では実質的に終わったと見るべきである。SNPTの最高値からの下落率が約98%に達しても事業自体は継続し、むしろ上場企業との提携に発展している点が示すのは、価値を生んでいたのがトークンではなく行動データと送客効果だったという事実である。金融機関が自社のポイント・マイレージ制度をブロックチェーンに載せる検討を行う場合、判断基準は「トークン化することで新たな原資が生まれるか」ではなく「既存の販促費を、より高い精度で行動に紐付けられるか」に置くべきである。前者を前提にした事業計画は、この2年間の実例が否定している。
  2. 「訪問証明」は観光を超えた横断的な需要を持つが、標準規格の選択を誤ると資産にならない。損害保険における被災現地の撮影証明、建設・インフラの施工進捗記録、ESG開示に伴う現地確認、店舗送客型アフィリエイトの成果報酬精算など、「特定の人物が特定の日時に特定の場所にいたことの証明」を必要とする業務は金融周辺に広く存在する。ただしこの領域はC2PAという国際標準が急速に整備されつつあり、デバイスメーカーがハードウェアレベルで実装を進めている。独自のブロックチェーン方式で証明を作り込むより、標準規格に準拠したうえで、検証・保管・業務接続の層に投資するほうが、資産として長持ちする可能性が高い。
  3. 入力層の検証設計を持たない証明サービスは、金融業務では採用できない。改ざん検知と入力の真実性はまったく別の問題であり、この区別を曖昧にしたまま「ブロックチェーンで証明できる」と説明するベンダーは少なくない。金融機関が調達側に立つ場合の評価基準は明確で、GPS単独に依存していないか、基地局・Wi-Fi・気圧・電波環境などの独立した情報源を併用しているか、偽装検知の実績値を提示できるか、の三点である。逆に提供側に回る場合、この検証層こそが差別化要因になる。位置情報の真正性を業務水準で保証できる主体は、現時点で国内にほとんど存在しない。

【引用:出典】

監修

石田陽之(いしだあきひさ)

Cabinet株式会社 代表取締役

2017年より、一貫してトークンやNFTの活用、ブロックチェーンゲームの企画・開発、NFTを活用した事業開発に従事。大手エンタメ上場企業を始め、80件以上のブロックチェーンプロダクトに対し事業責任者や設計、PM、アドバイザー等、様々な立場でブロックチェーン関連の事業開発に関わってきた。2021年よりCabinet株式会社を創業。

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