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2026年08月26日

民間が3年先を走る ── Strium年内テストネットが映す「制度設計より速い実装」

民間が3年先を走る ── Strium年内テストネットが映す「制度設計より速い実装」

Striumが示した具体的な時間軸

StartaleとSBIホールディングスがStriumを共同発表したのは2026年2月5日である。暗号資産、トークン化株式、RWA連動型金融商品を含むあらゆる金融資産のオンチェーン取引に特化し、24時間365日稼働する現物・デリバティブ市場を提供する専用プラットフォームと位置づけられた。両社が2025年8月に締結した戦略的パートナーシップにおける最初の主要マイルストーンにあたる。発表時点では概念実証の段階にあると説明されていたが、今回の投稿はそこから半年余で具体的な展開時期が示されたことを意味する。渡辺氏によれば、Strium上では株式・国債のトークン化に加え、SBIとStartaleが2026年6月に提供を開始した円建て信託型ステーブルコイン「JPYSC」を使った決済にも対応する予定だ。

政府・日銀の構想と、3年から5年のずれ

日本経済新聞は2026年8月26日、金融庁・財務省・日銀・金融機関が参加する検討会を今夏に立ち上げ、2027年初にも整備計画をまとめる方針だと報じた。構想の柱は、銀行が日銀に預ける当座預金の一部をブロックチェーン上で流通するトークンに変換する仕組み、すなわちホールセール型の中央銀行デジタル通貨である。導入方針が正式に決まれば稼働は2030年代前半になる見通しで、2027年度予算から創設される複数年度の戦略投資枠の対象となる可能性もあるという。現在の日本では株式の資金決済は約定から2営業日後、国債は1営業日後に完了しており、これが即時決済に変われば投資家は売却代金をただちに次の投資へ振り向けられる。

Striumのメインネットが2026年度内に稼働すれば、公的インフラの稼働まで最短でも3年、長ければ5年以上の空白期間が生じる。渡辺氏は投稿で、政府・日銀が制度設計を進める間に実物を先駆けることで貢献したいという趣旨を述べており、この先行を意図的な戦略と位置づけている。

空白期間に、何で決済するのか

経営層が最も注視すべきはここである。トークン化された株式や国債を24時間365日取引できるようになったとして、その対価は何で支払われるのか。Striumが想定するのはJPYSCすなわち民間発行の信託型ステーブルコインであり、日銀当座預金のトークンではない。つまり2030年代前半までの数年間、日本には中央銀行マネーで決済されないトークン化証券市場が先行して存在することになる。

国際的な決済システム原則では、システム上重要な決済はできる限り中央銀行マネーで行うことが望ましいとされてきた。民間マネーによる決済は、発行体の信用リスクを決済に持ち込むためである。信託型ステーブルコインは倒産隔離により保全水準が高いとはいえ、中央銀行マネーと同等ではない。この差をどう評価し、どこまでの取引規模なら許容するのかは、参加を検討する金融機関が自ら判断しなければならない論点だ。

原簿は誰が持つのか

もう一つの未解決点は台帳である。Striumは自らをアジアにおけるオンチェーン証券市場の基盤的な取引所レイヤーと位置づけている。取引所レイヤーという表現は、原簿そのものを置き換えるとは言っていない。上場株式の権利関係は振替法に基づき証券保管振替機構が管理し、国債は日銀が振替決済制度を運営している。Strium上のトークンがこれらの原簿とどう同期するのか、原簿を写した鏡なのか、それとも原簿の地位を移すのかで、法的性質もリスクも投資家保護の枠組みもまったく異なる。

三菱UFJフィナンシャル・グループは2027年度にも日本国債のレポ取引をブロックチェーン上で決済する方針を示しており、こちらも同じ問いに直面する。原簿へのアクセスと同期の設計が、この領域における実質的な競争軸になる。

経営層への含意

Startaleは2026年、SBIグループから約80億円を調達し、Sony Innovation Fundと合わせたシリーズA総額は約100億円に達した。SBIホールディングスが国内外に持つ8,000万人超の顧客基盤と組み合わせれば、実装の資源は揃っている。問われるのは、公的インフラが整うより先に立ち上がる市場に、自社がいつ、どの立場で参加するかである。

【事業開発に関するインサイト】

  1. 時間軸の二重構造を前提に、参加時期を意思決定すべきである。民間レイヤー1が2026年度内、公的な即時決済インフラが2030年代前半という3年から5年のずれは、日本のオンチェーン金融における最も重要な構造的事実である。この空白期間に参加すれば先行者としての知見と発言力を得られるが、中央銀行マネーによらない決済の信用リスクを引き受けることになる。参加を見送れば標準化の議論に後から入ることになる。この二択を、技術評価ではなくリスク許容度の問題として経営会議に上げるべきである。
  2. 提携検討の第一の確認事項は「原簿との関係」である。取引所レイヤーを標榜するプラットフォームに参加する際、そのトークンが証券保管振替機構や日銀の振替制度とどう接続されるのかを、契約前に文書で確認する必要がある。原簿を写したミラー型であれば同期不整合のリスクを誰が負うのか、原簿そのものを移す設計であれば法令上の位置づけをどう整理するのか。この一点で、事業リスクの性質が根本的に変わる。
  3. 検討会への参加と自社実装は並走させるべきである。2027年初の整備計画がまとまるまでに、Strium、三菱UFJの国債レポ、3メガバンクの共同ステーブルコインといった民間実装が次々と稼働段階に入る。制度設計の場で議論される選択肢は、その時点で動いている実装に強く規定される。標準化を待って動くのではなく、動きながら標準化に関与することが、この局面では現実的な戦略になる。

【引用:出典】

CoinPost「スターテイルCEO、Strium年内テストネット公開へ 金融特化レイヤー1ブロックチェーン」(2026年8月27日)https://coinpost.jp/?p=733578 渡辺創太氏 X投稿(2026年8月26日)https://x.com/SotaOnchain/status/2092414096054579547 Startale「StartaleとSBIホールディングス、次世代オンチェーン金融取引に特化したレイヤー1ブロックチェーン『Strium』を発表」(2026年2月5日)https://startale.com/ja/blog/strium-announcement STARTALE LABS PTE. LTD. プレスリリース(PR TIMES、2026年2月5日)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000017.000114522.html 日本経済新聞「国債や株、即時決済可能に 政府・日銀がブロックチェーン整備へ始動」(2026年8月26日)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB056AP0V00C26A8000000/ あたらしい経済「日本政府と日銀、国債・株式の即時決済へブロックチェーン基盤整備。日銀当座預金をトークン化=報道」(2026年8月26日)https://www.neweconomy.jp/posts/602317 CoinPost「政府・日銀、ブロックチェーンで国債・株即時決済へ始動 検討会設置し27年計画=日経」(2026年8月26日)https://coinpost.jp/?p=733359 日本経済新聞「国債の即時取引始動へ 三菱UFJが27年度にも、ブロックチェーン活用」(2026年8月)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB048PJ0U6A800C2000000/ CoinPost「スターテイル、SBIから約80億円調達 JPYSC・Strium開発加速」https://coinpost.jp/?p=696854 CoinPost「SBIホールディングスとStartale Groupが戦略的合弁会社設立を発表」https://coinpost.jp/?p=644582 SBI VCトレード「JPYSC|国内唯一の日本円建て信託型ステーブルコイン」https://www.sbivc.co.jp/jpysc

監修

石田陽之(いしだあきひさ)

Cabinet株式会社 代表取締役

2017年より、一貫してトークンやNFTの活用、ブロックチェーンゲームの企画・開発、NFTを活用した事業開発に従事。大手エンタメ上場企業を始め、80件以上のブロックチェーンプロダクトに対し事業責任者や設計、PM、アドバイザー等、様々な立場でブロックチェーン関連の事業開発に関わってきた。2021年よりCabinet株式会社を創業。

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