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2026年08月28日

日本の証書は「何時に発電したか」を知らない ── アワリーマッチング対応が民間台帳から始まる理由

日本の証書は「何時に発電したか」を知らない ── アワリーマッチング対応が民間台帳から始まる理由

何が始まるのか

実装対象は「エネLink」シリーズの「電力CIS・小売基幹業務ソリューション」である。TISIはこれまで電力CISで30社の導入実績を持ち、UPDATERは2018年にブロックチェーンを活用した電力トラッキングシステムを世界で初めて商用化して以来、現在は600か所以上の再エネ発電所と4,000か所以上の需要施設を対象に運用を継続している。TISIは2025年度からUPDATERの実データを用いた技術検証を実施し、時間単位での発電情報の証明に関する国際標準を策定するEnergyTagの要件をふまえ、アワリーマッチングの実現が技術上可能であることを確認したとしている。

なぜ2026年12月なのか

背景にあるのは、企業の温室効果ガス排出量算定の国際基準であるGHGプロトコルのScope 2算定ルール改定である。現行ルールでは、環境価値証書は年間単位で電力使用量と対応させれば足りる。改定案では、市場基準手法において証書を1時間単位で使用量に一致させることと、その電力が実際に届きうる範囲であることの二つが求められる方向にある。公開協議は2025年10月から2026年1月にかけて行われ、最終版の公表は2027年末が見込まれ、適用は複数年かけて段階的に進む想定だ。

だが日本企業にとって、より切迫した期限は別にある。SBTの新基準は2027年2月1日に適用が開始され、年間電力使用量が1,000万kWh以上の企業に対して時間単位の電力使用状況の算定・報告を求める。GHGプロトコルの最終公表より10か月以上早い。2026年12月というサービス提供開始時期は、この2月の期限から逆算された設定と読むのが自然である。

日本の証書は時刻を知らない

ここが本件の核心である。日本の非化石証書は2024年度から全量トラッキングに移行し、すべての証書に発電方法、発電所名、発電所所在地といった属性情報が付与されるようになった。透明性は大きく向上した。しかしそこに含まれないものがある。何時に発電されたかという情報である。

自然エネルギー財団が指摘するとおり、海外の主要な証書も発電した日の情報までは扱えるが、時間の情報は扱えないのが現状だ。つまり非化石証書を何枚積み上げても、アワリーマッチングを証明することはできない。証書制度そのものの改正が必要になるが、それは2027年2月には間に合わない。

この空白に対して、実務は二つの経路で応じ始めている。一つは、フィジカルPPAを通じて発電事業者から時間別の発電実績を直接取得する経路である。もう一つが、発電と需要の突合を独自の台帳上で記録し証明する経路であり、今回の取り組みはこちらにあたる。JERA Crossが2026年4月にGoogle Cloudのデータセンター向けにEnergyTagの標準に基づく時間単位証書を生成する実証を行ったのも、同じ空白への対応である。

なぜブロックチェーンなのか

環境価値の証明で問われるのは、その証書が二重に使われていないことと、後から改ざんされていないことである。公的な証書制度がこれを担保しない領域では、記録の一意性と改ざん耐性を技術で担保するほかない。UPDATERがブロックチェーンを用いた電力取引・トレーサビリティの仕組みで特許を取得し、8年間にわたり実証ではなく商用環境で運用してきた実績は、この文脈で意味を持つ。

提供形態も重要だ。SaaS型で既存のCISから独立して導入できる設計になっており、電力小売事業者は基幹システムの大規模改修を避けられる。ブロックチェーンの導入という言葉が想起させる負担を、導入させないことで回避する構成である。

経営層への含意

TISIは東証プライム上場のTISインテックグループの中核企業で、4,500社以上の顧客基盤を持つ。UPDATERは旧みんな電力で、B Corp認証やCDP認定再エネプロバイダーの評価を受けている。両社は将来的にこの機能を業界標準のプラットフォームとして定着させる方針を掲げている。証書制度が時刻情報を持つよう改正されるまでの数年間、時間単位の証明力がどこに宿るかを決める競争が始まっている。

【事業開発に関するインサイト】

  1. 意識すべき期限は2027年末ではなく2027年2月である。GHGプロトコルScope 2改定の最終公表が2027年末、適用が2028年以降の段階実施であることから、対応は先の話だと受け止められがちである。しかしSBTの新基準は2027年2月1日に適用が始まり、年間1,000万kWh以上を使用する企業に時間単位の算定・報告を求める。大規模なオフィスやデータセンターを持つ事業者は、この閾値に該当するかを直ちに確認し、該当する場合は2026年内に対応手段を確定させる必要がある。
  2. 公的制度が空白の間、証明力は民間台帳に宿る。非化石証書が時刻情報を持たない以上、アワリーマッチングの証明は事業者ごとの私的な記録に依存せざるを得ない。ここで問われるのは、その記録を第三者が信頼できるかである。EnergyTagのような国際標準への準拠が、相互運用性と監査対応の唯一の担保になる。取引先やシステムベンダーを選定する際は、ブロックチェーンを使っているかどうかではなく、どの標準に準拠しているかを確認すべきである。
  3. インフラ刷新を伴わない導入設計が、普及速度を決める。今回の提供形態は、既存CISに手を入れずSaaSとして外付けするものである。過去のブロックチェーン導入事例が基幹システムの刷新を前提として頓挫してきたのに対し、この設計は導入判断のハードルを大きく下げる。自社でブロックチェーン活用を検討する部門は、技術の優位性ではなく「既存システムを触らずに済むか」を最初の評価軸に置くことで、社内の合意形成コストを大幅に下げられる。

【引用:出典】

TISI株式会社「TISI、『エネLink』シリーズにおけるアワリーマッチング対応機能実装をUPDATERと開始」(PR TIMES、2026年8月28日)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001968.000011650.html TISI株式会社ニュースリリース(2026年8月28日)https://www.tisi.jp/news/2026/tisi_news/20260828_1.html あたらしい経済「TISIとUPDATER、ブロックチェーン活用で再エネの発電・使用を時間単位照合。『エネLink』に実装へ」(2026年8月28日)https://www.neweconomy.jp/posts/603266 GHG Protocol「RELEASE: GHG Protocol Opens Public Consultations on Scope 2 and Electricity Sector Consequential Accounting」https://ghgprotocol.org/blog/release-ghg-protocol-opens-public-consultations-scope-2-and-electricity-sector-consequential GHG Protocol「Upcoming Scope 2 Public Consultation: Hourly Matching and Deliverability」https://ghgprotocol.org/blog/upcoming-scope-2-public-consultation-hourly-matching-and-deliverability Bird & Bird「GHG Protocol Scope 2 Revisions: A Game Changer for Corporate PPAs?」(2026年5月)https://www.twobirds.com/en/insights/2026/ghg-protocol-scope-2-revisions-a-game-changer-for-corporate-ppas 自然エネルギー財団「転機を迎える『非化石証書』:国際的な基準に合わせた改正を」(2026年6月24日)https://www.renewable-ei.org/activities/column/REupdate/20260624.php EneTrack(SCSK)「24/7カーボンフリーとは何か?~GHGプロトコル改定会議とRMMでの議論を踏まえて~(後編)」https://enetrack.scsk.jp/topics/page019/ JERA Cross「Googleデータセンターに対する再生可能エネルギー利用の時間単位証書の生成に関する実証について」(2026年5月)https://www.jera-cross.com/ja/news/50 TISI株式会社「エネLink」シリーズ https://www.tisi.jp/service_solution/energy/ UPDATER株式会社 https://www.updater.co.jp/

監修

石田陽之(いしだあきひさ)

Cabinet株式会社 代表取締役

2017年より、一貫してトークンやNFTの活用、ブロックチェーンゲームの企画・開発、NFTを活用した事業開発に従事。大手エンタメ上場企業を始め、80件以上のブロックチェーンプロダクトに対し事業責任者や設計、PM、アドバイザー等、様々な立場でブロックチェーン関連の事業開発に関わってきた。2021年よりCabinet株式会社を創業。

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