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2026年09月03日

発行体に拒否権はあるか ― AMC対ロビンフッドが露わにした「株式トークン」の正体

発行体に拒否権はあるか ― AMC対ロビンフッドが露わにした「株式トークン」の正体

応酬の経緯

発端は9月3日、アロンCEOがXでロビンフッドの株式トークンを激しく批判したことにある。翌4日、ブラッド・テネフCEOが「何が懸念なのか」と応じたのに対し、アロン氏は「ジャージー島に作られた疑似的な偽市場は、金融市場全般に対する社会の不信を招く」「株式トークンの保有と、企業が自社の資金調達をコントロールする能力とを切り離すものだ」と反論し、AMC株式トークンの取引を自主的に停止するよう要求した。応じない場合は外部の証券弁護士に法的措置を検討させ、米証券取引委員会(SEC)にも懸念を伝えるとした。ロビンフッド側の反応は冷淡だった。SEC元委員で同社の最高法務・コンプライアンス責任者を務めるダン・ギャラガー氏は「弁護士を寄こしてくれ、こちらが教育してあげよう」と投稿し、テネフCEOも「われわれは株式トークンを支持する」と表明した。皮肉なことに、この騒動を受けてAMC株は9月4日のプレマーケットで約20%上昇し、ロビンフッド株は1%超下落した。

争われている商品は「株式」ではない

議論の前提として、商品の構造を正確に押さえる必要がある。ロビンフッドの株式トークンには二つの世代がある。第一世代の「Classic Stock Tokens」は2025年6月30日にEU顧客向けに開始され、アービトラム上でデリバティブとして組成された。当初200銘柄超から2,000銘柄超へ拡大したが、リトアニア中銀から法的位置づけの説明を求められた経緯を持つ。今回争点となっているのは第二世代で、2026年7月に自社のイーサリアムL2「Robinhood Chain」上で120カ国超に向けて開始されたものである。こちらはジャージー法人Robinhood Assets (Jersey) Limitedが発行する債務証券として組成され、基本目論見書はEU目論見書規則に基づきリヒテンシュタイン金融市場庁の承認を受けている。ただし同社自身が、ジャージーでの承認は規制当局による推奨や健全性監督を意味しないと開示している。重要なのは、購入者が対象企業の株主にはならず、議決権も所有権も得られないこと、そして米国証券法に基づく登録を受けておらず、米国内および米国人への提供が禁止されている点である。カナダ、英国、スイスでも制限がかかる。アロンCEOによれば対象はAMCを含む190社超に及ぶ。

法律家の見立ては証券法ではなく商標

Decryptが取材した複数の法律家の見解は一致していた。RWAトークン化プラットフォームtxの法務担当アシュリー・エバソール氏は、商品がオフショアで提供され米国向けアプリに存在しないことを挙げ、追及すべき明白な米証券法上の切り口はないと述べた。同氏が挙げた有力な論点は二つで、公開会社の商標に通常認められるフェアユースの範囲を超えた使用があった場合と、実在しないAMCとの関連性を誤認させている場合である。マイアミの暗号資産弁護士ラッセル・クライン氏も、株式ではなくデリバティブであることを明示する免責文言と規約が整っていれば、AMCに残る手段は法的な威嚇と規制当局へのロビイングだけだと指摘した。同氏は、上場企業には自社株に連動する金融商品を第三者が組成することを妨げる財産権はない、とまで踏み込んでいる。ロビンフッドと提携するDEXアーカスの法務責任者ダニエル・ラスコ氏は、運用会社がETFに特定企業の株式を組み入れるのと同じことだとし、むしろ従来アクセスできなかった海外投資家を米国資本市場に呼び込む効果があると述べた。もっとも業界内の見方は一枚岩ではない。セキュリタイズのカルロス・ドミンゴCEOはアロン氏に同調し、上場企業のCEOとして自社株のオフショア・デリバティブが各所で取引される事態は望まないと述べたうえで、AMCのトークン化株式が実際の株価の60倍で取引されていたと主張した。この数値は本人のX投稿によるもので第三者検証はないが、価格乖離こそが合成型商品の本質的な脆弱性であることを示唆している。

市場は急拡大、しかし絶対規模はなお小さい

背景には市場の急成長がある。トークン化株式の分散価値は2025年6月時点で約200万ドルにすぎなかったが、2026年3月末に約4億8,700万ドル、7月から8月にかけては約20億〜25億ドル規模に達した。RWA全体(ステーブルコインを除く)が2026年8月13日時点で約382億9,000万ドルであることを踏まえれば、なお一部分にすぎない。取引面ではCoinGeckoの集計で2026年第1四半期の現物取引高が151億2,000万ドル(約2.3兆円)に達し、2025年下半期の148億4,000万ドルを上回った。ただし上位5銘柄でさえ実際の株式市場における取引高の1%未満にとどまる。シティは2030年までに5兆5,000億ドルの資産がトークン化され、うち2兆7,000億ドルが株式になると予測しているが、現時点の実勢との距離は大きい。

日本企業にとっての含意

この対立は日本の上場企業にとって他人事ではない。日本の企業がロビンフッドやその同種のプラットフォームで自社株を参照するトークンの対象に加えられた場合、AMCと同じ立場に置かれる。日本の証券規制は日本国内での勧誘・販売には及ぶが、オフショアで日本人以外に提供される商品の組成を止める根拠にはならない。国内では、こうしたトークンを日本居住者に提供するには第一種金融商品取引業の登録が必要であり、無登録業者への警告という手段は残る。しかし自社株を参照する商品が海外で流通すること自体を封じる術は、AMCの例が示すとおり乏しい。もう一つの含意は、日本のセキュリティトークン市場が採ってきた発行体主導の設計との対比にある。ibet for FinやProgmatに代表される国内のSTは、発行体の関与と原簿管理を前提に組み立てられてきた。合成型を経由せず発行体公認型から入った日本は、今回のような紛争を国内では経験していない。それは制度設計の堅実さの表れであると同時に、合成型が先に流動性を獲得する国際市場において、日本の商品が競争上どこに位置するかという問いを残す。

事業開発インサイト

  1. 発行体の「同意権」は存在しないという前提で戦略を組むべきである。上場企業には、自社株に連動する金融商品の組成を第三者が行うことを止める財産権はない。ETF、CFD、スワップで長く成立してきた原則が、トークン化によって初めて可視化されただけとも言える。日本の上場企業のIR・法務部門が備えるべきは、差止めの検討ではなく、自社株を参照する非公認商品が海外で流通していることを前提とした投資家コミュニケーションの設計である。具体的には、株主としての権利が付随しないことを明示する開示、誤認を招く商標使用が生じた場合の商標法上の対応準備、そして自社株の価格乖離が生じた際の説明責任の所在整理が実務課題になる。
  2. 「合成型か、発行体公認型か」という選択が競争軸として明確化した。今回、セキュリタイズのCEOが自社株を米国内でネイティブにトークン化した事実を引き合いに出してアロン氏に同調したことは象徴的である。株式トークンには、価格連動のみの合成型、規制対象カストディアンが原株を保有する裏付け型、発行体自身が株主権付きでオンチェーン化する公認型という三つの類型がある。日本の金融機関がこの領域に参入する場合、規制環境と顧客基盤からして公認型または裏付け型が現実的な選択肢となる。その際の差別化要因は、原株の保管と原簿管理を担う能力、および配当や議決権をオンチェーンで処理する事務基盤にある。合成型との価格乖離が問題視される局面が来れば、この能力の価値は相対的に高まる。
  3. 規制裁定の持続可能性を割り引いて評価する必要がある。ロビンフッドの構造は、ジャージーでの発行、リヒテンシュタインでの目論見書承認、米国・カナダ・英国・スイスでの提供禁止という多層的な法域設計に依存している。法律家が「明白な米証券法上の切り口はない」と述べているのは、現行制度下での話にすぎない。今回の対立が米国内の規制整備を加速させる可能性は複数のメディアが指摘しており、規制が追いつけば商品構造の再設計が必要になる。海外のトークン化株式プラットフォームとの提携や投資を検討する場合、現在の収益構造がどこまで法域設計に依存しているかを分解し、規制変更耐性を評価軸に組み込むべきである。

出典

NADA NEWS「非公認のトークン化株式めぐり真っ向対立──米映画館大手がロビンフッドに取引停止要求=報道」2026年9月5日 https://www.nadanews.com/367059/ Decrypt「'Send Your Lawyers': Robinhood Isn't Backing Down From AMC Over Stock Tokens」2026年9月4日 https://decrypt.co/377461/send-your-lawyers-robinhood-not-backing-down-amc Robinhood「Stock Tokens 開示」https://docs.robinhood.com/chain/stock-tokens/ CoinDesk「AMC CEO Tells Robinhood to Stop Issuing Stock Token as Industry Executives Weigh In」2026年9月4日 https://www.coindesk.com/business/2026/09/04/amc-ceo-tells-robinhood-to-stop-issuing-stock-token-as-industry-executives-weigh-in Stocktwits/TradingView「AMC Stock Rallies Nearly 20% Premarket As CEO Adam Aron Blasts Robinhood Over 'Disgusting' Stock Tokens」2026年9月4日 https://stocktwits.com/news-articles/markets/equity/amc-stock-rallies-nearly-20-premarket-as-ceo-adam-aron-blasts-robinhood-over-disgusting-stock-tokens/cZswydsRJwL crypto.news「Robinhood-AMC clash may speed US stock token rules」2026年9月 https://crypto.news/robinhood-amc-clash-may-speed-us-stock-token-rules/ COINOTAG「AMC CEO Adam Aron Demands Halt to Robinhood's Ethereum-Based Stock Tokens Covering 190+ Companies」2026年9月 https://en.coinotag.com/amc-ceo-adam-aron-demands-halt-robinhood-ethereum-stock-tokens Tech Times「Robinhood Chain Goes Live With Tokenized Stocks and a Key Ownership Caveat」2026年7月2日 https://www.techtimes.com/articles/319564/20260702/robinhood-chain-goes-live-tokenized-stocks-key-ownership-caveat.htm CoinGecko「RWA Report 2026」 https://www.coingecko.com/research/publications/rwa-report-2026 Crypto Briefing「Tokenized stocks' share of total RWA market cap rises to over 15%」2026年8月 https://cryptobriefing.com/tokenized-stocks-rwa-market-cap-share/ Decrypt「Robinhood introduced tokenized stock trading for European customers」2025年 https://decrypt.co/327816

監修

石田陽之(いしだあきひさ)

Cabinet株式会社 代表取締役

2017年より、一貫してトークンやNFTの活用、ブロックチェーンゲームの企画・開発、NFTを活用した事業開発に従事。大手エンタメ上場企業を始め、80件以上のブロックチェーンプロダクトに対し事業責任者や設計、PM、アドバイザー等、様々な立場でブロックチェーン関連の事業開発に関わってきた。2021年よりCabinet株式会社を創業。

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