9億ドルのうち株式トークンは1億5,000万ドル ― ロビンフッド・チェーンの数字を分解する

数字の中身を分解する
DefiLlamaによれば、Robinhood Chainの預かり資産(TVL)は9月11日時点で約9億ドル(約1,400億円、1ドル=155円換算)と過去最高圏にある。直近7日間のDEX取引高は約111億ドルで、週間で3割以上伸びた。9月1日には日次手数料が過去最高の375万ドル(約5.8億円)に達し、4日連続の最高値更新でイーサリアム本体とBaseを上回った。7月1日のメインネット稼働からわずか2カ月で、累計手数料は1,300万ドルを超えている。
同チェーンはArbitrumのOrbitスタックで構築されたイーサリアムのレイヤー2で、ブロック生成間隔100ミリ秒、決済はイーサリアムに戻す。120カ国超の適格投資家向けに190銘柄を超える株式トークンを扱える設計だ。
ところが中身は設計と違う。ロビンフッドが9月9日に公式Xで明らかにしたところでは、株式トークンに預けられた資産は1億5,000万ドル(約233億円)、TVL全体の約17%にすぎない。取引高の内訳はさらに極端で、24時間取引高が過去最高の15億4,500万ドルを記録した9月2日でも、株式トークンは1億2,700万ドル、ミームコインと株式トークンのペアが2億1,700万ドルだった。合計しても全体の2割強で、残る8割近くは純粋な投機だ。
手数料記録には満期日がある
見落とされやすいのは、この数字に補助が入っていることだ。ロビンフッドは自社ウォレット経由の取引についてガス代を肩代わりしており、利用者にとって取引は実質無料である。この措置は9月29日で終わるとされている。
経済構造を追うと含意が見える。ロビンフッドはシーケンサーを自社運営し、L1の決済コストとArbitrumへの分配を差し引いた残りを取得する。Arbitrum拡張プログラムにより、Orbitチェーンは純シーケンサー収益の10%をArbitrumへ拠出する(DAO財務に8%、開発者ギルドに2%)。9月1日の記録日には約37.7万ドルが流れ、同日のArbitrum本体の手数料が1万5,000ドル未満だったことと比べれば桁が違う。
だが肩代わり分については、ロビンフッドが自ら支払ったガス代が手数料として計上され、その大半が自社に戻る構図になる。差し引きで失うのはL1データコストとArbitrumへの10%であり、その部分は事実上の顧客獲得費用が第三者ダッシュボード上で収益として記録されているにすぎない。手数料のうちどれだけが自社負担かは開示されていないため比率は不明だが、9月29日以降の数字がこの疑問に直接答えることになる。判断材料として、補助終了後もArbitrum DAOへの日次拠出が10万ドルを超え続けるかどうかが目安になるとの見方がある。これはチェーン手数料に換算しておよそ日次100万ドル、ピークの4分の1程度の水準だ。
二つの事件が露わにした、発行体同意の空白
9月に入って起きた二件は、株式トークンという商品の構造的な弱点を示した。
一つはFarmmi(ファーミ)の件である。9月2日、従業員約15人、発行済株式約3,743万株のナスダック上場企業の株価が、日中一時350%高い0.50ドルまで急騰した。出来高は7億2,000万株超と平常時の約90倍。会社は何も発表していない。きっかけはRobinhood Chain上で立ち上がったミームコイン「JINQIAN」と、同社のティッカーを借りた非公認のFAMIトークンのペアだった。このFAMIトークンは第三者が独自に発行したもので、総供給約3,700万単位が一度の取引で二つのウォレットに発行され、発行者が38%を保有し流動性プールの価格改定を行うコントラクトも握っていた。現物株との交換機構は存在しない。つまりトークンの購入が現物株の買いを生む仕組みは一切なく、それでも規制市場の株価が動いた。伝播したのは資金ではなく物語である。
もう一つはAMCの件だ。ロビンフッドの株式トークンは、チャネル諸島のジャージー籍法人Robinhood Assets (Jersey) Limitedが発行する、現物株を1対1で裏付けとするトークン化された債務証券である。米証券法上は未登録で、米国居住者向けではない。AMCのアーロンCEOは9月3日、自社株を含む190社超が同意なくトークン化されていたことに強く抗議し、取引停止とSEC提起を示唆した。ロビンフッドのテネフCEOは「何が問題なのか」と応じ、上場企業は自社株を対象とする金融商品を統制できないという立場を示した。SEC職員は2026年1月、発行体と無関係の第三者による証券のトークン化があり得ることを認めており、これがロビンフッド側の法的な足場になっている。
ここで最も重要でありながら議論が薄いのが議決権の所在だ。裏付けとして現物株を保有するのはロビンフッドであり、議決権もロビンフッドにある。トークン保有者に議決権はない。そしてテネフ氏は、その議決権をどう行使するかは公表していないと述べた。190社超の米国上場企業について、開示のないまま議決権が一社に集積していく構図である。
シェアではなく、注目を取っている
もっとも、株式トークン市場でロビンフッドが首位というわけではない。The Blockによれば時価総額ベースの最大手はOndo Financeの約9億5,700万ドルで、Binanceの「bStocks」が約6億2,200万ドル、Kraken傘下の「xStocks」が約6億ドルと続き、3社で市場の約77%を占める。市場全体は約36億ドル規模とされる。9月10日にはソラナ上のPump.funがテスラやエヌビディアの株式トークンを取引ペアに選べる機能を発表しており、競争は主導権争いの段階に入りつつある。
日本の制度環境は事情が異なる。電子記録移転有価証券表示権利等の枠組みは発行体の関与と開示を前提としており、発行体非関与でオフショア法人が債務証券として組成するロビンフッド型は、国内でそのまま成立しない。制約であると同時に、いま米国で噴出している論点を構造的に回避している設計でもある。
【事業開発に関するインサイト】
- チェーンの成績はTVLと手数料ではなく、当初目的への充当率で評価すべきである。Robinhood Chainは預かり資産の約17%、記録日の取引高の約8%しか株式トークンに向いていない。自社チェーンやコンソーシアム基盤を検討する事業者は、総額の伸びではなく「目的資産比率」をKPIに組み込むべきで、総額は目的達成の証拠にならない。
- 補助金付きの指標には満期日がある。9月29日のガス肩代わり終了は、外部から観測できるストレステストとして機能する。自社で基盤やアプリを立ち上げる際も、獲得施策の終了日を先に定め、その前後の指標変化を取締役会に報告する設計にしておくべきだ。提携先を評価する場面でも、相手方の指標に補助が入っていないかを最初の確認項目に置く価値がある。
- 発行体同意と議決権の所在は、日本でトークン化株式に関わる際の最初の分岐点になる。裏付け株式の議決権をどう扱うかを製品仕様の段階で定め、発行体の同意取得手順とあわせて設計しておくことは、規制対応であると同時に、米国型モデルが抱える論点を回避できる差別化要因になる。
【引用:出典】
NADA NEWS「なぜ今ロビンフッドなのか──預かり資産9億ドル、ただし主役は株式トークンではない」(2026年9月11日)https://www.nadanews.com/367649/ DefiLlama「Robinhood Chain」https://defillama.com/chain/robinhood-chain The Cryptonomist「Robinhood Chain Fees Reach New Record Highs in 2026」https://en.cryptonomist.ch/2026/09/02/robinhood-chain-fees-record/ crypto.news「Robinhood Chain flips Solana in revenue as gas subsidy ends」https://crypto.news/robinhood-chain-flipped-solana-revenue-gas-subsidy-expires/ Crypto Briefing「Robinhood Chain hits record $3.75M in daily fees, funneling hundreds of thousands to Arbitrum DAO」https://cryptobriefing.com/robinhood-chain-record-fees-arbitrum-dao/ The Block「Memecoin shenanigans spill into Nasdaq as microcap mushroom seller Farmmi surges 350%」https://www.theblock.co/news/markets/2026-09-02-memecoin-shenanigans-nasdaq-microcap-mushroom-seller-farmmi-413374 The Crypto Times「Farmmi (FAMI) Stock Surges 350% as JINQIAN Memecoin Debuts on Robinhood Chain」https://www.cryptotimes.io/2026/09/03/farmmi-fami-stock-surges-350-as-jinqian-memecoin-debuts-on-robinhood-chain/ CoinDesk「AMC CEO tells Robinhood to stop issuing stock token as industry executives weigh in」https://www.coindesk.com/business/2026/09/04/amc-ceo-tells-robinhood-to-stop-issuing-stock-token-as-industry-executives-weigh-in CNBC「Robinhood CEO says companies can't control how their stock is tokenized as AMC clash escalates」https://www.cnbc.com/2026/09/09/robinhood-ceo-says-companies-cant-control-how-their-stock-is-tokenized-as-amc-clash-escalates.html Gizmodo「AMC CEO Furious at Robinhood for Tokenizing Stock Without Permission」https://gizmodo.com/amc-ceo-furious-at-robinhood-for-tokenizing-stock-without-permission-2000808028 The Block「Tokenized equities triple market share: Ondo, Binance, xStocks dominate」https://www.theblock.co/news/defi/2026-08-17-tokenized-equities-triple-market-share-ondo-binance-xstocks-dominate-411996 NADA NEWS「ソラナでトークン化株式が本格展開──ロビンフッド発チェーンに対抗か」https://www.nadanews.com/367600/
石田陽之(いしだあきひさ)
Cabinet株式会社 代表取締役
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