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2026年09月09日

「速い・安い」が終わった後のオンチェーン決済 ― 勝ち筋はカードとエージェント、ただし数字の中身を見る

「速い・安い」が終わった後のオンチェーン決済 ― 勝ち筋はカードとエージェント、ただし数字の中身を見る

差別化要因としての「速い・安い」は消滅した

Duneは9月8日のニュースレターで、即時決済網の世界的な普及により、常時稼働・数秒決済・低コストという特性はもはやオンチェーン決済の優位ではなくなったと述べた。インドのUPIは1日平均7.9億件、ブラジルのPixは約2.5億件を処理し、いずれも消費者は無料で利用できる。米国のRTPとFedNowは1件あたり最大1,000万ドル(約15.4億円)の送金に対応し、RTPは1日8,620億ドル…ではなく86.2億ドル(約1.33兆円)の取扱高記録を更新、FedNowの参加金融機関は約1,700に達した。ユーロ圏のSEPA Instantは10秒以内に着金する。J.P.モルガンによれば即時決済網はすでに70カ国以上で稼働している。

日本も例外ではない。全銀システムは2018年10月のモアタイムシステム稼働で24時間365日化しており、2026年初時点の参加金融機関は1,070行超。2025年11月にはAPIゲートウェイが稼働し、資金移動業者として初めてワイズ・ペイメンツ・ジャパンが接続した。国内送金の速度と手数料でオンチェーンが勝つ余地は、日本ではさらに狭い。

勝っているのはカード、ただし4倍の中身

Duneの集計では、仮想通貨カードの月間利用額は1億2,600万ドル(約194億円)から4億9,200万ドル(約758億円)へと約4倍に拡大し、2026年8月には14万2,510人が利用して、Duneが把握する消費者向けステーブルコイン決済額の98%を占めた。対してShopifyやStripe経由のネイティブ・オンチェーン決済は合計850万ドル(約13億円)にとどまる。オフランプ型は軒並み縮小し、オンチェーン請求書決済はほぼ半減、決済代行会社の取引額も約13%減った。カードが月間3億6,600万ドルの純増を記録する一方、それ以外の手法は合計7,800万ドルの減少である。

ここで注意すべき点がある。Duneは、アクティブ保有者が一時的に急増したWirexを除外すると前年比の伸びは219%になると注記している。約4倍という見出しには、単一発行体の一過性要因が含まれている。

より重要な含意は構造の方だ。勝っているのは「オンチェーン残高を既存のカード網に接続する」形式であって、オンチェーンで完結する決済ではない。加盟店は依然としてVisa・Mastercardの手数料構造の中にいる。オンチェーンは資金の出所を変えたが、決済レールそのものは置き換えていない。

エージェント決済は、件数と金額が完全に乖離している

AIエージェントによる決済件数は1年前の月間3万9,496件から1,530万件へ急増した。8月のオンチェーン決済では1セント未満の取引が全体の70.8%、約1,330万件を占め、その99.99%がエージェントによるものだった。ただし金額合計は約3万5,000ドル(約540万円)、エージェント決済全体でも64万3,721ドル(約9,900万円)にすぎない。カード利用額の0.13%である。

ピーク値の解釈にも留保が要る。Duneは2025年12月に月間6,960万件・890万ドルでピークを打ったとするが、Chainalysisの分析によれば、2025年第4四半期の急増の相当部分は「PING」というpay-to-mint型ミームコインに由来する。1 USDCを支払ってHTTP 402応答を受けミントする仕掛けで、1週間で取引が1万%超増加した。ピークは自律的な経済活動というより、投機的な反復操作を多く含んでいた可能性が高い。

一方で技術的下限は本物だ。FedNowの1件あたり最低手数料0.045ドル(約7円)は、1セント未満の決済を原理的に成立させない。ここはオンチェーンにしかできない領域である。ただし現時点の市場規模は月間64万ドルであり、投資判断は「市場」ではなく「実証」として扱うべき水準にある。8月の1,530万件のうち1,470万件、96%をx402が占めており、利用者と受取先の集中も残る。

24時間稼働は、企業決済ではほとんど使われていない

企業間決済では、金額ベースで週末に処理された割合はわずか約5%だった。件数ベースでは21%が週末に動いており、消費者・エージェントの資金フローが25〜29%であることと対照的だ。ブロックチェーンが24時間動いていても、企業側の承認プロセスとオフランプは動いていない。取引金額の中央値は約500ドル(約7.7万円)で、8月の最大決済8,00万ドル、すなわち800万ドル(約12.3億円)でさえ即時決済網の上限枠に収まる。

Duneが残された優位として挙げるのはクロスボーダーとアンバンクトの2点である。各国の即時決済網は国境を越えると相互接続性に制約があるのに対し、ステーブルコインは同一ネットワーク上で価値を移転できる。ただし送金できることと受け取れることは別問題であり、ウォレットの特定、本人確認・資金洗浄対策、現地通貨への換金という課題が残る。

【事業開発に関するインサイト】

  1. オンチェーン決済への投資は、レールの置き換えではなく分配チャネルへの接続として評価すべきである。勝っているカード形式は既存カード網の上に乗っており、加盟店手数料の構造は変わらない。収益源はインターチェンジの分配と為替・トレジャリーのコスト削減であって、決済手数料の破壊ではない。事業計画がここを取り違えると、収益モデルの前提が根本から崩れる。
  2. 件数指標と金額指標を分離してKPIを設計する。1,530万件と64万ドルは同じ現象の二つの側面であり、件数だけを見れば存在しない市場に投資することになる。加えて時系列にはPINGのような投機的反復が混入しているため、ピーク値を基準としたトレンド外挿は避け、クレンジング済みの系列で判断する運用ルールが要る。
  3. 日本で優先すべきは国内決済ではなく、クロスボーダーの着金レイヤーとカード接続である。全銀システムの24時間化と資金移動業者への開放により、国内で速度・コストを競う余地は乏しい。他方、円建てステーブルコインの受け皿と海外側オフランプを規制対応込みで結ぶ設計は未整備であり、参入できる事業者も限られている。ここが実際の主戦場になる。

【引用:出典】

CoinPost「オンチェーン決済、勝ち筋は『カード』と『AIエージェント』=Dune分析」(2026年9月9日)https://coinpost.jp/?p=736486 Dune「Digital Asset Brief」(購読者向けニュースレター)https://dune.com/brief Blockchain.News「Onchain Payments vs. Instant Rails: Access Sets Crypto Apart」(2026年9月11日)https://blockchain.news/news/onchain-payments-vs-instant-rails-access Dune Docs「Payments 데이터 collection overview」https://docs.dune.com/data-catalog/curated/payments/overview Dune「Dune Digest 041」(2026年1月)https://dune.com/blog/dune-digest-041 Chainalysis「Inside x402: 100M Agentic Payments on Base」https://www.chainalysis.com/blog/x402-agentic-payments-adoption/ CryptoPotato「x402 Volume Plunges 93% YTD as Agentic AI Economy Hype Fades」https://cryptopotato.com/x402-volume-plunges-93-ytd-as-agentic-ai-economy-hype-fades/ Forbes「Stablecoins Are Becoming Payment Rails—The Race To Connect Them Is On」(Dune/Visa共同レポート紹介、2026年3月)https://www.forbes.com/sites/boazsobrado/2026/03/27/stablecoins-are-becoming-payment-rails-the-race-to-connect-them-is-on/ 全国銀行資金決済ネットワーク「全銀システムとは」https://www.zengin-net.jp/zengin_system/ 全国銀行協会「内国為替制度」https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/abstract/stats/viewpoint/viewpoint_07.pdf x402ホワイトペーパー https://x402.org/wp-content/uploads/sites/10/2026/06/x402-whitepaper.pdf

監修

石田陽之(いしだあきひさ)

Cabinet株式会社 代表取締役

2017年より、一貫してトークンやNFTの活用、ブロックチェーンゲームの企画・開発、NFTを活用した事業開発に従事。大手エンタメ上場企業を始め、80件以上のブロックチェーンプロダクトに対し事業責任者や設計、PM、アドバイザー等、様々な立場でブロックチェーン関連の事業開発に関わってきた。2021年よりCabinet株式会社を創業。

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