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2026年09月10日

「ビットコイン決済で19%増」は本当か ― 開示レイヤーの落差が映す、暗号資産KPIの読み方

「ビットコイン決済で19%増」は本当か ― 開示レイヤーの落差が映す、暗号資産KPIの読み方

発表内容と、その出所

米ハンバーガーチェーンのステーキンシェイク(Steak 'n Shake)は現地時間9月8日、公式Xで、2025年5月16日のビットコイン(BTC)決済導入以降、既存店売上高(SSS)が2桁増を続けており、今四半期はフランチャイズ加盟店ベースで前年同期比19%増になったと発表した。同社は1934年創業、米国内約393店を含む約400店舗を展開する。ライトニング・ネットワーク経由のBTC決済としては、米外食業界で最大級の一斉導入だった。

ただし、これはSNS投稿による発表であり、集計方法も第三者検証も示されていない。直営店を含む全社ベースの数値も公表されていない。

監査対象の開示と突き合わせる

親会社ビグラリ・ホールディングス(NYSE: BH)のSEC提出書類には、同じ事業について別の数字が並ぶ。2026年第2四半期は直営店と加盟店を合算した国内SSSが13.8%増、内訳は直営店11.9%増、加盟店14.5%増。第1四半期は合算10.0%増、加盟店が約13%増だった。

つまり加盟店ベースの数値は、同一メニュー・同一販促・同一のBTC受付という条件下で、直営店を恒常的に260〜300ベーシスポイント上回っている。この差は利益折半型の加盟店契約という所有構造に帰する部分が大きく、BTCでは説明できない。19%は、構造的に高く出るセグメントを、まだ提出書類に載っていない進行期について切り出した数字である。

さらに、SSSの加速はBTC導入前から始まっていた。2025年第1四半期は3.9%増、第2四半期は10.7%増だが、BTCが稼働したのは同四半期途中の5月16日である一方、牛脂フライへの転換や電子レンジ撤去といった「MAHA路線」の刷新は同年2〜3月に完了していた。ビグラリ自身の年次書簡は、2025年通期10.2%増の主因を製品品質の改善だと説明している。

決済コスト削減の実像

一方、手数料の算術は検証可能で、示唆も明確だ。カード決済のインターチェンジ等は売上の2.5〜3.5%に達するのに対し、ライトニング経由の手数料は極小であり、同社はBTC決済分で約50%の削減効果が続いていると説明する。同社幹部は2026年4月、カード利用者が全員BTCに切り替えれば年間約600万ドル(約9.2億円)の節約になると述べたが、これは同社自身が仮定シナリオだと認めており、実際のBTC決済比率は限定的だ。

この600万ドルから逆算すると全体売上は年4〜5億ドル規模となり、理論上の最大節約でも売上比1.2〜1.5%にとどまる。同じ期間、直営店の食材費は2026年第1四半期に売上比31.4%と前年の30.0%から140ベーシスポイント上昇した。牛脂転換のコストは300ベーシスポイント超との分析もある。決済レイヤーの節約は実在するが、原価上昇を賄うには足りない。

トレジャリー化の代償と、日本での障壁

最も模倣が難しいのは、受け取ったBTCを法定通貨に転換せず「戦略的ビットコイン準備金」に積む設計だ。同社は2026年1月に1000万ドル分を追加している(発表文言は想定元本ベース)。外部トラッカーの推計では保有は160〜170BTC、平均取得単価は約9.3万ドルで、9月12日時点のBTC価格約7.7万ドル(約1,190万円)は取得原価を2割近く下回る。準備金は店舗改装や食材改善の原資に充てるとされており、実質的には運転資金をボラティリティの高い資産で保有していることになる。

日本で同じ設計を採ると負荷はさらに重い。実務対応報告第38号のもと、活発な市場のある暗号資産は会計上、期末時価評価で損益に反映される。税務では令和6年度改正により「特定譲渡制限付暗号資産」に該当すれば原価法を選択できるが、要件は譲渡制限の技術的措置とその公表手続きであり、改装原資として取り崩す前提の準備金はこれを満たさない。決済とトレジャリーの境界を意図的に消す設計は、日本の会計・税制が強制的に引き直すことになる。

【事業開発に関するインサイト】

  1. 暗号資産関連KPIの評価は、開示レイヤーの突き合わせが第一次デューデリジェンスになる。ブランドが発信する数値と、提出書類のセグメント定義済み数値との差分そのものが評価対象であり、この照合手順を定型化したチェックリストは、事業会社の暗号資産導入を審査する金融機関にとって独立したサービス単位になり得る。
  2. 移転可能な価値は売上増ではなく手数料の算術にある。低単価・高頻度・薄利の加盟店ほど効果は大きいが、日本での制約はレールではなく消費者側のウォレット普及と法的建付けである。BTCではなく円建てステーブルコインや前払式支払手段を用いれば、同じ手数料構造を為替・価格リスクなしに再現できる。
  3. 決済レイヤーとトレジャリーレイヤーは分離して設計すべきである。受領は即時円建て化し、暗号資産への配分は取締役会決議による別トラックの投資判断として明示する二層構造にすれば、手数料削減という確実な便益を取りながら、期末時価評価と資金繰りへの波及を管理下に置ける。この設計支援自体が、国内の小売・外食向けの提案商材になる。

【引用:出典】

CoinPost「米老舗レストラン、加盟店売上19%増 ビットコイン決済効果」(2026年9月10日)https://coinpost.jp/?p=736635 Steak 'n Shake 公式X投稿(2026年9月8日)https://x.com/SteaknShake/status/2097465539337601211 Biglari Holdings Inc. 決算リリース 8-K Exhibit 99.1(2026年8月7日)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1726173/000162828026054846/bh-8kexx99120260807.htm Biglari Holdings Inc. Form 10-Q(2026年第1四半期)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/0001726173/000162828026032880/bh-20260331.htm Bitcoin Magazine「Steak 'n Shake Says Sales Grew Double Digits Since Bitcoin Adoption」https://bitcoinmagazine.com/news/steak-n-shake-says-sales-grew Cryptopolitan「Steak 'n Shake's Bitcoin bet posts double-digit sales growth」https://www.cryptopolitan.com/steak-n-shakes-bitcoin-bet-posts-double-digit-sales-growth/ QSR Magazine「Steak 'n Shake's Sales are Still Rising Amid 'MAHA' Push」https://www.qsrmagazine.com/story/steak-n-shakes-sales-are-still-rising-amid-maha-push/ Fortune(2026年4月23日)https://fortune.com/2026/04/23/michael-boes-steak-shake-chief-maha-officer-meat-rfk-food-pyramid/ Bitcoin Magazine「Bitcoin Is Behind Recent Steak 'n Shake Success, Exec Says」https://bitcoinmagazine.com/news/bitcoin-is-fueling-steak-n-shake-comeback Decrypt「Steak 'n Shake Adds $10 Million in Bitcoin Exposure」https://decrypt.co/355051/steak-shake-10-million-bitcoin-exposure-alongside-btc-strategic-reserve 99Bitcoins「Steak and Shake Bitcoin Payments: $6M in Annual Fee Savings」https://99bitcoins.com/news/bitcoin-btc/steak-and-shake-bitcoin-payment-processing-savings/ 国税庁・令和6年度税制改正(特定譲渡制限付暗号資産の期末評価)関連解説 https://profession-net.com/professionjournal/corporation-article-1301/

監修

石田陽之(いしだあきひさ)

Cabinet株式会社 代表取締役

2017年より、一貫してトークンやNFTの活用、ブロックチェーンゲームの企画・開発、NFTを活用した事業開発に従事。大手エンタメ上場企業を始め、80件以上のブロックチェーンプロダクトに対し事業責任者や設計、PM、アドバイザー等、様々な立場でブロックチェーン関連の事業開発に関わってきた。2021年よりCabinet株式会社を創業。

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