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2026年09月17日

ブラックロックが検証するチェーンで、初日にブロックを埋めたのはミームコインだった──サークル「Arc」が露呈した設計と実需のズレ

ブラックロックが検証するチェーンで、初日にブロックを埋めたのはミームコインだった──サークル「Arc」が露呈した設計と実需のズレ

「インターネットの経済OS」という設計

2026年9月16日、米ステーブルコイン発行大手サークルは独自ブロックチェーン基盤「Arc」のメインネットを稼働させた。同社はこれを、決済・資産取引・AIエージェントによる自律的な経済活動までを一括処理する「インターネットの経済OS」と位置づけている。技術的な中核は三点に整理できる。第一に、ガス代(取引手数料)の支払い通貨にUSDCを採用したこと。これによりユーザーは価格変動する独自トークンを事前に調達する必要がなくなり、法人にとっては手数料コストがドル建てで予測可能になる。第二に、1秒未満で確定する決定論的ファイナリティ。第三に、検証者を限定するプルーフ・オブ・オーソリティ(PoA)方式であり、サークルに加えブラックロック、DTCC、ICE、マスターカード、マネーグラム、SBIグループ、スタンダードチャータード、住友商事、ビザ、ギャラクシー、ワールドペイ(現グローバルペイメンツ)の11社が創設検証者として参加する。加えてCircle CCTPおよびGatewayを通じ20以上の他チェーンと接続し、StableFXによって20種類以上の法定通貨連動ステーブルコイン(JPYCを含む)を原子的なPvP決済で交換できる設計となっている。

ARCトークンと2027年の分権化計画

サークルは16日までに、ネットワークトークン「ARC」の初期供給100億トークン全量を米国内で発行した。上場企業が新規レイヤー1のネットワークトークンを発行したのは同社が初となる。ただし同社は、これが公開・上場を確約するものではなく、2027年をめどに検討するPoAからプルーフ・オブ・ステークへの移行に向けた技術的節目だと明言している。ネットワーク手数料は引き続きUSDCで支払われる。つまり現時点のArcは、ガバナンスも検証権限も既知の大手機関に閉じた構造にある。

初日のブロックを埋めたのはミームコインだった

問題はここから先だ。オンチェーン分析者がDuneで集計したデータによれば、稼働初日のArcは776万件のトランザクションを処理し、DEX取引高は4億1,080万ドル(1ドル155円換算で約637億円)に達した。しかしそのうち約82%にあたる3億3,626万ドル(約521億円)が、ミームコインのローンチパッド経由の取引である。単独最大の「Arguspad」だけで2億235万ドル(約314億円)、同日にチェーン上で生成された9万7,025トークンのうち8万3,751トークン、実に86%超を同プラットフォームが発行した。一方でCoinDeskによれば、Arcの累計USDC送金件数は約62万4,000件にとどまる。本来の主用途である決済は、ほとんど数字に現れなかった。初日には40万超の新規アカウントが作られ7万3,000件超のコントラクトが展開されたが、平均手数料は3セント(約4.7円)へと4倍に上昇した。主要なミーム銘柄TOLLY、LONG、COOLは高値から56〜77%下落し、サークルのArc担当プロダクト責任者がミームコインを宣伝するAI生成画像を投稿したことにも批判が集まった。

これは事故ではなく、設計の帰結である

経営層が読み取るべき論点はここにある。Arcを投機に最適な場にしたのは、まさに機関投資家向けの設計そのものだった。USDCガスは「独自トークンを買わずに参加できる」ことを意味し、新規チェーンへの参入摩擦を史上最低水準まで下げた。1秒未満のファイナリティとサブセント級の手数料は、高頻度の投機売買にとっても理想的な環境である。前例もある。2026年7月1日に稼働したロビンフッド・チェーンは初日のDEX取引高が1,474万ドル(約23億円)とArcの28分の1程度だったが、数週間でミーム取引に席巻され、今月には日次37億ドル(約5,735億円)の記録を打ち立てた。機関投資家の実需はこの速度で立ち上がらない。DTCCがArc上で資産のトークン化を開始する計画は2027年下期であり、ブラックロックのBUIDLも運用規模が動くのは四半期単位の話だ。稼働初日と機関実需のあいだには年単位の空白があり、その空白は「いま動けるもの」で埋まる。Arcの初日TVLは3億3,400万ドル(約518億円)にとどまり、テザー陣営のPlasmaが2025年9月の稼働初日に記録した20億ドルの6分の1程度である。検証者はパーミッションド、アプリ層はパーミッションレスという構造上、サークルはブロックを作る主体は選べても、その上で何が動くかは選べない。この非対称こそが、今回の現象の本質である。

【事業開発に関するインサイト】

  1. 新規チェーンの初期トラフィックは「用途」ではなく「摩擦の低さ」で決まる。Arcの最大の設計優位であるUSDCガスが、そのまま投機の参入障壁を最小化した。自社チェーンやコンソーシアムチェーンを構想する金融機関は、成功指標をトランザクション件数やTVLではなく、「意図した用途の件数」で定義すべきである。Arcの場合、776万件という総数ではなく約62万4,000件というUSDC送金件数こそが、決済基盤としての現在地を示している。
  2. パーミッションドな検証者集合とパーミッションレスなアプリ層の組み合わせは、権限とレピュテーションの非対称を生む。ブラックロックやビザは検証者としてネットワークの信頼を担保する一方、同じチェーン上で展開されるミームコイン取引を制御する権限は持たない。日本の金融機関がArc上でJPYCやトークン化資産を取り扱う場合、法令・コンプライアンス・レピュテーションの観点から同一台帳上の投機活動とどう切り分けるかを、参加判断より前に整理しておく必要がある。サークルが予定する任意プライバシー機能やアプリ層のホワイトリスト設計が、その分離手段として機能するかが実務上の検討点となる。
  3. Arcは「1回発行して20以上のチェーンへ配布する」マルチチェーン発行ハブとして設計されており、対応する法定通貨連動ステーブルコインにJPYCが含まれている点は日本市場にとって直接的な意味を持つ。StableFXによる24時間のPvP型通貨交換は、円建てステーブルコインとトークン化資産にとって海外流通の新チャネルとなりうる。直近のJPYC韓国上場が示したとおり、流通は国内制度の整備を待たない。Arcのような発行ハブに自社資産をどう載せるかは、国内取扱いの議論と並行して検討すべき論点である。

【引用:出典】

CoinPost「サークル、独自ブロックチェーン「アーク」稼働開始」(2026年9月17日)https://coinpost.jp/?p=737915 Arc(Circle)公式ブログ「Arc Mainnet Is Live: The Economic OS for the Internet」(2026年9月16日)https://www.arc.io/blog/arc-economic-os-internet Cryptopolitan「Arc Does $410 Million in DEX Volume on Day One. Memecoin Launchpads Drove 82% of It」(2026年9月17日)https://www.cryptopolitan.com/arc-chain-memecoin-launchpad-volume/ CryptoRank / BeInCrypto「Meme Coin Launchpads Captured 82% of Arc's First Day Trading Volume」(2026年9月17日)https://cryptorank.io/news/feed/20d52-arc-mainnet-meme-coin-launchpad-volume CoinDesk「Circle Launched a Corporate L1 Backed by BlackRock, but Traders Immediately Turned It Into a Memecoin Casino」(2026年9月17日)https://www.coindesk.com/business/2026/09/17/circle-launched-a-corporate-l2-backed-by-blackrock-but-traders-immediately-turned-it-into-a-memecoin-casino Forbes「Circle Built Arc For BlackRock. Memecoins Are Moving In First」(2026年9月16日)https://www.forbes.com/sites/boazsobrado/2026/09/16/circle-built-arc-for-blackrock-memecoins-are-moving-in-first/ Circle「Circle Announces Founding Validator Cohort and Major Integrations for Arc」https://www.circle.com/pressroom/circle-announces-founding-validator-cohort-and-major-integrations-for-arc-ahead-of-september-16-mainnet-launch KuCoin Research「Circle Arc Mainnet Launch: Can It Become the Next Robinhood Chain?」(2026年9月17日)https://www.kucoin.com/blog/circle-arc-mainnet-next-robinhood-chain CoinPost「サークル社、独自チェーンArcのAIエージェント公開」(2026年9月19日)https://coinpost.jp/?p=738638

監修

石田陽之(いしだあきひさ)

Cabinet株式会社 代表取締役

2017年より、一貫してトークンやNFTの活用、ブロックチェーンゲームの企画・開発、NFTを活用した事業開発に従事。大手エンタメ上場企業を始め、80件以上のブロックチェーンプロダクトに対し事業責任者や設計、PM、アドバイザー等、様々な立場でブロックチェーン関連の事業開発に関わってきた。2021年よりCabinet株式会社を創業。

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