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機関投資家
2026年09月25日

「置き換え」ではなく「包み込む」――DTCCが10月に始動するトークン化サービスと、既存インフラが描くオンチェーン化の設計図

「置き換え」ではなく「包み込む」――DTCCが10月に始動するトークン化サービスと、既存インフラが描くオンチェーン化の設計図

何が発表されたのか

DTCCのフランク・ラサラCEOは9月25日、トークン化サービスを予定どおり10月に始動させる方針を改めて確認した。この日程自体は5月4日の発表ですでに示されていたもので、今回はそれを実行段階に入る時点で再確認したものだ。7月15日には、DTCが保管する証券をトークンに変換して実際の本番取引に用いる検証を行った。参加したのは、ブラックロック、ゴールドマン・サックス、JPモルガン、シタデル・セキュリティーズ、ナスダック、NYSEなど30社超である。取引の種類は、担保差入れ、証券貸借、米国債レポのDVP決済、株式のDVP・DVD決済、清算機関の証拠金処理と幅広い。基盤には、DTCCの私設ネットワークであるBesuと、公開ネットワークのCantonが使われた。業界ワーキンググループの参加企業・団体は100超に拡大している。

114兆ドルの意味を正しく読む

114兆ドルは、DTCが2025年時点で150超の国・地域の証券について保管・管理している資産総額であり、10月にこの全額がオンチェーン化されるわけではない。サービスの利用は任意で、参加者が指定した銘柄だけがトークンに変換される。とはいえ、米国市場の基幹インフラが本番環境でトークン化を提供すること自体の意味は大きい。スタートアップが主導してきた実証の段階から、市場インフラそのものが担う段階へと局面が移ったことを示している。

「デジタルの写し」という設計思想

SECが2025年12月11日に出したノーアクションレターによれば、トークンはDTCに登録され、OFAC(米財務省外国資産管理室)の制裁リストとの照合を経たウォレットでしか保有できない。DTC側の台帳では、トークン化された証券は「デジタル・オムニバス口座」に集約され、法的な名義はCede & Co.(DTCの名義人)のまま変わらない。つまり、法的な真実は従来の中央台帳に残し、ブロックチェーンには権利の写しを流通させる二層構造である。投資家保護と権利関係を従来の証券と同一に保てる一方で、パブリックチェーン上で誰でも自由に移転できる資産にはならない。この救済措置は、サービス開始から3年間の時限付きである。

並走する米国の制度整備

SECは9月17日、許可制のAMM(自動マーケットメーカー)流動性プールを通じたトークン化株式の取引を、5年間の時限付きで認める適用除外を発表した。NYSEも、24時間365日の取引と即時決済に対応するトークン化証券基盤の構築を計画している。9月16日には、トークン化ファンドを発行するOndo Financeが、DTCCの投資信託処理網「Fund/SERV」の初のトークン化メンバーとなった。ドイツ銀行は、トークン化された資本市場が2030年代までに金融インフラの中核になるとの見方を示している。

日本への示唆

日本でも金融庁が「AI時代を見据えたオンチェーン金融フォーラム」の初会合を9月30日に開く。DTCCの事例が示すのは、既存の振替制度と法的な権利関係を温存しながら、担保の即時移動や24時間の決済といった実益を先に取りに行く道筋である。日本の証券保管振替機構(ほふり)や、国債の担保取引を担う金融機関にとって、具体的な参照モデルになる。

【事業開発に関するインサイト】

  1. オンチェーン化は「既存インフラが包み込む」形で進む。法的な台帳は既存機関に残し、トークンはその写しとして流通させる構造が主流になれば、新興のトークン化事業者の役割は、台帳機能の代替から、既存インフラとのつなぎ込みや、発行後の流通・運用機能へと移る。事業計画はこの前提で組み直す必要がある。
  2. 登録ウォレット制と制裁リスト照合は、それ自体が大きな事業領域になる。参加者ごとのウォレット登録管理、制裁・マネーロンダリング対策の自動照合、BesuとCantonのような複数チェーンをまたぐ運用を代行するコンプライアンス基盤への需要は、日本の金融機関が同様のサービスに参加する段階で急速に立ち上がる。
  3. 最初に実益が出るのは個人向け取引ではなく、担保とレポ取引である。7月の検証で担保差入れ、レポのDVP決済、証拠金処理が中心に据えられたことは、24時間の担保移動が最大の価値だと示している。日本では国債のトークン化担保とトークン化預金によるDVP決済の組み合わせが、最も現実的な起点となる。

【引用:出典】

CoinPost「米証券決済大手DTCC、114兆ドル規模の資産トークン化開始へ=報道」(2026年9月26日) https://coinpost.jp/?p=739394

DTCC "DTCC Turns Tokenization into Reality: U.S. Trades Successfully Processed Using DTC-Tokenized Assets"(2026年7月15日) https://www.dtcc.com/press-releases/2026/dtcc-turns-tokenization-into-reality

DTCC "DTCC Advances Development of New Tokenization Service"(2026年5月) https://www.dtcc.com/press-releases/2026/dtcc-advances-development-of-new-tokenization-service

DTCC "Paving the Way to Tokenized DTC-Custodied Assets"(2025年12月) https://www.dtcc.com/press-releases/2025/paving-the-way-to-tokenized-dtc-custodied-assets

Coin Bureau(X投稿、2026年9月25日) https://x.com/coinbureau/status/2103285102474047842

Decrypt "DTCC Reveals Launch Plans for Tokenization Service With Wall Street Giants Onboard" https://decrypt.co/366646/dtcc-reveals-launch-tokenization-service-wall-street-giants-onboard

CoinDesk "DTCC moves tokenized securities into live trading" https://www.coindesk.com/business/2026/07/15/dtcc-moves-tokenized-securities-into-live-trading-marking-a-milestone-for-wall-street-s-blockchain-push

Carlton Fields "SEC Staff No-Action Letter to DTC for Tokenization Services" https://www.carltonfields.com/insights/publications/2025/sec-staff-no-action-letter-to-dtc-for-tokenization-services

Dentons "DTC Receives SEC No-Action Relief for Securities Tokenization Program" https://www.dentonscrypto.com/dtc-receives-sec-no-action-relief-for-securities-tokenization-program/

The Industry Spread "DTCC's October tokenisation launch starts a three-year clock" https://theindustryspread.com/dtcc-tokenisation-october-launch-three-year-no-action-clock/

CoinPost「米国で株式トークン化普及を推進、SECが5年時限で証券取引所規制免除」 https://coinpost.jp/?p=738248

CoinPost「金融庁、オンチェーン金融フォーラム初会合を9月30日に開催予定」 https://coinpost.jp/?p=739397

監修

石田陽之(いしだあきひさ)

Cabinet株式会社 代表取締役

2017年より、一貫してトークンやNFTの活用、ブロックチェーンゲームの企画・開発、NFTを活用した事業開発に従事。大手エンタメ上場企業を始め、80件以上のブロックチェーンプロダクトに対し事業責任者や設計、PM、アドバイザー等、様々な立場でブロックチェーン関連の事業開発に関わってきた。2021年よりCabinet株式会社を創業。

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