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2026年09月24日

円ステーブルコインの競争は「発行」から「用途の囲い込み」へ――EJPY実証に26社、無償プログラムが示す普及戦略

円ステーブルコインの競争は「発行」から「用途の囲い込み」へ――EJPY実証に26社、無償プログラムが示す普及戦略

何が始まったのか

日本ブロックチェーン基盤は9月24日、「ステーブルコイン実証実験パートナーズ」を2026年9月から開始したと発表した。募集開始後、すでに26社・団体が参加を表明している。現時点で公表されている参加先は16社・団体で、東芝、SCSK、QUICK、セイコーソリューションズ、朝日放送グループホールディングス、八十二長野銀行、ロイヤリティマーケティング、Tranzax、東武トップツアーズ、福岡県田川市などが含まれる。残る10社は調整のうえ順次公表される予定だ。検討領域は、国内送金・決済、クロスボーダー決済、RWA(現実資産)やセキュリティトークンの決済、Web3サービスでの決済、地域経済での決済と幅広い。

無償で提供される3つの支援

参加企業に提供されるのは、法令や最新動向を扱う勉強会、事業モデルに応じた個別相談、そしてEJPYのテストコインとJOC上のウォレットを使った検証環境の3点である。注意すべきは、発表が「参加は用途の検討にとどまり、各社によるステーブルコインの発行・取り扱い・事業化を決定・表明するものではない」と明記している点だ。現段階の26社は、採用を決めた顧客ではなく、検討の場に集まった参加者と読むのが妥当である。

EJPYとJOCの位置づけ

EJPYは5月13日に発行方針が正式決定された信託型の円建てステーブルコインで、JOCとイーサリアム上での発行を予定している。2026年度内のJOC上での発行・流通開始を目指すが、具体的な時期、発行条件、取扱事業者は関係当局との協議を経て決定するとしている。JOCは日本企業がバリデータ(ブロック承認を担う運営者)を務めるイーサリアム完全互換のパブリックチェーンで、電通、pixiv、はてななどが名を連ねる。今回の参加先のうち、シーエーシーとinsproutはJOCのバリデータでもある。チェーンの運営主体が自らステーブルコインを発行し、チェーン上の決済需要を生み出そうとする垂直統合型の戦略といえる。

乱立する円建てデジタル決済手段

国内ではJPYCがすでに流通を始めているほか、SBIグループとStartaleが開発する信託型の「JPYSC」、暗号資産型の「JPYdf」を開発するDeltaForesight(累計3億円超を調達)など、発行を目指す主体が増えている。9月25日には、黒田東彦前日銀総裁らが参画する「デジタル通貨イノベーション機構」がトークン化預金を中核に据えて設立会見を開き、10月から本格始動する。発行体が増えるほど、利用者にとっての価値は「どのコインか」ではなく「どの業務で使えるか」に移る。無償の実証プログラムは、その用途を先に押さえるための布石である。

参加先の構成が示すもの

参加先の構成からは、具体的な用途の輪郭が見えてくる。ポイント事業のロイヤリティマーケティング、電子記録債権を用いたサプライチェーン金融のTranzax、旅行の東武トップツアーズ、地方銀行の八十二長野銀行、自治体の田川市である。ポイントとの交換、企業間の支払い、地域での決済といった、既存の決済手段では手数料や処理時間に課題が残る領域が中心だ。一方で、大規模な消費者向け決済網を持つ事業者は、公表済みの参加先には現時点で見当たらない。

【事業開発に関するインサイト】

  1. 円ステーブルコインの競争軸は「発行」から「用途の囲い込み」に移った。発行体が乱立する局面では、無償の実証やテスト環境を通じて事業会社の業務フローに先に入り込んだ陣営が、流通量を握る。ステーブルコイン関連事業を検討する企業は、発行に踏み込むより、どの陣営の用途開発に参加するかを早期に見極める方が、投資対効果が高い。
  2. チェーンと発行体の垂直統合は、利用企業にとって「特定チェーンへの依存」というリスクを生む。EJPYはイーサリアム対応も掲げているが、JPYC、JPYSC、トークン化預金など複数の円建て手段を横断して送金経路を選び、規制対応を一括で処理する相互運用の層が不可欠になる。ここには明確な事業機会がある。
  3. 地方銀行と自治体にとって、本件は低コストで選択肢を確保する機会である。八十二長野銀行や田川市のように、無償の実証で地域決済の用途を検証しておくことで、自ら発行するのか、流通を担うのか、トークン化預金を選ぶのかという判断を、実データに基づいて下せるようになる。

【引用:出典】

日本ブロックチェーン基盤「日本ブロックチェーン基盤、ステーブルコインの社会実装に向けたプログラム『ステーブルコイン実証実験パートナーズ』を開始」(2026年9月24日) https://www.jbfd.org/news/stablecoin-poc-partners

CoinPost「円建てステーブルコインEJPY、東芝など26社が実証参加を表明」(2026年9月25日) https://coinpost.jp/?p=739378

CoinPost「日本ブロックチェーン基盤、信託型ステーブルコイン『EJPY』を発行へ」(2026年5月13日) https://coinpost.jp/?p=708261

PR TIMES 日本ブロックチェーン基盤(EJPY発行方針決定、2026年5月13日) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000059.000117597.html

CoinPost「トークン化預金推進の新機構が10月に始動 黒田前日銀総裁らも参画」(2026年9月25日) https://coinpost.jp/?p=739073

CoinPost プレスリリース「DeltaForesight、J-KISSで累計3億円超を調達」(2026年9月25日) https://coinpost.jp/?post_type=pressrelease&p=739019

Japan Open Chain 公式サイト https://www.japanopenchain.org/

監修

石田陽之(いしだあきひさ)

Cabinet株式会社 代表取締役

2017年より、一貫してトークンやNFTの活用、ブロックチェーンゲームの企画・開発、NFTを活用した事業開発に従事。大手エンタメ上場企業を始め、80件以上のブロックチェーンプロダクトに対し事業責任者や設計、PM、アドバイザー等、様々な立場でブロックチェーン関連の事業開発に関わってきた。2021年よりCabinet株式会社を創業。

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