JPYSCがドル連合に接続 ― 円ステーブルコインの勝負は「発行」から「相互運用」へ

何が発表されたのか
2026年10月16日、SBIホールディングスとStartale Groupは、Open Standardへの参画を公表した。両社はSBI新生信託銀行が発行するJPYSCと、OUSDの相互運用に向けた実証実験の実施を検討する。目的は、円とドルの間の決済を速く、効率よくすることにある。
ただし、リリースは新サービスの提供や本番環境での取引開始を意味しないと明記している。対象チェーン、時期、交換の仕組みはいずれも未発表であり、現段階は「検討の表明」にとどまる。
OUSDとOpen Standardとは何か
Open Standardは2026年に設立された独立組織で、創設パートナーはCoinbase、Mastercard、Shopify、Stripe、Visaの5社である。6月の構想発表の時点で140社超が参加を表明し、今回のリリースでは200社超がOUSDの統合を進めているとされる。
OUSDは9月30日にローンチした米ドル連動型ステーブルコインで、発行体はStripe傘下のBridgeである。Ethereum、Base、Solana、Tempoの4チェーンに対応している。発行・償還の手数料はかからず、準備金の運用益の大半は、参加企業にOUSDの流通量や利用量に応じて還元される。創設5社は合計10億ドル超(約1,500億円)の初期流動性を拠出する予定だ。
この設計は、単一の発行体が運用益を握るUSDCやUSDTとは異なる。普及させる側に収益を配分する「共同体型」のドル建てステーブルコインといえる。
JPYSCの現在地と、接続の意味
JPYSCは2026年6月24日に発行を開始した、信託型の「第3号電子決済手段」である。資金移動業型に適用される100万円の上限を受けない一方、現状はSBI VCトレードの口座内での取引に限られ、外部ウォレットへの送付には対応していない。パブリックチェーンでの流通は、法令・税務上の整理と当局の確認を経て移行する方針である。
スターテイルは10月5日、JPYSCで利払い・償還を行う年利5.00%の個人向けデジタル社債(発行総額9,990万円)の募集を公表した。JPYSCを金融商品の決済手段として使う実績を、着実に積み上げている。
今回の参画には、北尾吉孝社長が掲げる「SBI APACデジタル経済圏」構想のなかで、円建てとドル建ての交換経路を押さえる狙いがある。SBIはすでにUSDCとRLUSDを国内で取り扱っている。そのうえで次世代の決済規格であるOUSDとの接続も視野に入れることで、円とドルの両方のステーブルコインの結節点となる位置を狙っている。
残る課題
最大の制約は、JPYSCが外部ウォレットに出せない点である。相互運用の実効性は、パブリックチェーンでの流通がいつ当局に認められるかに左右される。外国発行のステーブルコインを国内で扱う際の規制整理も前提となる。発表は方向性を示した段階であり、実際の価値は今後のPoCの設計と、規制当局との調整次第である。
【事業開発に関するインサイト】
- ドル建てステーブルコインは、一社が発行する方式から、加盟企業に運用益を配分する共同体型へと競争の軸が移りつつある。日本の決済事業者や金融機関も「どの規格の加盟企業になるか」という選択を迫られる局面が近く、参加条件や収益配分の仕組みを今から把握しておくべきである。
- 円ステーブルコインの価値は、発行規模よりも「どのドル建てステーブルコインと、どれだけ低コストで交換できるか」で決まる段階に入った。越境ECやインバウンド決済を担う事業者にとって、円とドルの交換経路を持つ発行体との連携は、為替コスト削減の具体的な手段となりうる。
- 相互運用の実現には、チェーン間の接続、両規格での本人確認、交換時の価格算定、当局への報告といった中間処理の基盤が不可欠である。発行体ではない事業者にとっては、この接続層を担うことが現実的な参入点となる。
【引用:出典】
Startale「SBIホールディングスとスターテイル、Open Standardに参画」(PR TIMES) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000027.000114522.html 財経新聞(同リリース転載) https://www.zaikei.co.jp/releases/3666555/ CoinPost https://coinpost.jp/?p=743339 あたらしい経済(Open Standard・OUSD関連) https://www.neweconomy.jp/posts/617289 あたらしい経済(10月16日ニュースまとめ) https://www.neweconomy.jp/posts/617540 あたらしい経済(Startale Japanデジタル社債) https://www.neweconomy.jp/posts/613631 CoinPost(JPYSC発行開始) https://coinpost.jp/?p=719565 The Defiant https://thedefiant.io/news/tradfi-and-fintech/open-standard-open-usd-ousd-stablecoin-consortium-blackrock-visa-mastercard The Paypers https://thepaypers.com/crypto-web3-and-cbdc/news/open-standard-launches-ousd-stablecoin-with-five-founding-partners
石田陽之(いしだあきひさ)
Cabinet株式会社 代表取締役
免責事項
本レポートは、暗号資産および関連市場に関する情報提供のみを目的として作成されたものであり、特定の暗号資産の購入、売却、保有その他一切の取引行為を推奨・勧誘するものではありません。また、金融商品取引法その他の関連法令に定める投資助言、投資勧誘、または金融商品の販売・媒介に該当するものではなく、税務・法務・会計上の助言を構成するものでもありません。
本レポートに記載された情報は、作成時点において信頼できると判断した情報源に基づいておりますが、その正確性、完全性、最新性、有用性等について当社は何ら保証するものではありません。暗号資産は価格変動が大きく、元本の毀損その他の損失が生じるリスクを伴います。投資判断は、利用者ご自身の責任と判断において行っていただくものとし、本レポートの利用に起因して生じたいかなる損害についても、当社は一切の責任を負いかねます。
ブロックチェーン新規事業のご相談
Cabinetでは、アイデア段階からの壁打ち、技術検証(PoC)、そして実装・運用まで一気通貫で伴走する事業開発コンサルティングを提供しています。まずはお気軽に無料相談をご利用ください。
ニュースレターに登録する
本レポートに掲載した内容に加え、業界の最新情報・未公開レポートをメールでお届けします。

