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2026年10月30日

総務省事業で「銀行の発信をNFTで真正化」 ― 偽・誤情報対策の公的予算がパブリックチェーンに付いた初の採択案件

総務省事業で「銀行の発信をNFTで真正化」 ― 偽・誤情報対策の公的予算がパブリックチェーンに付いた初の採択案件

国の偽情報対策予算が選んだ「金融機関×パブリックチェーン」

総務省の当該事業は、生成AIによる偽画像・偽動画・偽音声の流通リスクに対応するため、対策技術の社会実装を加速する委託事業である。令和8年度は2026年4月22日から5月22日まで公募が行われ、26件の応募から13件が採択された。実施要領では採択合計額を15億円(税込、約1,000万ドル相当の概算)以内、1件あたりの上限を2億円程度(約130万ドル)とし、事業期間は契約締結から2027年3月15日までと定められている。採択者にはNEC、NTTドコモビジネス、Originator Profile技術研究組合、Code for Japan、JTBなどが並び、技術区分は真偽判別支援、真正性保証・改ざん検知支援、流通の可視化・分析、拡散防止の4類型である。ソーシャルパスの案件名は「金融機関の偽・誤情報対策に向けたWeb3.0技術を活用した情報の真正性認証及び検証技術の開発・実証」で、同社は実施期間を2026年8月から2027年3月と説明している。

投稿単位でNFTを付与する「プレバンキング型」の真正性保証

同社が掲げるのは、金融機関が発信する情報について、発信元が信頼でき、改ざんがなく、発信主体が偽装されていないことを認証し、閲覧者が誰でも簡単に検証できる仕組みである。コア技術は特許出願中の「環境固有性NFT」と「ロバストネスNFT」で、ブロックチェーンの分散管理型の信頼基盤とNFTの一意性を利用し、個人や組織の高頻度なSNS投稿にも投稿ベースで真正性を付与するとしている。ロゴ画像の悪用や有名人をなりすました投資勧誘動画といったマルチモーダルな偽情報も対象に含む。偽情報対策の文脈でプレバンキングとは、拡散後に検証するデバンキング(治療)に対し、接触前に耐性を付ける予防接種型の手法を指す。同社は発信者側があらかじめ真正性の証明を付けて流すことを「発信者自らが対策するプレバンキング型」と位置づけており、閲覧者の保護だけでなく、金融機関側のレピュテーションリスクや補償問題への備えを狙っている。

被害額の急拡大が実証の背景にある

同社が引用する警察庁統計によれば、2025年のインターネットバンキングに係る不正送金被害は約103億9,700万円(約7,000万ドル)で過去最悪を更新し、手口の約9割をフィッシングが占めた。SNS型投資詐欺の被害額は1,274億7,000万円(約8億5,000万ドル)で前年比46.3%増、認知件数も9,538件と48.7%増えている。金融庁も2026年10月9日、金融機関等に対し、相次ぐ不正アクセスによる本人確認書類画像の漏えいと巧妙化するなりすましを踏まえ、非対面本人確認の徹底と、2027年4月施行を待たないICチップ読み取りへの早期移行を要請した。顧客側の本人確認が厳格化する一方で、「金融機関を名乗る発信そのものが本物か」を顧客が検証する手段は依然として乏しく、ここに今回の実証が位置づけられる。

XDC NetworkとSBIの関与が持つ意味

実装基盤に選ばれたXDC Networkは、貿易金融を起点に設計されたEVM互換のレイヤー1で、XDPoSコンセンサスにより約2秒のファイナリティと極めて低い手数料を掲げ、ISO 20022の主要メッセージ種別への対応を公式ドキュメントで示している。日本ではSBI VCトレードが2023年5月にXDCの取扱いを開始し、同年12月にSBIホールディングスとTradeFinex Techの合弁でSBI XDC Network APACが設立された。2026年7月にはNTTドコモグローバルがマスターノードバリデータとして参加し、SBI VCトレードも長年バリデータを務めている。SBI XDC Network APACは同年8月に大阪府の補助事業でvLEIを用いたKYBと輸出ファクタリングのオンチェーン化にも採択されており、今回の案件は同社にとって「金融機関の発信の真正性」という第三の実証領域となる。コンソーシアムにSBIグループが入ることで、実証対象となる金融機関の確保と、監督当局との対話の両面で現実性が高まる。

C2PAや電子署名ではなくNFTが選ばれる条件

真正性証明の既存技術として、画像・動画に来歴情報を埋め込むC2PA、メール送信ドメインを認証するDMARCとロゴ表示のBIMI、文書に付す電子署名、マイナンバーカードを用いたJPKIがある。いずれも発信者の鍵や証明書に信頼の根を置く点では共通するが、C2PAはメタデータがSNS再投稿やスクリーンショットで剥落しやすく、DMARCやBIMIはメール経路に限定され、電子署名やJPKIは閲覧者側に検証ソフトやカードリーダーを要する。パブリックチェーン上のNFTが優位になるのは、検証者が特定の事業者やプラットフォームに依存せず、SNSの投稿ごとに変化する発信環境の情報を公開台帳で第三者が照合できる場合である。逆に、金融機関が自社ドメイン内で完結する発信ではDMARCや電子署名で十分であり、NFT方式はSNSという「自社の管理外の経路」で発信する場面に特化した補完技術と見るべきである。同事業では2027年2月から3月に成果報告と社会実装計画の公表が義務づけられており、どの経路・どの形式の偽情報に対して検証率と導入コストがどう出たかが、技術選択の妥当性を判断する最初の公開データとなる。

【事業開発に関するインサイト】

  1. 国の偽・誤情報対策予算がパブリックチェーンのNFTを真正性保証の手段として採択した事実は、日本の金融機関にとって「SNS上の自社発信の真正化」が公的に認められた技術課題になったことを意味する。発信情報の真正性証明を、既存のDMARC・BIMI・C2PA導入と並ぶ情報セキュリティ投資項目として予算化する動きが2027年度に出てくる可能性があり、インフラ事業者は検証API・バリデータ運用・鍵管理をセットで提案できる体制を整えるべきである。
  2. SBI XDC Network APACはXDC上で貿易金融、KYB、情報真正性という三つの公的実証を並行して走らせており、単一チェーンに複数の規制対応ユースケースを集約する戦略をとっている。国内でパブリックチェーンのエンタープライズ採用を狙う事業者は、チェーンそのものの優位性ではなく「規制当局・自治体の委託事業で実績を積んだチェーン」という信用の累積が選定理由になることを前提に、補助・委託事業への共同提案を事業開発の主経路に据える必要がある。
  3. NFTによる真正性証明は、C2PAのように標準化団体が仕様を握るのではなく、個社の特許出願技術として設計されている。この構造は早期参入者に優位性を与えるが、金融機関側は特定ベンダーへのロックインと特許権の帰属を導入条件として精査する。インフラ提供側は、検証ロジックのオープン化や複数チェーン対応を早期に打ち出すことで、ロックイン懸念を交渉材料から外せる。

【引用:出典】

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000193791.html https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/d_syohi/taisakugijutsu_fy2026.html https://www.soumu.go.jp/main_content/001068679.pdf https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu02_02000471.html https://www.soumu.go.jp/main_content/001068718.pdf https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/sos47/new-topics/260213/03.html https://www.sakigake.jp/news/article/20260312CO0052/ https://www.fsa.go.jp/news/r8/sonota/20261009/20261009.html https://docs.xdc.network/enterprise/iso-20022/ https://www.businesswire.com/news/home/20260715142687/en/ https://www.sbigroup.co.jp/news/pr/pdf/2026/0828_b.pdf https://www.sbigroup.co.jp/english/news/pr/pdf/2026/0713_a_en.pdf https://coinpost.jp/?p=501328 https://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/2093864.html

監修

石田陽之(いしだあきひさ)

Cabinet株式会社 代表取締役

2017年より、一貫してトークンやNFTの活用、ブロックチェーンゲームの企画・開発、NFTを活用した事業開発に従事。大手エンタメ上場企業を始め、80件以上のブロックチェーンプロダクトに対し事業責任者や設計、PM、アドバイザー等、様々な立場でブロックチェーン関連の事業開発に関わってきた。2021年よりCabinet株式会社を創業。

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