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2026年10月28日

JPYC1年目は発行120億円・流通30億円 ― 「累計」と「流通」の4倍差が示す円ステーブルコインの損益分岐

JPYC1年目は発行120億円・流通30億円 ― 「累計」と「流通」の4倍差が示す円ステーブルコインの損益分岐

1年目の数値と「成長していない」というCEOの自己評価

JPYC株式会社は2025年10月27日、国内の資金移動業者として初めて円建てステーブルコイン「JPYC」の発行を開始した。1年後の到達点として報じられた数値は、累計発行額120億円超(10月23日時点で121億円とする報道もある)、流通額約30億円(同32億円)、JPYC EXの口座開設数28,000超、導入事業者150超である。対応チェーンはEthereum、Avalanche、Polygonの3本で始まり、2026年5月にKaiaが加わって4本となった。

経過を追うと、累計発行額は2026年5月18日に25億円、9月18日に100億円を突破しており、下半期に加速した。ただし加速の主因は9月17日の韓国Upbit上場に伴う裁定需要で、流通額は上場直後に約42億円まで膨らんだ後、30億円前後に戻っている。岡部CEOは日経の取材に「現状は赤字」と述べ、黒字転換には流通額500億〜1,000億円が必要との認識を示した。別の報道では「正直に言って成長しているとは思わない」と語り、2年目に流通額を現在の約10倍に引き上げる目標を掲げている。

「累計120億円」と「流通30億円」の4倍差が意味するもの

累計発行額は1年間にJPYC EXで円からJPYCに交換された総量であり、流通額はその時点で償還されずに残っている残高である。両者の差約90億円は、発行後に円へ償還された分にほぼ等しい。発行した4分の3が1年以内に戻ってきた計算で、JPYCは滞留する資産ではなく通過する決済媒体として使われていることを示す。5月時点で累計発行25億円に対し総取引高350億円超、日次の資産回転率が流動性の100%超と公表されていたことも、同じ性格を裏付ける。

この構造は事業面で両義的である。送金・決済・還付といった用途では回転の速さが価値そのものであり、AZ-COM丸和ホールディングスが協力会社約2,300社への委託費支払いにJPYCを使う計画や、日本免税とUPBONDが11月1日から訪日客の免税還付をAvalanche上のJPYCで行うサービス、x402株式会社が10月30日に発表したAIエージェント向けJPYC決済の実装はいずれも「受け取ったら使う、または円に戻す」という流れを前提にしている。一方で、発行体の収益は流通残高に比例する準備資産の運用益から生まれるため、回転が速いほど売上に結びつきにくい。ユースケースの拡大と残高の積み上がりが同じ方向を向かないのが、1年目に浮き彫りになった円ステーブルコインの経済構造である。

損益分岐の数字分解:なぜ500億〜1,000億円なのか

JPYCは発行・償還手数料を無料としており、収益源は準備資産である預金と短期国債からの利回りに限られる。発行開始時に同社は国債と預金を当初50対50で持ち、国債比率を80%へ引き上げ、想定利回り約1%で、3年以内に残高10兆円、利益約1,000億円(残高の1%)を目指すと説明していた。この前提を現在の流通額30億円に当てると年間運用益は3,000万円前後にとどまる。黒字化ラインとされる500億〜1,000億円に同じ1%を当てれば年間5億〜10億円であり、これがそのまま同社の年間運営コストの目安として読める。資金移動業者としてのAML/CFT体制、4チェーンのスマートコントラクト運用、法務・コンプライアンス人材、監査対応を抱える発行体として、数億円規模の固定費は不自然ではなく、国債比率を高めて利回りを厚くする方針とも整合する。シリーズBで累計約60億円を調達した資金は、この固定費と残高拡大までの時間を埋めるための資本と位置づけられる。

ただし、黒字化目標の500億〜1,000億円は発行開始時に掲げた10兆円に対して0.5〜1%にすぎない。3年目に当初目標へ届く前提は事実上後退しており、1周年の数値は、ゼロ手数料・運用益依存モデルが規制の発行上限(1回100万円、短時間の連続発行は不可)の下でどこまで残高を積めるかという問いに置き換わった。

信託型JPYSCとの指標比較と、3メガバンク構想の位置

競合として明確に比較できるのがSBI新生信託銀行が発行する信託型の「JPYSC」である。2026年9月7日時点で発行残高約201億円、レンディング申込分約69億円を含めれば約270億円に達し、流通額ではJPYCの6〜9倍の規模に当たる。9月30日時点でも約200.7億円とされる。信託型は2026年6月施行の改正法で発行額の50%を上限に3カ月以内の短期国債や定期預金で運用できるようになり、SBI新生信託は10億円分の国債運用を開始した。一方で資金移動業型のJPYCは履行保証金として100%の保全を求められる代わりに、国債比率の引き上げ余地が広い。つまりJPYSCは残高で先行し、JPYCは残高当たりの利回りで先行しうるが、どちらも残高が収益の分母である点は変わらない。

さらに三菱UFJ・みずほ・三井住友の3行は、2026年7月に三菱商事のクロスボーダー決済で信託型の共同発行ステーブルコインを実証し、2026年度中の実取引開始を目指している。流通上限のない信託型スキームに銀行の顧客基盤が乗れば、法人決済の残高はそちらに集まりやすい。JPYCにとっての差別化は、少額・高頻度・個人や中小事業者を含む用途、そしてAIエージェント決済のようにEIP-3009互換を活かした技術面の先行にある。1年目の数値は、この領域で回転を売上に変える仕組み、たとえば決済側からの手数料や付帯サービスを2年目に持ち込めるかを問うものと言える。

【事業開発に関するインサイト】

  1. 流通額ではなく回転率が伸びる決済用途では、発行体の運用益モデルは成立しにくい。JPYCと組む事業者は、発行体のゼロ手数料がいつまで続くかを前提条件として契約に織り込み、将来の手数料導入条項を確認しておく必要がある。
  2. 信託型JPYSCが残高で6倍超先行し、3メガバンク連合が法人決済に入ってくる中で、資金移動業型の優位は国債比率の自由度と個人向け・少額・エージェント決済への適応にある。企業がステーブルコインを選ぶ際は、残高の規模ではなく、自社の資金フローが滞留型か通過型かで発行体の型を選ぶべきである。
  3. 免税還付、協力会社支払い、エージェント決済は、いずれも受取側が即時に円に戻すか別用途に回す設計で、JPYC残高を増やさない。この種のユースケースを提供する側は、JPYCを残高として保有させるインセンティブ(例:レンディング、ポイント連携)を同時に設計しなければ、発行体の持続性リスクを自社サービスに引き込むことになる。

【引用:出典】

https://coinpost.jp/?p=745104 https://jp.bloomingbit.io/feed/news/123033 https://www.watch.impress.co.jp/docs/news/2058390.html https://www.businessinsider.jp/article/2510jpyc-company-begins-issuance-of-jpyc-stablecoin/ https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000319.000054018.html https://dime.jp/company_news/detail/?pr=2714307 https://ascii.jp/elem/000/004/402/4402643/ https://coinpost.jp/?p=738488 https://innovatopia.jp/tech-economy/tech-economynews/118028/ https://coinpost.jp/?p=730027 https://www.lnews.jp/2026/07/s0722503.html https://www.sbigroup.co.jp/news/pdf/group/2026/0907_a.pdf https://coinpost.jp/?p=736076 https://www.bk.mufg.jp/news/news2026/pdf/news0610.pdf https://www.bk.mufg.jp/news/news2026/pdf/news1016_1.pdf https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000081.000065959.html https://coinpost.jp/?p=744168 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000006.000188987.html https://www.iima.or.jp/docs/webinar/2025/251128_Shibata.pdf https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=110973

監修

石田陽之(いしだあきひさ)

Cabinet株式会社 代表取締役

2017年より、一貫してトークンやNFTの活用、ブロックチェーンゲームの企画・開発、NFTを活用した事業開発に従事。大手エンタメ上場企業を始め、80件以上のブロックチェーンプロダクトに対し事業責任者や設計、PM、アドバイザー等、様々な立場でブロックチェーン関連の事業開発に関わってきた。2021年よりCabinet株式会社を創業。

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