NFT会員権と暗号資産NACを抱えたまま上場へ ― NOTAの東証グロース承認が示す「トークン併存企業」の公開市場での値付け

何が起きたか:想定時価総額1,110億円の大型IPO
NOTAは11月6日、東証グロース市場への上場承認を公表した。証券コードは673A、主幹事は野村證券とSBI証券。公募508万800株、売出1,221万6,600株、オーバーアロットメントによる売出は最大259万4,600株で、仮条件は11月20日、公開価格は11月30日に決まる。上場時の発行済株式総数7,989万8,000株に想定発行価格1,390円を乗じた想定時価総額は約1,110億5,800万円に達し、12月のIPOの目玉と目されている。同社は2020年4月に東京・六本木で設立され、2026年10月に社名をNOT A HOTELからNOTAへ変更した。9月末の従業員数は412人である。
事業の実態:年10泊から買える「建築家と共創するセカンドハウス」
NOTAの中核は、建築家と共創した別荘を年間10泊分からシェア購入できるメンバーシップ事業だ。2026年3月期のメンバーシップ事業売上高は115億4,000万円(セグメント間取引含む)で、内訳はライセンス売上66億9,000万円、物件の土地・建物相当分を販売するアセット売上41億2,000万円、その他7億2,000万円。2020年の事業開始から2026年9月末までの累計契約高は939億円、累計オーナー数は1,357名に上る。2027年3月期中間期(2026年4〜9月)の連結売上高は216億8,600万円、営業利益43億1,000万円、中間純利益17億3,700万円で、瀬戸内・北軽井沢・青島の新規物件引き渡しにより、半年で前期通期の売上高128億7,800万円を上回った。契約済みだが引き渡し前のため未計上の「契約済み未実現売上高」は9月末時点で約370億円あり、会社は2027年3月期の売上高325億8,000万円(前期比153.0%増)、経常利益60億3,000万円を予想している。2025年8月のシリーズDでは、トヨタ自動車の戦略投資会社トヨタ・インベンション・パートナーズとSBIグループを主な引受先として、既存株主の65億円分の株式譲渡を含む総額165億円の取引を実施している。
審査書類に書かれた暗号資産NACの位置づけ
本件が暗号資産業界で注目されるのは、連結子会社NOT A HOTEL DAOが発行する「NOT A HOTEL COIN(NAC)」の存在である。NACは資金決済法上の暗号資産で、2024年のIEOで約20億円を調達し、現在はGMOコインとコインチェックで取引されている。保有者がNACをDAOに貸し付けると宿泊権またはNACの報酬を受け取れる「NACレンディング」の残高は2026年3月末で10億6,000万円。連結貸借対照表には同時点で142万4,341NAC(10億9,500万円)が計上され、このほか発行時に自社へ割り当て資産計上していないNACが36万8,557NAC存在する。上場申請書類は、NACの流動性が限られることをリスクとして明記している。承認当日のGMOコインでのNAC価格は1,152円前後、6日6時からの出来高は約1,126NACにとどまり、価格形成の薄さが裏付けられる。つまりNOTAは、NFT会員権とDAO、独自暗号資産を事業構造の一部として持ちながら、東証の上場審査を通過した。
なぜ重要か:トークンを「切り離さず」に上場した前例
これまで国内では、暗号資産を扱う企業の上場は取引所運営やマイニングなど暗号資産そのものが本業のケースが中心だった。NOTAは本業が不動産・ホスピタリティであり、トークンは顧客体験と資金調達の補助線として組み込まれている。審査がこれを許容したことは、事業会社が自社トークンを連結に残したまま公開市場に出られることを示す。一方で、開示上はNACを「流動性が限られる資産」と位置づけており、評価額が小さく、本体の収益に対する寄与も限定的であるからこそ通過したという見方もできる。トークン依存度の高い企業に同じ道が開かれるかは、別問題である。
【事業開発に関するインサイト】
- トークンは「主役」ではなく「補助線」として設計すると公開市場との接続が可能になる。NOTAのNACは、宿泊権というリアルな便益に紐づき、連結上の計上額が時価総額の1%程度に収まっている。本業の収益とは独立に価値が説明でき、かつ規模が小さいからこそ審査の論点が限定された。事業会社がトークンを導入する際は、IPOや資本政策の出口を見据えて、トークンが財務諸表の中でどの程度の存在感を持つかを初期段階で設計すべきである。
- 「契約済み未実現売上高」のような先行指標を持つ事業は、トークンよりも強い説明力を持つ。NOTAの評価を支えているのは370億円の契約残高と153%増の会社予想であり、NACではない。Web3由来の仕組みを持つ企業がIPOを目指す場合、投資家が理解できる従来型のKPIを主軸に据え、トークン指標は補足にとどめる構成が有効である。
- 主幹事・株主にSBIが入る構図は、金融機関側にとって「トークンを持つ事業会社」の引受ノウハウが蓄積される機会でもある。SBI証券は主幹事であると同時に、SBIホールディングスとSBIインベストメントは株主であり、グループ内の取引所でNACを扱ってもいる。証券・暗号資産交換業・投資の三者を同一グループで持つことが、こうした案件で優位に働く。他の金融機関が追随するには、暗号資産交換業者との提携か自社での取扱いが前提条件になる。
【引用:出典】
あたらしい経済「NOTA(旧NOT A HOTEL)が東証グロース上場へ、12/9予定」(2026年11月6日) https://www.neweconomy.jp/posts/624695 BRIDGE「別荘とホテルブランド「NOT A HOTEL」のNOTA、東証グロース上場へ——想定時価総額は約1,110.6億円」(2026年11月6日) https://thebridge.jp/2026/11/nota-tse-growth-ipo-approved CoinPost「NOT A HOTELのNOTA、12月9日に東証上場へ NAC発行元の親会社」(2026年11月6日) https://coinpost.jp/?p=746860 JinaCoin「NOT A HOTELのNOTA、東証上場承認──仮想通貨NACの扱いを確認」(2026年11月6日) https://jinacoin.ne.jp/nota-ipo-20261106/ IPOナビ「NOTA(673A)IPO上場承認レポート」(2026年11月6日) https://ipo-navi.jp/column/nota-not-a-hotel-673a-ipo-listing-report NADA NEWS「NOT A HOTEL COIN発行体の親会社、12月9日に東証上場へ」(2026年11月6日) https://www.nadanews.com/390078/
石田陽之(いしだあきひさ)
Cabinet株式会社 代表取締役
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