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2026年04月27日

IPオンチェーン化はなぜ難しいのか──ソニーSoneiumとStory Protocolに見る「拡散とマネタイズ」のジレンマ

 IPオンチェーン化はなぜ難しいのか──ソニーSoneiumとStory Protocolに見る「拡散とマネタイズ」のジレンマ

1. 権利の「行使」を捕捉できない技術的限界

スマートコントラクトは「コードによる契約」を謳うが、現実には著作権法やライセンス契約の強制執行を代替できない。米特許商標庁(USPTO)・著作権局(USCO)が2024年3月に議会へ提出した共同報告書は、NFTの仮名性と分散型ストレージが権利行使を複雑化させる一方で、新たなIP法整備は不要と結論づけた。スマートコントラクトはロイヤリティ送金などの「自動化」はできても、利用者が無視した場合の法的執行は依然としてオフチェーンの司法判断に依存する。「コードが法」というクリプトの理想は、IP領域では機能していない。

2. NFTロイヤリティ崩壊が示した「強制力」の壁

最も象徴的な失敗例が、NFTマーケットプレイス間のロイヤリティ撤廃競争である。2022年10月以降、X2Y2・LooksRare・Magic Edenがロイヤリティを任意化し、Blurは無料化と取引マイニングで2023年2月にOpenSeaを取引高で逆転した。OpenSea自身も2023年8月に既存コレクションへの強制執行を放棄。LooksRareでは任意化後、ロイヤリティ収入がほぼゼロまで急落した。Yuga LabsらがOMA3を結成し標準化を試みたが、ブロックチェーンが「トークンの移転条件を強制できない」という構造的限界を覆すには至っていない。クリエイターの収益源は、結局プラットフォームの善意に依存する状態が続く。

3. Story Protocol──評価額22.5億ドルでも使われない権利インフラ

a16z主導で累計1億4,000万ドル(約210億円)を調達し、2024年に評価額22.5億ドル(約3,400億円)に達したStory Protocolも苦戦する。CoinDeskの2026年2月報道によれば、$IPトークンは時価総額約5億ドル(約750億円)でありながら、日次オンチェーン収益は100ドル未満。2025年9月に4.3万ドルでピークを記録した後、2026年初頭には実質ゼロに落ち込んだ。チームは2026年2月、トークンアンロックを2026年2月から8月へ6カ月延期し、戦略を「メディアIPの登録」から「AI学習用の人間生成データ(unscrapable data)のライセンス」へピボットした。共同創業者Jason Zhao氏は2025年8月に新AIベンチャーへ移籍、PIP Labsは2026年3月に10%の人員削減を実施。「IPに特化したL1」の野心と、実需の空白が浮き彫りになった。

4. マネタイズと拡散の構造的ジレンマ

IPは拡散すればするほど認知価値が高まるが、マネタイズには利用制限と権利執行が必要となる──このトレードオフがオンチェーンIPの本質的課題である。クリエイターが権利を強く縛れば、リミックス文化やUGC拡散は萎縮する。逆にCC0(著作権放棄)で開放した場合、Pudgy Penguinsのように二次創作・物販で大きく拡張できる例もあるが、原権利者の直接収益化機会は失われる。Story ProtocolのProgrammable IP License(PIL)は両立を狙うが、ライセンス選択の煩雑さとオフチェーン執行コストが普及の障壁となっている。

5. ソニーの賭けは「縦統合」と制度設計

ソニーは元記事で言及されたとおり、L2チェーンSoneium、暗号資産取引所S.BLOX、インキュベーションSPARK(応募2,000件超・23件投資)、GP/LPファンドを揃え、IP制度設計にまで踏み込む点で他社と異なる。Soneiumは2025年1月のメインネット稼働以来、累計5億取引、アクティブウォレット540万、dApp250超を記録。ただし、韓国Momentricaが2025年7月に累計営業損失130億ウォン(約14億円)で撤退するなど、「インフラだけでは需要は生まれない」という命題は依然として重い。波多野氏が「キラーユースケースが必要」と繰り返す背景がここにある。

【事業開発に関するインサイト】

  1. 真の難所は「技術」ではなく「強制力」にある。 スマートコントラクトは契約を自動化できても、利用者が無視した場合の法的執行はオフチェーンに依存する。事業者は法務×プロトコル設計を一体化させた「ハイブリッド執行モデル」と、プラットフォーム間で連携するブラックリスト/ホワイトリスト機構を要する。
  2. マネタイズと拡散の両立には「用途別ライセンス」が鍵。 一律のロイヤリティでは拡散インセンティブを毀損する。価格に応じて料率が変動する動的ロイヤリティ、AI学習データに限定した利用ライセンス、二次創作と原作販売を分離するレイヤード設計など、ユースケース別のライセンス設計が次の差別化軸となる。
  3. 大企業の縦統合戦略にチャンスあり。 ソニーのようにIP・チェーン・取引所・ファンドを束ねる体制は、Story Protocolのような単独プロトコルが越えられなかった「ユーザー獲得とマネタイズの両立」を実現する可能性がある。日本のIPホルダーにとって、自社IPの価値を毀損せずブロックチェーンを活用するには、自前エコシステムへの参画もしくは縦統合プラットフォームとの戦略提携が現実的な選択肢となる。

【出典】 NADA NEWS (2026年4月17日) / CoinDesk「Story delays $IP token unlock by 6 months」(2026年2月2日)・「Story co-founder defends token unlock delay」(2026年2月9日) / Decrypt「NFT Creator Royalties Are Broken」(2023年10月) / USPTO/USCO「Non-Fungible Tokens and Intellectual Property: A Report to Congress」(2024年3月) / The Block「Sony Innovation Fund invests $13 million in Startale」(2026年1月28日) / BeInCrypto (2025年11月28日) / Cointelegraph (2022年12月)

監修

石田陽之(いしだあきひさ)

Cabinet株式会社 代表取締役

2017年より、一貫してトークンやNFTの活用、ブロックチェーンゲームの企画・開発、NFTを活用した事業開発に従事。大手エンタメ上場企業を始め、80件以上のブロックチェーンプロダクトに対し事業責任者や設計、PM、アドバイザー等、様々な立場でブロックチェーン関連の事業開発に関わってきた。2021年よりCabinet株式会社を創業。

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