「ファンが共同制作者になる」── MODHAUS/Cosmoが示す、エンタメ×ブロックチェーンの数少ない成功モデル

1. 事業概要と業績
MODHAUSはWonder Girls、2PM、LOONA等を手掛けたベテランプロデューサーJaden Jeong(鄭炳基)氏が2021年12月に設立した「オープンアーキテクチャ型」K-POPエージェンシー。所属する24人組ガールグループtripleSはデビュー作『ASSEMBLE25』で初日51万662枚(2025年5月)を販売し、2025年ガールグループ初週売上で第4位に入った。ARTMSはBillboard「Top New Artist Albums」で1位、Spotify累計9,000万ストリーム超を達成。2025年8月11日にはCosmo連動の24人組ボーイグループidnttもデビューした。財務面では累計約23–27百万米ドルを調達済みで、シリーズB(210億ウォン/約15.8百万米ドル)は2025年の韓国エンタメ単独企業として最大規模である。
2. ブロックチェーンの活用方法
Cosmoの中核はObjektと呼ばれるNFTフォトカード(固定価格約3.29米ドル)と、Objekt保有で付与される投票トークンCOMOの二層構造である。Objektは当初Polygon PoS上で発行され、2025年7月にコンシューマー特化型のZK L2「Abstract」への展開が発表された。メールアドレス/Face IDによるウォレット作成(Ramper等の埋込ウォレット)、二次流通不可の固定価格設計、ガス代非可視化により、ユーザーは「ブロックチェーンを意識せずに」利用できる設計となっている。MODHAUS共同創業者Joseph Baek氏は韓国メディアの取材に対し「アーティストとエージェンシー間の収益精算がスマートコントラクトで透明化され、ファン投票も改ざん不能で記録される」と説明している。
3. 投票による参加形態(Gravity)
投票機能Gravityは、楽曲・サブユニット編成等を決める「Grand Gravity」と、フォトコンセプトや振付などを決める「Event Gravity」に分かれる。最初の投票(2022年9月)は10,800票だったが、2023年中盤の日本ユニット投票では99万票に拡大。投票時にCOMOがバーン(焼却)されるため、参加するほどObjektの追加購入が必要となり、結果として投票=売上、という持続可能な需要構造が生まれている。
4. なぜ「オンチェーン」である必然性があるのか
第一に正当性の担保である。サブユニット編成や表題曲を決める投票は、従来の音楽番組の集計不透明性が長年問題視されてきた領域であり、改ざん不能な台帳に記録すること自体が商品価値を生む。第二に収益分配の透明化。Objekt売上は所属アーティストにも分配される設計で、スマートコントラクト経由の自動精算により所属タレントとの信頼関係が可視化される。第三に所有権の永続性。Objektはアプリ外でも検証可能な形で保有でき、サードパーティのビューワー(Polaris等)も登場している。これらは中央集権DBでは原理的に再現が難しい。
5. なぜ他のエンタメ系Web3が苦戦する中でCosmoは伸びているのか
事実確認として、HYBEは2022年設立のブロックチェーン子会社Binary Koreaを2025年3月に本体吸収(2024年売上46.8万ウォン=約350米ドル、純損失42.8億ウォン)、Dunamuとの合弁Momentica(Levvels運営)も実質低迷、FNCの「Moment of Artist」は消滅、HYBEのLE SSERAFIM NFTは1コンセプトあたり40–60枚の販売に留まった事例が報じられている。
Cosmoの優位性は次の三点に集約される。第一に「投機ではなく、ユーティリティ」を起点にしたこと。Objektは固定価格・二次流通不可で、価格暴落・転売批判という構造的リスクを最初から排除した。第二に「グループ自体がブロックチェーンネイティブ設計」であること。tripleSは「ファンが組成する分散型アイドル」というコンセプトでデビュー段階から設計されており、後付けでNFTを売る既存大手とは差別化されている。第三に「Web3を見せない」UX。メール/パスキー認証で、ファンはウォレット・ガス・シードフレーズを意識せず、結果としてK-POPコアファン層の心理的・倫理的反発(環境負荷、投機批判)を回避できている。Tiger Researchもこれを「単なるマネタイズではなく、ファンに新しい役割を与える数少ないWeb3エンタメ事例」と評価している。
【事業開発に関するインサイト】
1. 「ブロックチェーンを売る」のではなく「ブロックチェーンでしか作れない商品を売る」設計が分水嶺となる。 HYBE系プロジェクトはアーティストIPをNFTでデジタル化することに焦点を置いた結果、ファンから「収益化目的」と看破されたが、Cosmoは投票権・分散型ガバナンスという既存DBで模倣困難な機能を中核に置き、プロダクトとブロックチェーンが不可分の関係になっている。新規参入企業はまず「中央集権DBで代替不可能なユースケース」の有無を厳密に問うべきである。
2. トークン経済を「燃焼型」に閉じることで、投機リスクを排除しつつ持続的売上を実現できる。 Objektは固定価格、COMOは投票で焼却されるため、価格変動・転売による収益毀損が起こらない。一方で投票参加が新規Objekt購入需要を生むエンゲージメントループとなっており、150万件/月のオンチェーン取引と15万MAUを支える。サブスクリプション(月額1.99米ドル~)と組み合わせた多層課金は、Web3単体に依存しないキャッシュフロー設計の参考になる。
3. インフラ選定はGTM戦略と直結する。 MODHAUSはコスト効率重視のPolygonからスタートし、グローバル拡大フェーズでGen Z/Aの可処分所得層を抱えるAbstractに移行している。これは「初期は安価なチェーンで実証→ユーザー特性に合わせ移行」というプラグマティックな戦略であり、特定チェーンへの過剰なロックインを避ける重要性を示す。日本企業がエンタメ系Web3を検討する際も、チェーン選定はトークノミクスと同等の戦略変数として扱う必要がある。
出典
PR Newswire(Abstract×Modhaus提携、2025/7/5)/allkpop(シリーズB報道、2025/8/8)/Forbes・bitcoinethereumnews(idntt関連、2025/8/11)/The Korea Times(Joseph Baek取材、2025/5/15)/Block Media(Modhaus取材、2025/2/11)/Cryptonews(HYBE Binary Korea撤退、2025/3)/Alpha Biz(Binary Korea合併、2025/3/31)/The Block(シリーズA、2023/11/13)/Variety(2023/11)/Tracxn・PitchBook・Crunchbase(資金調達データ)/Tiger Research(Web3エンタメ分析)/Wikipedia(tripleSディスコグラフィー)/Koreaboo(ASSEMBLE25売上、2025/5/19)/Starnews(『ASSEMBLE25』初日売上、2025/5/19)/tripleS Wiki(Objekt/Gravity仕様)/Asian Junkie(Momentica販売実績、2023/1)
石田陽之(いしだあきひさ)
Cabinet株式会社 代表取締役
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