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Fireside Crypto
2026年05月11日

Courtyard.io徹底分析 ― 「フィジカル聖域」だったトレカ市場をデジタル化した流動性プラットフォームの全貌

Courtyard.io徹底分析 ― 「フィジカル聖域」だったトレカ市場をデジタル化した流動性プラットフォームの全貌

事業概要とビジネスモデル

2021年にNicolas le Jeune(元Google/YouTube)とPaulin Andurand(元Apple)が創業。グレーディング済みのポケモンカード、スポーツカード、コミックなどを世界最大手の警備会社Brink'sの保管庫に預け、Polygon上で同一商品を表象するNFT(3Dデジタルツイン)を発行する。所有者はNFTを売買すれば即時にオーナーシップが移転し、NFTを「Burn」すれば実物カードが自宅へ発送される。償還率は約4%にとどまり、大半は保管庫に置かれたまま流通する設計が特徴である。

フィジカル文化への浸透戦略

TCG市場は実物の「Pack Rip(パック開封)」儀式が根強い文化基盤であり、Web3への抵抗感も強い。Courtyardはこの溝を四段構えで埋めている。第一に、Web3を徹底的に「見えなくした」点。クレジットカード/Apple Pay/Google Payでの法定通貨決済、メール認証ウォレット自動生成、ガス代ゼロ(thirdweb基盤)により、利用者の多くが自分がNFTを購入していることを認識しない。第二に、Brink'sとの提携で「スタートアップへの信頼」ではなく「世界最大の警備会社への信頼」を売っている。第三に、PSA、CGC、eBay、Fanatics Collectからの直接入庫を可能にし、既存コレクターの動線を分断せず統合した。第四に、2024年5月にローンチした「Vending Machine(デジタル自動販売機)」が決定打となった。25〜2,500ドルのミステリーパックを購入し、グレーディング済み実物カード1枚を獲得する仕組みで、確率と期待値が完全に開示される。物理パックでつきまとう「Weighed Pack(重量計測による不正パック)」問題への構造的回答となり、Pack Ripの興奮を24時間オンデマンドで再現した。

収益構造

表向き「マーケットプレイス手数料0%」を掲げる一方、収益の主柱はミステリーパックのスプレッドである。各パックの期待値はパック価格と等しく設計されているが、ユーザーが選ぶ即時バイバック(FMVの90%)と、返却カードを再度パックインベントリに循環させるモデルにより、Courtyardは事実上のマーケットメイカーとして約10%のテイクレートを獲得する。返却カードは平均月8回、累計6〜15回転するため、同一在庫から繰り返し収益が生まれる「資本効率の高いインベントリ回転モデル」が成立している。CEOによれば同社は現時点で世界最大のトレカ買い手であり、ディーラーネットワークから常時仕入れることで在庫多様性も担保する。加えて、トークン化を行った原所有者にはリセールごとに売上の1%が還元される「Revenue Share Program」を実装し、コレクターを長期保有・継続供給側に巻き込んでいる。

GTM戦略と成長加速

B2C獲得チャネルはイベント・コミュニティ・モバイル中心である。Collect-A-Con、The National、VeeCon、NYCCといった大型カードコンベンションに出展し、来場者に高額カード当選チャンスのある無料パックを配布。OpenSea、VeeFriends、Chimpers、BoDoggosなどとの共同ドロップでWeb3先端層も取り込む。ロイヤリティ面では週次クエスト+ポイント制度で5,000ポイントごとに無料パックが解放されるリテンションループを構築。2025年7月のSeries A調達と同時にiOS/Androidアプリをローンチし、モバイル中心のZ世代コレクターへ到達した。今回の3,000万ドル調達(Forerunner主導、NEA・Y Combinator・ParaFi・Prelude・Burst Capital参加)により、累計調達額は3,750万ドルに達した。CEOは「赤字を許容してでも市場を取り切る」と明言し、人材採用、有料マーケティング、カテゴリ拡張(時計、コイン、ラグジュアリー)に投資を集中させている。

【事業開発に関するインサイト】

  1. 「Web3を売らずに、Web3の便益だけを売る」プロダクト設計が鍵:Courtyardの最大の学びは、ターゲット顧客(既存フィジカルコレクター)がNFTを欲していないことを直視した上で、ブロックチェーンの便益(即時所有権移転、透明な来歴、グローバル流動性)だけを完全に裏側へ隠した点である。日本のRWA/トークン化事業も、ユーザーに「ウォレット」「ガス代」「USDC」を意識させない法定通貨UXを実装できるかが普及の分水嶺となる。
  2. 流動性は単独で巨大なバリュープロポジションになる:FMV90%の即時買戻は、表面的には10%の取引コストに見えるが、コレクション市場の積年の課題(買い手探索コスト、出品手数料、配送リスク、価格交渉)を一掃する「不可逆な体験価値」を提供する。新規参入の心理的障壁を下げ、トレカ未経験者でもImpulse Buyingに踏み込ませる効果を生んだ。マーケットメイカー型ビジネスは、在庫回転(月8回転)と適切なFMVアルゴリズムが揃えば、低マージン高頻度モデルとして十分にスケールする。
  3. フィジカル文化の儀式(Pack Rip)をデジタルで再構築することが、世代交代の橋渡しになる:Courtyardは「コレクションのDX」ではなく「Pack Ripというドーパミン体験のDX」を実装した。Vending Machineは透明な確率開示と即時換金性を備えた「公正な物理ガチャ」であり、伝統的な物理パック市場が抱える不透明性への構造的アンチテーゼとなる。日本市場におけるトレカ、フィギュア、ブラインドボックス領域でも、儀式性(開封・抽選・熱狂)を損なわずに信頼性と流動性を上書きするUXが、次世代プラットフォームの勝ち筋となる。

【出典】

監修

石田陽之(いしだあきひさ)

Cabinet株式会社 代表取締役

2017年より、一貫してトークンやNFTの活用、ブロックチェーンゲームの企画・開発、NFTを活用した事業開発に従事。大手エンタメ上場企業を始め、80件以上のブロックチェーンプロダクトに対し事業責任者や設計、PM、アドバイザー等、様々な立場でブロックチェーン関連の事業開発に関わってきた。2021年よりCabinet株式会社を創業。

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