JPYC、上限ルールを「1日」から「1回」へ──Kaia対応で韓国・台湾を視野、運用設計で踏み込む利便性向上

法改正なし、運用最適化で踏み込む利便性向上
5月15日に実施された今回のアップデートでは、発行上限を「1日あたり100万円」から「1回あたり100万円」へ変更した。「100万円」という金額自体は資金決済法(第二種資金移動業の送金上限)に基づく規制値であり動かせない。今回は法改正に伴う規制緩和ではなく、JPYC社が独自に定めていた運用ルールの見直しであり、ユーザーは1日に複数回の発行が可能となる(不正防止のため短時間連続申請は引き続き制限)。償還上限は「1日100万円」のまま据え置かれたが、これまで償還予約時に必須だったネットワーク指定が撤廃され、登録済みウォレットからであれば、どの対応チェーン経由のJPYCでも償還処理が可能となった。
4本目のレールは「アジア2.5億人」のKaia
新規対応チェーンとして加わったKaiaは、2024年8月にメインネットがローンチされた、LINEの「Finschia」とKakaoの「Klaytn」が統合したアジア発のレイヤー1である。LINE・カカオトーク合計で2.5億人超の潜在ユーザー、400以上のdApps、EVM互換のインフラを抱え、特に韓国・日本・台湾・タイで強い分布を持つ。JPYCはアジア圏でのクロスボーダー利用と、LINEエコシステム内決済UXとの接続を見据え、Ethereum・Polygon・Avalancheに続く4本目の流通レールに位置付けた格好だ。
累計発行額21億円、社会実装の加速期へ
JPYCは2025年8月に国内初の資金移動業者登録(関東財務局長第00099号)を取得し、同10月27日にJPYC EXとともに正式リリース。2026年4月15日時点の累計発行額は21億円を突破し、直近3カ月で約2.6倍に拡大した。直接アカウント開設数1.7万件に対し、保有経験のあるウォレットアドレスは13.7万件と約8倍に達し、日次資産回転率は流通額の100%超──「眠らない円」として実需が積み上がっている。4月にはメタプラネット、北洋銀行、住友生命系ファンドなどからシリーズB累計約46億円を確保。SBIホールディングス×Startaleが新生信託銀行発行で進めるJPYSC(3号電子決済手段、100万円制限なし)の2026年Q2ローンチも控え、B2C・中小企業層のJPYC/機関投資家向けのJPYSCという日本円ステーブルコイン市場の棲み分けが鮮明になりつつある中での、攻めの運用改定と言える。
【事業開発に関するインサイト】
- 「規制の天井下で運用ルールを動かす」競争優位──法改正は年単位の作業だが、運用ルールは数週間で動かせる。第二種資金移動業の「1回100万円」上限を「1日100万円」と読み替えていた運用を解除するだけで、ユーザー体験は実質的に大きく改善する。規制要件と運用設計の境界を冷静に解析し、踏み込める範囲で即実利を取る発行体が、日本の金融×ブロックチェーン領域で先行することになる。
- チェーン選定はユーザーセグメント選定──Kaia対応はテクニカルな話ではなく、「LINEとKakaoのアジア2.5億人ベースにどう接続するか」というGTM(市場参入)戦略の選択である。Web3事業者にとって対応チェーンの選定は、技術判断ではなくマーケット選定として捉え直すべきフェーズに入った。日本円ステーブルコインがアジア圏の越境決済通貨となる伏線が張られている。
- 二層化する日本円ステーブルコイン市場の構造──資金移動業型(JPYC、第二種、100万円制限)と信託型(JPYSC等、3号、上限なし)は、競合というより市場の上下分業構造として固まりつつある。リテール・少額決済はJPYC、企業間決済・トークン化資産の決済層はJPYSCへ。事業者は「自社決済フローはどちら寄りか」を、決済単価とトランザクション頻度から逆算して設計する局面にある。
【引用:出典】
- NADA NEWS「JPYC、発行上限を『1日100万円』から『1回100万円』へ──Kaiaチェーン追加も」(2026年5月16日)https://www.nadanews.com/348833/
- JPYC株式会社 公式サイト・JPYC EX https://jpyc.co.jp/
- JPYC株式会社プレスリリース「JPYCおよびJPYC EXを正式リリース」(2025年10月)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000283.000054018.html
- JPYC株式会社プレスリリース「シリーズB 2ndクローズ 28億円を追加調達」(2026年4月)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000313.000054018.html
- 日本経済新聞「金融庁、JPYCを資金移動業に登録 円建てのステーブルコイン発行へ」(2025年8月18日)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB186IJ0Y5A810C2000000/
- Impress Watch「国内初の円建てステーブルコイン『JPYC』発行開始」(2025年10月27日)https://www.watch.impress.co.jp/docs/news/2058390.html
- NRI 木内登英コラム「日本では初の円建てステーブルコインが発行へ」https://www.nri.com/jp/media/column/kiuchi/20250905_2.html
- LINE BITMAX「アジアNo.1を目指す『kaia』とは」https://linebitmax.blog.jp/archives/37812802.html
- Bybit Learn "What is Kaia Blockchain" https://learn.bybit.com/en/blockchain/what-is-kaia-blockchain
- ビジネス+IT「SBIホールディングスとスターテイル、信託型日本円ステーブルコインJPYSCを発表」(2026年2月27日)https://www.sbbit.jp/article/fj/181669
- NADA NEWS「JPYC、メタプラネットらから28億円の追加資金調達へ」(2026年4月20日)https://www.nadanews.com/345497/
石田陽之(いしだあきひさ)
Cabinet株式会社 代表取締役
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