「EJPY」発行決定──Japan Open Chainが描く"国産インフラ×信託型円ステーブルコイン"の独自路線

「自らを委託者とする信託型」という選択
EJPYは改正資金決済法における第3号電子決済手段(信託型)として設計される。日本ブロックチェーン基盤自らが委託者となり、受託者となる事業者と発行・償還、信託財産の管理、システム要件、法令対応について協議を重ね、スキーム構築に目途が立ったため正式決定に至った。今回の発表は「発行に向けた準備状況の報告」と慎重に位置付けられており、受託信託銀行名、利用可能サービス、対応する電子決済手段等取引業者は今後段階的に開示される。販売・移転・償還は電子決済手段等取引業者との連携を前提とする。
Japan Open Chainという「国産インフラ」の差別化要因
EJPYの最大の特徴は、発行基盤がJOCである点だ。JOCはEthereum完全互換のレイヤー1パブリックチェーンで、Proof of Authority(PoA)方式を採用。バリデータは電通、TIS、NTTコミュニケーションズ、ソニーグループのコーギア、みんなの銀行、ピクシブ、はてな、SBINFT、京都芸術大学など現在14社、最終的に21社体制を目指す。性能は複雑なERC20コントラクト実行で約400TPS、シンプルなトークン送金で約2000TPSと、Ethereumメインネットの15TPSの数十倍。日本法準拠運営と国内大手企業による分散性確保が、企業・自治体向けインフラとしての説得力を支える。EthereumとのマルチチェーンEJPY発行はリーチ拡大、JOCはコスト・スピード・コンプライアンス優位という棲み分けだ。
国内円ステーブルコイン「6つ目」の参入──競争構造の整理
EJPY発行決定により、国内円建てステーブルコインの陣容はJPYC(資金移動業型、JPYC社)、JPYSC(信託型、SBI×Startale×新生信託銀行、2026年Q1ローンチ予定)、Progmat Coin(信託型、三菱UFJ信託銀行ら)、DCJPY(預金トークン型、ディーカレットDCP)、3メガバンク共同SC(検討中)、そして今回のEJPY──と6者にまで広がった。スキーム別に見ると、リテール少額決済の資金移動業型と、企業間・機関投資家向けの信託型/預金トークン型に大別される。EJPYはこの中で「ブロックチェーンインフラ企業が自ら委託者となる信託型」という、金融機関主導の他案件とは異なる独自の立ち位置を取る。
【事業開発に関するインサイト】
- 「自社チェーン×自社ステーブルコイン」垂直統合の戦略意義──JOCが直面していた最大の課題は、コンプライアンス対応の堅さと裏腹に「実需トランザクションの薄さ」だった。EJPY発行により、JOCは単なる技術基盤から「実際の価値移転が起きる決済インフラ」へと進化する。インフラ事業者にとって、自前のステーブルコインを発行できるかどうかは、エコシステム上のトランザクション創出能力を決定づける。Web3インフラ提供企業は、ステーブルコイン発行戦略をプラットフォーム戦略と一体で設計すべきフェーズに入った。
- 「金融機関主導」と「ブロックチェーン企業主導」の信託型対決構図──JPYSC(SBI×新生信託銀行)、Progmat Coin(三菱UFJ信託銀行)が金融機関主導であるのに対し、EJPYはブロックチェーンインフラ企業が委託者となる構造だ。金融機関の信認と銀行ネットワーク利点を持つ前者と、Web3エコシステム親和性・dApps連携優位を持つ後者は、別々の顧客層を取りに行くことになる。事業者は「自社の決済フローがどちらの世界観に近いか」で接続先を選定する必要がある。
- 「準備段階発表」というステーブルコイン業界特有の情報開示作法──EJPY発表は受託信託銀行名さえまだ非公表で、極めて慎重な「準備状況の報告」とされている。これは規制との並走を要するステーブルコイン事業の特性を反映している。マーケティング面では早期発表で市場ポジショニングを取りつつ、規制対応では段階開示で炎上リスクを回避する──このバランスは、Web3×金融領域に参入する企業全般が学ぶべき情報戦略である。
【引用:出典】
- NADA NEWS「日本ブロックチェーン基盤、信託型の日本円ステーブルコイン『EJPY』発行へ」(2026年5月13日)https://www.nadanews.com/348346/
- 日本ブロックチェーン基盤公式リリース「信託型日本円建てステーブルコイン『EJPY』を発行へ」(2026年5月13日)https://www.jbfd.org/news/joc-ejpy
- PR TIMES「日本ブロックチェーン基盤、信託型日本円建てステーブルコイン『EJPY』を発行へ」https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000059.000117597.html
- Japan Open Chain公式サイト https://www.japanopenchain.org/
- Japan Open Chain公式ドキュメント「JOCプロジェクトについて」https://www.japanopenchain.org/docs/
- あたらしい経済「日本ブロックチェーン基盤、信託型の円ステーブルコイン『EJPY』発行へ」(2026年5月13日)https://www.neweconomy.jp/posts/573028
- JinaCoin「日本円ステーブルコイン競争が激化──JOC『EJPY』発行へ」(2026年5月13日)https://jinacoin.ne.jp/joc-ejpy-20260513/
- Bittimes「信託型円ステーブルコイン『EJPY』国産チェーンJOCで発行へ」https://bittimes.net/news/222967.html
- ビジネス+IT「SBIホールディングスとスターテイル、信託型日本円ステーブルコインJPYSCを発表」(2026年2月27日)https://www.sbbit.jp/article/fj/181669
- CoinDesk Japan「Japan Open ChainのバリデータにNTTコミュニケーションズが参画」https://www.coindeskjapan.com/178939/
石田陽之(いしだあきひさ)
Cabinet株式会社 代表取締役
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