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Fireside Crypto
2026年06月23日

「ファイルではなく事実を証明する」——Starknetが描く規制対応プライバシーの技術構造と金融機関へのインパクト

「ファイルではなく事実を証明する」——Starknetが描く規制対応プライバシーの技術構造と金融機関へのインパクト

何が発表されたのか

StarkWare(Layer2「Starknet」の開発主体)は2026年6月23日、「Private KYC」のデモを公開した。これは、利用者がパスポート等の全情報を渡すことなく、「18歳以上である」「有効な資格を持つ」といった特定の事実だけを証明してKYC(本人確認)要件を満たす仕組みだ。これは単発の機能ではなく、同社が今年立て続けに投入してきたプライバシー基盤の一環である。3月に発表され6月に本稼働した「STRK20」、その第1号資産である「private Bitcoin(strkBTC)」、そしてEYが開発した機関向けプライバシー層「Nightfall」のStarknet展開と、一連の流れの最新ピースにあたる。

技術アーキテクチャ:ゼロ知識証明と選択的開示

基盤となるのはStarknet固有のzk-STARK証明とCairoベースのスマートコントラクトである。STRK20は、あらゆるERC-20トークンに「秘匿残高」「秘匿送金」「公開状態と秘匿状態の相互移行」を付与する仕組みだ。利用者は共有のプライバシープールに資産を入れて取引し、必要時に引き出す。ゼロ知識証明が「残高や取引履歴を露出させずに、各処理がネットワークのルールに従っていること」を証明する。重要なのは、これがミキサー(資金洗浄に悪用されがちな混合サービス)とは異なる点だ。秘匿化を資産本来の動きの中に組み込むことで流動性を分断せず、かつ各参加者は暗号化された「ビューイングキー」を登録する。正当な法的・規制上の要請があった場合に限り、監査人がこの鍵で特定利用者の活動を再構築できる。

Private KYCの仕組み

Private KYCはこの選択的開示の思想を本人確認に適用したものだ。利用者はスマホのカメラとNFCチップでパスポートを読み取り、発行当局の署名と真正性を確認する。次に本人確認データを自身のStarknetウォレットに暗号化して保持し(セルフカストディ)、属性をオンチェーンの公開レジストリに登録する。検証者は、生データを一切見ることなく、レジストリ上の証明だけを照合して適格性を確認する。StarkWareはこれを「ファイルではなく事実を証明する(Prove the fact, not the file)」と表現する。「あらゆる本人確認データベースは、存在した瞬間に負債になる」という問題意識が背景にある。なお現時点ではデモ(概念実証)段階であり、本格展開の時期は未定だ。

金融機関にとってのプライバシーの意味

パブリックブロックチェーンは、ポジション、取引相手、運用戦略までを誰の目にもさらす。これはコンプライアンス上もさることながら、競争上の致命的な弱点であり、機関投資家の参入を阻んできた最大の要因だ。StarknetはEYが開発したNightfallをLayer3として展開し、企業のトレジャリー業務、トークン化資産の取引、機関対パブリックの流動性供給を、データ漏洩を抑えつつ実現する経路を用意した。ビューイングキーによる選択的開示は、完全匿名とは異なり監査証跡を残すため、規制当局への対応と秘匿性を同時に成立させる。StarkWare共同創業者でZcashの暗号設計にも関与したEli Ben-Sasson氏は「プライバシーは市場参加の根源的な要件だ」と述べる。プライバシーを「規制リスク」ではなく「規制適合の手段」へ転換させる試みといえる。

【事業開発に関するインサイト】

  1. プライバシーは機関投資家オンチェーン化の「最後の障壁」を外す決定打になり得る。ポジションや取引相手、独自戦略の露出は、コンプライアンス上の懸念以上に競争上の脅威として機関の参入を阻んできた。選択的開示によって秘匿性と監査対応を両立させる設計は、EYのNightfallという信頼できる参照点とともに、TradFi資本のオンチェーン移行を後押しする触媒になる。
  2. 「データを集めないKYC」は、コンプライアンスコストとセキュリティ負債を構造的に削減する。本人確認データベースは保有した瞬間から攻撃対象かつ法的負債となる。Private KYCのように検証を「必要な一事実」に限定する仕組みは、金融機関のKYC運用・保管コスト・漏洩リスクを根本から組み替える可能性を持ち、本人確認のアウトソーシングや認証基盤の設計を巡る新たな事業領域を生む。
  3. ビューイングキー型の「規制対応プライバシー」が、業界標準を握る競争軸になる。匿名性を売りにするミキサーが規制で排除されてきた一方、監査証跡を残す選択的開示は当局との対話に乗せやすい。この設計を早期に金融機関のワークフロー(決済、トークン化資産、Bitcoin担保運用)へ統合できた基盤が、機関向けオンチェーン金融のデファクトを獲得する公算が大きい。

【引用:出典】

監修

石田陽之(いしだあきひさ)

Cabinet株式会社 代表取締役

2017年より、一貫してトークンやNFTの活用、ブロックチェーンゲームの企画・開発、NFTを活用した事業開発に従事。大手エンタメ上場企業を始め、80件以上のブロックチェーンプロダクトに対し事業責任者や設計、PM、アドバイザー等、様々な立場でブロックチェーン関連の事業開発に関わってきた。2021年よりCabinet株式会社を創業。

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