レポート一覧に戻る
トークン化資本市場
RWA
機関金融の決済レイヤー
規制・法律
機関投資家
2026年07月15日

ウォール街の「配管」がブロックチェーン化——DTCC、トークン化証券の本番取引を開始した歴史的一日の全貌

ウォール街の「配管」がブロックチェーン化——DTCC、トークン化証券の本番取引を開始した歴史的一日の全貌

DTCCとは何か:1日で兆ドル単位を処理する「見えない中枢」

DTCC(米国証券保管振替機関)は、米国の証券取引の裏側で清算・決済・保管を担う市場インフラで、2025年には総額4,700兆ドル(4.7 quadrillion)の証券取引を処理し、保管資産は114兆ドルに上る。この「ウォール街の配管」が自らブロックチェーン基盤のトークン化サービスを本番稼働させた意味は大きい。7月15日、DTCCは「DTCトークン化サービス」の限定的な本番取引を実施し、10月の本格提供開始に先立つ実証を完了した。参加は約40社で、より広い業界ワーキンググループにはBlackRock、Goldman Sachs、Morgan Stanley、Nasdaqなど50社超が名を連ねる。

何が行われたか:QQQのトークン化とCME証拠金の歴史的受入れ

当日はユースケースごとに実取引が行われた。JPMorgan ChaseはナスダックのETFであるInvesco QQQ Trustの保有分の一部をトークン形式に変換した。トークン化後も従来形式の証券へいつでも戻せる双方向変換が特徴だ。Vanguardはトークン化株式同士の交換、Citadel SecuritiesとAlpacaは現物株式のトークン化ポジションへの変換、BNP Paribas等はトークン化資産の担保差し入れを実施した。特筆すべきは、JPMorganが世界最大のデリバティブ取引所CMEグループの証拠金請求(マージンコール)にトークン化資産で応じた点で、中央清算機関がトークン化担保を受け入れた初の事例となった。対象資産はQQQのほか、SPDR S&P500 ETF、Microsoft株、Circle株、米国債と幅広い。

「ラップ型」との決定的な違い:権利を保持したままの真正トークン化

海外で先行する株式トークンの多くは、価格連動のみを目的とする「ラップ型(ラッパー)」で、議決権や配当請求権は保持者に及ばないことが多い。DTCC方式は、DTCが保管する証券そのものをトークン化するため、所有権・配当・議決権など従来証券と同等の権利がトークンに引き継がれる。基盤にはHyperledger BesuベースのシステムやCanton Networkを利用し、5月にはChainlinkの実行環境を担保管理システムに統合済みだ。ただし稼働環境は許可型(パーミッションド)であり、Ethereum上のDeFiプロトコルとの直接接続は想定されていない。この点は、公開チェーン上でトークン化商品を展開するOndo Finance等との構造的な違いである。

規制の裏付けと10月への道筋

本番取引が可能になった背景には、2025年12月に米SECがDTCの保管証券のトークン化サービスに対し3年間のノーアクションレター(不作為確約)を発行し、規制上の道筋を整えたことがある。つまり今回はサンドボックス実験ではなく、規制された本番業務としての稼働だ。DTCCは10月にサービスの対象参加者と資産クラスを拡大する計画で、取引時間の拡大、決済の迅速化、担保として固定されている流動性の有効活用が期待される。同日にはOndoがDTC保管証券ベースのトークン化で協業を発表し、13日には英国政府が54社によるトークン化タスクフォースを立ち上げるなど、各国で「規制インフラ発」のトークン化が同時進行している。

【事業開発に関するインサイト】

  1. 「インフラ主導」のトークン化が競争のルールを変える:公開チェーン上のラップ型トークンで先行してきた事業者は、DTCCのような既存インフラが完全な権利を保持する真正トークン化を提供し始めたことで、差別化の再定義を迫られる。日本でも保振(JASDEC)や日証クリアリング機構が同様の動きに出るかが、国内トークン化ビジネスの前提を左右する。
  2. 担保・レポ市場が最初の収益化領域:CMEによるトークン化証拠金の受入れは、24時間動く担保モビリティという機関投資家の実需を証明した。日本の金融機関にとっては、クロスボーダーの担保管理・レポ取引の効率化が、トークン化の投資対効果を最も説明しやすいユースケースであり、海外CCPとの接続要件の調査を先行させる価値がある。
  3. SECのノーアクションレター方式は日本の制度設計の参照モデル:法改正を待たず3年間の限定的な確約で本番稼働を可能にした米国の手法は、日本の金商法改正後の細則整備において、サンドボックスと本則の中間にある「時限的な本番許容」の設計として参考になる。当局対応の知見を持つ事業者には制度対話への参画機会がある。

【引用:出典】

監修

石田陽之(いしだあきひさ)

Cabinet株式会社 代表取締役

2017年より、一貫してトークンやNFTの活用、ブロックチェーンゲームの企画・開発、NFTを活用した事業開発に従事。大手エンタメ上場企業を始め、80件以上のブロックチェーンプロダクトに対し事業責任者や設計、PM、アドバイザー等、様々な立場でブロックチェーン関連の事業開発に関わってきた。2021年よりCabinet株式会社を創業。

免責事項

本レポートは、暗号資産および関連市場に関する情報提供のみを目的として作成されたものであり、特定の暗号資産の購入、売却、保有その他一切の取引行為を推奨・勧誘するものではありません。また、金融商品取引法その他の関連法令に定める投資助言、投資勧誘、または金融商品の販売・媒介に該当するものではなく、税務・法務・会計上の助言を構成するものでもありません。

本レポートに記載された情報は、作成時点において信頼できると判断した情報源に基づいておりますが、その正確性、完全性、最新性、有用性等について当社は何ら保証するものではありません。暗号資産は価格変動が大きく、元本の毀損その他の損失が生じるリスクを伴います。投資判断は、利用者ご自身の責任と判断において行っていただくものとし、本レポートの利用に起因して生じたいかなる損害についても、当社は一切の責任を負いかねます。

ブロックチェーン新規事業のご相談

Cabinetでは、アイデア段階からの壁打ち、技術検証(PoC)、そして実装・運用まで一気通貫で伴走する事業開発コンサルティングを提供しています。まずはお気軽に無料相談をご利用ください。

ニュースレターに登録する

本レポートに掲載した内容に加え、業界の最新情報・未公開レポートをメールでお届けします。