Base、「ソーシャル」から「グローバル金融」へ——責任者が戦略の誤りを公式に認めた異例の方向転換を読む

何が起きたのか:トップ自らの「敗北宣言」と組織再編
ポラック氏はXへの長文投稿で、2024〜2025年の戦略が「ビルダー(開発者)への賭け」と「オンチェーンソーシャルへの賭け」の2本柱だったと振り返り、「ビルダーへの賭けは正しかったが、ソーシャルへの賭けは明らかに間違っていた」と総括した。同氏が推進してきたFarcaster(分散型SNS)、Zora、ミニアプリ、クリエイターコインといったオンチェーンソーシャル市場は「完全に崩壊した」と述べ、2026年第1四半期を「顔面へのパンチだった」と表現。コンテンツコインについては「私が間違っていた。申し訳ない」と謝罪までしている。組織面では、ウォレット・取引・ソーシャル機能を備えた消費者向けアプリ「Base App」の運営をCoinbase本体へ戻し、著名暗号資産投資家のCobie(ジョーダン・フィッシュ)氏が責任者に就く。同氏は昨年Coinbaseが約3億7,500万ドルで買収した資金調達プラットフォームEchoの創業者だ。ポラック氏自身はBaseチェーンの責任者として留任し、開発者支援に「100%集中する」としている。
なぜ間違ったのか:金融ユースケースの急伸を過小評価
ポラック氏の分析はこうだ。ソーシャルが普及の入り口になるという想定に反し、実際に暗号資産採用の次の波を生んだのは、ステーブルコイン、予測市場、パーペチュアル(無期限先物)、トークン化といった金融サービスだった。そしてソーシャルへの注力の代償として、Baseはパーペチュアルや予測市場で競合チェーンに後れを取り、企業のトークン化・決済利用の面でも改善余地を残した。皮肉なことに、Base上では予測市場Limitlessが月間取引高16億ドル規模へ急成長するなど金融アプリの成功例が生まれており、エコシステムの実需が本体の戦略を追い越した格好だ。CoinbaseのブライアンアームストロングCEOもコンテンツコインが定着しなかったことを認めている。ただしポラック氏は、この失敗が「タイミングの問題か、戦略自体の誤りかは時間が経たなければ分からない」と留保も付けている。
新戦略:「世界の資金が決済される場所」を目指す
今後のBaseは「グローバル金融のためのブロックチェーン」を長期目標に掲げ、「今後100年にわたり世界の資金が決済される場所になる」と宣言した。2026年の重点3領域は、(1)取引(トークン化株式からミームコインまであらゆる資産の取引)、(2)決済(ステーブルコイン決済)、(3)エージェント(AIエージェントによる自律的な金融活動)である。「より良いお金というだけで10億人をオンチェーンに連れて来られる」というのが新しい賭けだ。発表の直前週には、Robinhoodが株式取引を前面に出した独自のEthereumレイヤー2をローンチしており、ポラック氏はRobinhoodやStripeとの競争を「歓迎する」と述べた。汎用チェーン同士の競争は、金融特化という同じ土俵での正面衝突に移りつつある。
業界への含意:「SocialFiの冬」と機関化の加速
今回の転換は一企業の戦略修正にとどまらない。暗号資産業界全体が、コンシューマー向けソーシャル・コンテンツ路線から、トークン化・ステーブルコイン・デリバティブという機関投資家親和的な路線へ重心を移す大きな流れの、最も率直な言語化である。DTCCの本番稼働やSBI×Ondo提携など、伝統金融の中枢がトークン化に参入する動きと、Baseの方向転換は同じ潮流の表と裏と言える。
【事業開発に関するインサイト】
- チェーン選定の評価軸は「ソーシャル熱量」から「金融インフラ適性」へ:日本企業がWeb3施策でチェーンを選ぶ際、これまで重視されがちだったコミュニティの盛り上がりよりも、決済・トークン化・規制対応の実装力が問われる局面に入った。Baseの転換は、NFT・ファンコミュニティ型施策の再評価と、決済・金融型ユースケースへの予算シフトを促す判断材料になる。
- 「エージェント」枠は日本勢にとって先行余地のある空白地帯:Baseが重点に掲げたAIエージェント×金融は、規格・ユースケースとも黎明期にある。決済事業者や金融機関がエージェントによる自動決済・自動運用の実証を早期に始めれば、チェーン側(Base、Ethereum本体等)との共同事例として国際的な可視性を獲得しやすい。
- 失敗の公開自体がエコシステム戦略である点に学ぶ:トップが誤りを認めて資源配分を素早く組み替える姿勢は、開発者の信頼維持とナラティブの主導権確保を両立させる手法として機能している。日本企業のWeb3事業でも、撤退・転換の意思決定と対外発信を一体で設計することが、長期のエコシステム内での信用形成につながる。
【引用:出典】
- あたらしい経済「イーサL2『Base』責任者、オンチェーンソーシャル戦略の誤り認める」 https://www.neweconomy.jp/posts/592844
- ジェシー・ポラック氏X投稿(2026年7月15日・16日) https://x.com/jessepollak/status/2077427261586997745 / https://x.com/jessepollak/status/2077550728416256489
- CoinDesk「Coinbase's Jesse Pollak steps back from Base app leadership after admitting his crypto social strategy failed」 https://www.coindesk.com/business/2026/07/15/coinbase-s-jesse-pollak-steps-back-from-base-app-leadership-after-admitting-his-crypto-social-strategy-failed
- The Block「Coinbase's Jesse Pollak hands Base app leadership to Cobie after admitting social bets fell short」 https://www.theblock.co/post/408504/coinbases-jesse-pollak-hands-base-app-leadership-cobie-social-bets-fell-short
- Decrypt「Base Creator Jesse Pollak Steps Back From App Leadership After Admitting Social Bet 'Was Wrong'」 https://decrypt.co/373574/base-jesse-pollak-steps-back-social-bet-wrong
- Blockonomi「Base Blockchain Abandons Social Strategy After Admitting Failure」 https://blockonomi.com/base-blockchain-abandons-social-strategy-after-admitting-failure
石田陽之(いしだあきひさ)
Cabinet株式会社 代表取締役
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