CLARITY法案、争点は「成立するか」から「どう成立するか」へ──倫理規定を巡る攻防と8月7日の期限

議論の構図が変わった
エックスウィンのアメリカマーケットリサーチアナリスト、デリア・ロホ氏はサンフランシスコ発のレポートで、CLARITY法案を巡る議論の質的変化を指摘した。数週間前までの市場の関心は「いつ成立するか」だったが、現在の焦点は「どのような内容で成立するか」に移ったという。重要なのは、「民主党は反対、共和党は賛成」という単純な党派対立の構図が崩れていることだ。暗号資産を支持する民主党議員でさえ、法案そのものには賛成しながら、現行案には修正が必要だという姿勢を強めている。SEC、CFTC、財務省、両党のいずれも「市場構造法そのものは必要」という認識では一致しており、対立しているのはルールの中身だけである。数年前の「暗号資産をどう規制するか」という議論から、「どのようなルールで市場を育てるか」という議論への転換は、市場の成熟を示す変化だとロホ氏は分析する。
民主党が求める三つの修正
民主党が重視する論点は三つある。第一は倫理規定だ。大統領や政府高官、議員本人とその家族が暗号資産事業から不当な利益を得ないよう、厳格な利益相反ルールを求めている。背景にはトランプ大統領と暗号資産業界の関係があり、「制度を作る政治家自身が、その制度から利益を受けてはならない」という原則論である。第二は違法金融(Illicit Finance)対策で、マネーロンダリング、制裁逃れ、テロ資金供与への悪用防止の仕組みを法案に組み込むことを求めている。第三は消費者保護で、必要性自体は両党が一致するものの、保護の強度で温度差が残る。
実際の交渉も緊迫している。共和党のシンシア・ルーミス上院議員は7月22日、大統領を含む連邦公職者による営利目的のデジタル資産の発行・支援を禁じる倫理条項を盛り込んだ改訂草案を公表した。これに先立ち、トランプ大統領が倫理条項の受け入れを承認したとの報道もあった。しかし同日、オルソブルックス、ブッカー、コルテス・マスト、ガレゴ、ヒッケンルーパー、ワーナー、ウォーノックの民主党7議員が共同声明を発表し、改訂草案は公職者倫理、消費者保護、違法金融対策、利益相反、市場健全性の各論点で「不十分」だと批判した。この7議員は法案成立に必要な中核交渉役であり、うち2名は委員会採決で賛成票を投じた経緯がある。エリザベス・ウォーレン上院議員はさらに踏み込み、改訂版の倫理規定を骨抜きと断じて廃案を要求した。一方で7議員は交渉打ち切りには踏み込まず、協議継続の方針を示している。
60票の壁と時間切れリスク
上院の通常手続きでは討論終結に60票が必要で、共和党単独では成立させられない。共和党53議席が全員賛成しても民主党側から最低7票が必要であり、7月11日のリンジー・グラハム上院議員の急死などで共和党側の票読みにも不確実性が加わった。上院は8月7日以降夏季休会に入るため、残された時間は極めて少ない。ギャラクシー・リサーチは2026年中の成立確率を30%に引き下げ、予測市場Polymarketでも年内署名の確率は40%台前半まで低下した。法執行機関の間でも評価は割れており、全米警察友愛会が支持を表明する一方、全米保安官協会などはDeFi関連条項がマネーロンダリング監視の抜け穴になると懸念を示す。ロホ氏は、数週間の遅延自体は重要ではなく、米国が暗号資産市場を正式な金融インフラとして整備する方向性を維持していることこそが本質だと強調する。今後の注目点として、倫理規定を巡る両党の妥協点、違法金融対策の条文への反映、上院本会議の日程確定、SECとCFTCの役割分担の整理の四つを挙げた。
日本への含意
この法案は米国内の話にとどまらない。EUではMiCA規制が2026年7月1日に全27加盟国で完全施行され、シンガポール、香港、アブダビもライセンス制度を進めている。日本では改正金商法が7月15日に成立し、暗号資産の金商法移管が決まったばかりだ。米国の市場構造法がどのような形で決着するかは、日本で議論される暗号資産ETF、RWA、DeFi、オンチェーン金融の制度設計の参照点となる。CLARITY法案は「世界の暗号資産市場のルール作り」の中心にある。
事業開発インサイト
- 制度の「内容」を先読みする段階に入った。成立の有無を占う局面は終わり、倫理規定・違法金融対策・消費者保護がどの水準で条文化されるかが実務の焦点になる。特に違法金融対策は、AML/KYC・トランザクション監視・制裁スクリーニングといったコンプライアンス技術の需要を直接押し上げる。日本企業がこの領域のツールやサービスを持つ場合、米国法制化はそのまま市場拡大機会であり、条文確定を待たずに米国パートナーとの関係構築を始める価値がある。
- 「規制対応力」自体が競争優位になる。CLARITY法案とMiCA、日本の改正金商法により、主要法域の制度が2026〜2027年に出揃う。複数法域のルールに同時適合できる体制を持つ事業者と持たない事業者の差は、ライセンス取得速度と機関投資家からの信頼の両面で拡大する。BitMEXの退場が示したように、規制コストを賄えない中間規模プレーヤーは淘汰される。提携・投資判断では、相手の規制対応の成熟度を技術力と同等の評価軸に置くべきだ。
- 政治リスクの構造を理解した情報設計が必要になる。本件の最大の対立点は技術でも市場でもなく、大統領自身の暗号資産事業という固有の政治要因である。つまり法案の帰趨は業界の実力と無関係に政治日程(8月休会、11月中間選挙)で決まり得る。米国展開を検討する日本企業は、「成立シナリオ」と「2027年以降へのずれ込みシナリオ」の両にらみで計画を組み、SEC・CFTCの現行執行方針という「法律なき現状」でも動ける設計にしておくことがリスク管理上重要だ。
出典
- NADA NEWS「CLARITY Actは新たな局面へ。民主党が求める『修正』とは何か【サンフランシスコ レポート】」 https://www.nadanews.com/360892/
- CoinDesk「Key Democratic lawmakers say crypto Clarity Act 'falls short' on ethics, other issues」 https://www.coindesk.com/policy/2026/07/22/key-democratic-lawmakers-say-crypto-clarity-act-falls-short-on-ethics-other-issues
- CNBC「Senate crypto bill would ban federal officials from issuing digital assets」 https://www.cnbc.com/2026/07/22/senate-crypto-bill-would-ban-federal-officials-from-issuing-digital-assets.html
- Forbes「Senate Unveils New Clarity Act Text As Ethics Deal Sparks Fresh Debate」 https://www.forbes.com/sites/digital-assets/2026/07/24/mixed-reactions-to-new-crypto-clarity-act-text--ethics-clause/
- PYMNTS「Clarity Act Supporters Add Ethics Rules for Officials to Save Senate Bill」 https://www.pymnts.com/cryptocurrency/2026/clarity-act-supporters-add-ethics-rules-for-officials-to-save-senate-bill/
- bloomingbit「米クラリティ法案の票読み混迷 共和2票不透明で民主7~9票が焦点」 https://jp.bloomingbit.io/feed/news/116373
- ビットタイムズ「クラリティ法案『倫理規定は骨抜き』 民主ウォーレン氏が廃案を要求」 https://bittimes.net/news/225894.html
- CoinPost「米クラリティー法案、年内成立の確率が30%まで低下=ギャラクシー・リサーチ」 https://coinpost.jp/?p=727266
- CoinPost「米上院版クラリティー法案、7民主党議員が反対 全米警察友愛会は支持」 https://coinpost.jp/?p=727262
- Tech Times「White House Claims Historic CLARITY Act Ethics Deal; Democrats Haven't Seen It」 https://www.techtimes.com/articles/321254/20260722/white-house-claims-historic-clarity-act-ethics-deal-democrats-havent-seen-it.htm
- CRYPTO TIMES「CLARITY法案に暗雲、民主7議員が拒否|60票の確保が困難に」 https://crypto-times.jp/news-storm-clouds-gather-over-clarity-bill-seven-democratic-lawmakers-refuse-to-back-it/
石田陽之(いしだあきひさ)
Cabinet株式会社 代表取締役
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