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2026年09月04日

5万円の日本酒に開封検知タグを付ける ― 白鶴酒造の狙いは偽造対策だけではない

5万円の日本酒に開封検知タグを付ける ― 白鶴酒造の狙いは偽造対策だけではない

導入の中身

SBIトレーサビリティは8月31日、同社のトレーサビリティ・サービス「SHIMENAWA(しめなわ)」が白鶴酒造に導入されたと発表した。対象は「超特撰 白鶴 天空 袋吊り 純米大吟醸」の山田錦と白鶴錦の2種類で、いずれも720ml、参考小売価格は税別5万円(約320米ドル相当、1ドル155円換算)である。白鶴として初の精米歩合29%を採用し、圧力をかけずに自然に滴る雫のみを集める袋吊り製法で仕上げた、「天空」ブランドの最上位商品にあたる。9月4日から全国で発売された。仕組みは、瓶の封緘紙の裏面に開封検知機能付きNFCタグを組み込むというもので、消費者は専用アプリを用意することなく、スマートフォンをかざすとデジタル署名が表示され、正規品であることと開封の有無を確認できる。表示言語は日本語、英語、中国語(繁体・簡体)の4種に対応しており、輸出を前提とした設計であることが読み取れる。タグを通じたアクセス情報はブロックチェーン上に記録・管理される。

「正規流通の可視化」という言葉が意味するもの

プレスリリースを読むと、課題認識は偽造品だけに置かれていない。近年の日本酒の海外需要拡大に伴う偽造品・不正流通への対応に加えて、購買後の消費行動データが十分に取得できていないこと、海外の飲食店や酒販店における商品取り扱いの実態が把握できていないことが、継続的な課題として明記されている。同社が過去に手がけた案件からも、この構図は裏付けられる。刃物メーカーの藤次郎への導入では、模倣品対策に加えて、本来販売されるはずのない安売り店で商品が流通していることがブランド毀損につながるという問題意識が導入の契機になったと同社担当者が説明している。つまりSHIMENAWAが提供しているのは、真贋判定の技術であると同時に、メーカーが直接視認できない海外流通の実態を把握する仕組みである。「正規流通の可視化」という表現には、並行輸入や意図しない販売チャネルへの流出を捕捉するという意味が含まれている。消費者向けの真贋確認機能は入口であって、事業者側の価値はその先の流通データにあると理解するのが正確だろう。

技術構成 ― パーミッションド型という選択

技術面での特徴は基盤の選択にある。SHIMENAWAは、企業間取引を想定して設計されたエンタープライズ向けブロックチェーンであるCorda(コルダ)を採用している。Cordaは350社を超える金融機関、規制当局、中央銀行、システムベンダから成るコンソーシアムで開発された基盤で、SBIグループはSBI R3 Japanを通じて国内展開を担ってきた。パブリックチェーンではなくパーミッションド型を選んでいる点は、この用途の性格をよく示している。消費者に必要なのは所有権の移転可能性ではなく記録の改ざん困難性であり、事業者にとっては流通データの機密性が重要になる。開発体制は、トレーサビリティ・アプリケーションをdigglue、消費者向けアプリケーションをIT FORCEが担い、専用のロゴ入りNFCタグはUni Tagとの共同開発である。SBIトレーサビリティ自体はSBIホールディングスの100%子会社で、2021年4月設立、資本金1億円という規模である。同社は「獺祭」の旭酒造、「作」の清水清三郎商店、「錦鯉」の今代司酒造といった酒蔵に加え、刃物やジュエリーへも導入実績を広げており、利用料率は対象商品の売上規模に応じて設定するとしている。

数字で見る文脈と、次の接続先

背景となる市場環境を数字で押さえておきたい。日本酒造組合中央会によれば、2025年の日本酒輸出は金額ベースで前年比5.5%増の458.8億円、数量ベースで8.0%増の3万3,500キロリットルとなり、輸出先は過去最多の81か国・地域に広がった。注目すべきは単価で、1リットルあたりの平均輸出金額は1,368円と、10年前の771円から約1.8倍に上昇している。香港、シンガポール、マカオでは2,000円を超え、首位の中国も1,998円である。今回の「天空 袋吊り」は720mlで税別5万円、1リットル換算で約6万9,000円であり、平均輸出単価のおよそ50倍にあたる。この価格帯の商品にとって、真贋を証明できないことの機会損失は、タグと基盤の導入コストを容易に上回る。もう一つ見落とせないのが、この取り組みの延長線上にある構想である。SBIトレーサビリティは2023年1月から、Progmatが主催する「デジタルアセット共創コンソーシアム」(会員282組織)のRWAトークンワーキング・グループに参画し、SHIMENAWAと連携したトークンビジネスのスキーム構築を共同検討してきた。2025年1月に公表された検討結果では、商品化後の現物資産と1対1で紐づけたトークンについて、所有権と寄託者の地位をトークンに表章し、トークンの移転が民法上の「指図による占有移転」および地位の移転として成立するよう、利用規約の策定と技術的措置を講じる必要があるとの整理が示されている。つまりNFCタグとブロックチェーンによる現物とデジタルの紐付けは、将来的に現物資産トークンの前提インフラとして位置づけられている。

事業開発インサイト

  1. 真贋証明は入口であり、収益の源泉は流通データにある。消費者が得るのは「本物である」という一回きりの確認だが、メーカーが得るのは、どの国のどの店舗でいつ開封されたかという継続的なデータである。日本の金融機関が地域産品の海外展開支援や事業性評価にこの種の仕組みを組み込む場合、ソリューションを真贋対策として売るのではなく、輸出先での実売動向を可視化する経営情報基盤として位置づけたほうが、顧客企業にとっての価値提案が明確になる。逆に言えば、データが十分に集まらない販売規模の商品では投資回収が難しく、導入対象は高単価品または大量流通品に二極化する。
  2. 用途に応じたチェーン選択の実例として参照価値が高い。本件がパブリックチェーンではなくCordaを採用していることは、「ブロックチェーン=パブリック」という単純化への反証になる。求められているのが記録の改ざん困難性と関係者間での共有であって、無許可の第三者による自由な移転や検証ではない以上、パーミッションド型が合理的である。金融機関が事業会社にブロックチェーン活用を提案する際、資産の移転可能性が要件に含まれるかどうかを最初の分岐点に置く整理は、そのまま応用できる。
  3. 動産トークン化の前提条件が、物理タグ側で先に整備されつつある。Progmatとの共同検討が示したのは、現物資産と1対1で紐づくトークンを成立させるには、トークン移転が民法上の占有移転として構成される必要があるという点である。この構成が機能するためには、そもそもトークンと現物が確実に紐づいていなければならず、その紐付けを担保するのが開封検知タグである。熟成酒やウイスキー、時計といった動産のトークン化を検討する事業者にとって、法的スキームの設計と同等かそれ以上に、物理的な結節点の信頼性が律速条件になる。すでに実装が進んでいる真贋証明タグの導入実績は、この分野での参入可否を左右する資産になりうる。

出典

事業構想オンライン「SBIトレーサビリティと白鶴酒造、NFCタグとブロックチェーンで日本酒の真贋確認 高級純米大吟醸に導入」2026年8月31日 https://www.projectdesign.jp/articles/news/ceac55cf-5fdc-43fb-9507-cd214e957153 PR TIMES/SBIトレーサビリティ「白鶴酒造株式会社が高級日本酒ブランドの価値保護に向けて、SBIトレーサビリティの『SHIMENAWA(しめなわ)』を導入」2026年8月31日 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000047.000100112.html SHIMENAWA サービスサイト https://service.sbi-shimenawa.com/ SBIトレーサビリティ「ブロックチェーン基盤のCorda(コルダ)を活用したトレーサビリティ・サービス『SHIMENAWA』の開発について」2021年9月27日 https://www.sbitraceability.co.jp/news/news_20210927_02.html 白鶴酒造 公式オンラインショップ「超特撰 白鶴 天空 袋吊り純米大吟醸 山田錦 720ml」 https://www.e-hakutsuru.com/products/19440 nomooo「【精米歩合29%!】『超特撰 白鶴 天空 袋吊り 純米大吟醸(山田錦/白鶴錦)』新発売」2026年8月 https://www.nomooo.jp/article/2026/08/29/18849.html SBIホールディングス「トレーサビリティ基盤『SHIMENAWA(しめなわ)』と連携した"RWAトークン"検討結果の公表」2025年1月22日 https://www.sbigroup.co.jp/news/pr/2025/0122_15194.html Progmat 齊藤達哉「【速攻解説】商品の海外展開を加速させる『トレーサブルなRWAトークン』って、なんなの?」2025年 https://note.com/tatsu_s123/n/ne4173bf52072 nippon.com「日本酒輸出459億円―2025年実績:金額トップは中国、フランスや韓国など過去最高更新」2026年2月 https://www.nippon.com/ja/japan-data/h02706/ PR TIMES/日本酒造組合中央会「2025年度日本酒輸出実績は金額・数量共に前年度越え」2026年2月 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000104.000083559.html WEB3地方創生ねっと「『日本の本物を、正当な価格で世界へ』SBIトレーサビリティが語る、熱い想いと導入事例」2025年12月 https://www.web3-chihou-sousei.net/interview/shimenawa-2/ SBI R3 Japan「サプライチェーンにおける活用事例」 https://sbir3japan.co.jp/usecases/supplychain-cases/

監修

石田陽之(いしだあきひさ)

Cabinet株式会社 代表取締役

2017年より、一貫してトークンやNFTの活用、ブロックチェーンゲームの企画・開発、NFTを活用した事業開発に従事。大手エンタメ上場企業を始め、80件以上のブロックチェーンプロダクトに対し事業責任者や設計、PM、アドバイザー等、様々な立場でブロックチェーン関連の事業開発に関わってきた。2021年よりCabinet株式会社を創業。

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